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第5話 魔王軍の企み


 男の威風堂々とした自己紹介を聞いて、俺とティナは同時に顔を合わせる。

 それから男に向かって、


「いやいや、それは無い」

「それは流石に無いですね」

「はぁ!?」


 だって始まりの街だぞ。

 魔王軍が危険視するような奴なんて一人も居ない。

 そんなところに魔王軍、しかも幹部クラスの四皇将が居る訳ないだろ。


「お前、いくら冗談でも魔王軍なんて名乗らない方がいいぞ」

「冗談!? そんな訳ないだろ! このヘルムート様を知らないのか!?」

「ヘルムートの名は知っている。とにかく傷を手当しないと」


 こんな時に回復魔術が使えればと思う。

 いや、覚えているには覚えているのだが……。

 俺の回復魔術は回復力が異常すぎて返って身体を破壊してしまう。


 覚えたての時は何の問題もなく使えていた。

 冒険者仲間に回復魔術を使える奴が居なくて、よくみんなにかけていた。

 

 今でも覚えている。

 いつも通り、傷を負った冒険者仲間に回復魔術を使った瞬間だった。

 冒険者仲間は信じられないくらいにもがき苦しみ出した。

 地面をのたうち回り、体を捻りながら絶叫する光景は今でも忘れられない。


 それ以降、回復魔術は使わないことにしている。

 因みに冒険者仲間の間では、俺の回復魔術はネタと化している。


 持ってきていた薬草を差し出す。

 ヘルムートは受け取るのを拒み、俺の手からはたき落とした。


「貴様舐めてるのか!」


 物凄い怒っている。

 彼の怒りが正当なものだ。

 俺が逆の立場だったら、薬草程度で納得できるわけがない。


「本当にすまない。色々と言いたいことはあると思うが、とりあえず街に戻って教会で癒してもらおう」

「ふざけるな! 誰が好き好んで敵の元に行くか! 今日のところは撤退