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第50話 勇者パーティーの崩壊⑫


 四皇将の出現により野次馬たちが集まってくる。

 身の程を弁えない冒険者たちが武器を構えて、戦いに参加しようとしてくる。

 その中にはイアンとイヴィーも含まれていた。


「全員動かないで! 足手纏いにしかならないから!」


 私は大声で牽制する。

 切羽詰まった声色を理解した冒険者たちの動きが止まった。

 そうそう、大人しくしていればいいの。


 イアンは傷心、イヴィーは痺れのせいで動きが鈍い。

 これは好都合。

 とはいえ、四皇将と自分の実力差も分からないほど馬鹿じゃないか。

 絶対に勝てない相手だって本能的に理解して体が硬直するのが普通。


 しかし、だ。

 私の目の前にいる馬鹿王子には本能すら鈍感のようだ。


「うおおおっ!」


 オスニエルの剣が歩く。

 普通は走るとか言うけど、明らかに遅い。

 剣の重さと腕力が釣り合っていないのだ。


 遅い一撃をヒラリとかわしたエベリナは笑みを浮かべる。


「あら、豪快。当たったらひとたまりもなさそうね」


 笑みといっても嘲笑だ。

 明らかに馬鹿にしている。

 そんな剣は絶対に当たらないと言っているようなものだ。

 まぁ、同意なんだけど。

 

 エベリナが魔術を行使する。

 魔法陣が展開されて、吹き出したのは凄まじい炎だ。

 あまりの熱量に空気が乾燥していくようだ。


 先ほどの一撃とは桁が全然違う。

 これが『赫灼の魔女』の本気の魔術ってわけね。


 炎……いや、業火はオスニエルに向かう。

 オスニエルは回避行動も取らずに剣を構える。

 まさか、剣を振り下ろした際の風圧で対抗しようとしている?


 どこまでも馬鹿なんだ。

 お前の実力でそんなことが出来るわけないだろ。

 そもそも、四皇将の一撃なの分かっている?

 あー、もう!


 私は防御壁を展開してオスニエルを守る。

 業火が直撃。

 相当な威力で防御壁に亀裂が走った。


 結構な魔力を注ぎ込んだのに……こうも簡単に。

 とはいえ、攻撃はちゃんと防げているのでオスニエルを守りつつ、反撃に出る。


「──アトミス」


 無い杖の代わりに手のひらに魔法陣が展開され、水の弾丸が放たれる。

 かすってもダメージ、まともに当たれば体に風穴を開けるくらいの威力に設定した。


 水の弾丸が女体に触れる瞬間、エベリナは軽く指を鳴らす。

 すると、彼女を守るように業火が渦巻く。

 それはまるで殻のようだ。

 

 業火の殻に触れた水の弾丸は一気に蒸発してしまう。

 落胆は無い。

 というより、予想通りだ。


 彼女の炎魔術は正真正銘一級品だ。

 業火が収まったところで、私はエベリナに話しかける。


「貴方の炎魔術は窮極の境地に至っていると言っても過言ではない」

「生憎、炎魔術(これ)しか取り柄がなかったから」

「魔術を扱う者として、素直に尊敬するわ」

「あら、賢者に褒められるなんて嬉しい。だからと言って、手加減するつもりはないけどいいかしら?」


 私が返答する前に動いたのはオスニエルだ。


「シェリル、強化だ!」


 コイツ……。


「下がって! アンタがどうこうできるような相手じゃないの!」


 今までのモンスターとは文字通り格が違う。

 エベリナは一撃で相手を消し炭に出来る力を持っている。

 オスニエルの勇者ごっこに付き合いながら戦うような敵じゃない。


「何を言っている! 僕は魔王を倒すためにここまで来た! 四皇将に怯んでいられない!」


 そう言って、オスニエルが走る。

 彼に向かって火炎弾が飛んでくる。

 私は火炎弾に合わせて、小さな防御壁を展開する。


 それと同時にエベリナに魔術を連打する。

 しかし、全て業火の殻に防がれてしまう。

 

「あら、攻撃に防御を同時に随分器用なこと」


 結構キツイのよ、複数の魔術を同時に行使するのは。

 脳神経が焼き切れそうになる。


 私の苦労なんて知らずに、オスニエルがエベリナに接近。

 彼女はわざと業火の殻を解除した。

 明らかに舐めている……と思ったが違う。

 エベリナが私の方を見て、悪意だらけの笑みを浮かべる。

 

 私の弱点がオスニエルだとすでに気付いている。

 だから、わざと近付けさせたんだ。

 オスニエルがいたら私は攻撃ができない。

 

 エベリナの一手で魔術での攻撃が封じられてしまった。

 いや、魔術だけじゃない。

 私が近づこうとしても殺そうとするだろう。

 かと言って、ここで手を拱いていたらいずれはオスニエルが殺される。

 マズい……。


「うおおおおおお──っ! 四皇将、覚悟!」


 オスニエルの雄叫びと共に剣が振り下ろされる。

 見ていても何の感動も湧いてこない剣技。

 気迫というか、意思というか、そういう想いみたいのが剣から全く伝わってこない。

 

 剣撃をかわしながら、エベリナは退屈そうに呟く。


「貴方、本当に弱いのね。もしかして勇者を名乗っている一般人?」

「────っ!」

「気付いている? 貴方がこうして私と戯れていることで賢者の首を締めていることに」

「何のことだ?」

「実力もなければ、頭も悪いのね」


 侮辱の言葉にオスニエルが激昂する。

 怒りに身を任せた攻撃を繰り出す。

 が、全然当たらない。


 どうする?

 どうにかしてオスニエルをエベリナから引き離さないと手も足も出せない。


 必死に考えを巡らせていた時だった。


「うわあああああああああ────っ!!」

「────っ!?」


 絶叫と共にイアンが槍を持ちながらエベリナに突撃してきた。


「ダメッ! イアン!!」


 何の考えもなしの特攻。

 しかし、私とオスニエルの方に意識を向けていたエベリナは第三者の登場に僅かな動揺を見せた。

 そして、反射的に業火の殻を展開する。


「オスニエル!」


 イアンはオスニエルを庇って業火の殻に背中を焼かれる。


「がっ……あ゛……ぐぅ!」


 しかし、イアンは歯を食いしばり痛みに耐えながら、オスニエルを救出に成功した。

 私はイアンたちの元に向かう。


「イアン……どうして……?」


 重症のイアンを呆然と眺めながらオスニエルが虚ろに呟く。

 イアンは苦痛に歪んだ顔で呻くように呟く。


「知らないわよ……だって、体が……動いちゃったんだもの」

「…………っ」


 イアン……。

 私はオスニエルをどかして、イアンの怪我を確認する。


 イアンの背中は酷いことになっていた。

 業火に炙られて、焼き爛れてしまっている。


「この中に回復魔術を使える人は!?」

「は、はい!」

「私も!」


 二人の魔術師が前に出て、イアンに回復魔術を行使する。

 でも、この熟練度じゃ……。


「イヴィー!」

「な、なに」

「回復能力がある召喚獣を出して! ほら、この間召喚していたの!」

「あ、え……」

「いいから早く!」

「え、ええ」


 慌ててイヴィーが召喚術を行使する。

 召喚獣の力もあれば一先ずは大丈夫だろう。


 私はイアンのことを他に任せて、エベリナに対峙しようとする。

 立ち上がると隣にはオスニエル。


「二人なら倒せるはずだ」


 そう言って、オスニエルは私の肩を叩いた。



 その瞬間、私はキレた。

 もう、我慢の限界だった。

 いや、そんなものとっくの昔に突破していた。

 それでも私はグッと堪えながら今日まで勇者パーティーを守ってきた。

 だけど、今回ばかりは無理。


 私はオスニエルの胸ぐらを掴んで怒鳴り声を張り上げた。


「お前邪魔なんだよ!」


「────っ!?」


「ガチャガチャ出しゃばりやがって! お前が大人しくしてたらイアンは怪我しなかったんだよ!」


「シェ、シェリル……?」


「気安く名前呼んでんじゃねぇ、気持ち悪いんだよ! 雑魚が引っ込んでろって言ってんの! 意味分かる? お前は足手纏いなんだよ!」


「だが、四皇……」


「何でそんなに馬鹿なの? この際だからはっきり言うけどお前超弱いからな! 魔王討伐とか妄想垂れ流している暇があったら剣術の一つでも学んでこいよ! 実力も無いくせに理想論ばかり語っている無能が!」


「………………」


「お前にできることは私の邪魔をしないで、ここに立って戦いを眺めていることだけなんだよ! 分かった!?」


「………………」


「返事は!?」


「は、はい」


 オスニエルを突き飛ばして鼻を鳴らす。

 その場にいた全員がドン引きしていることに気付いたのは、我に返った後だった。


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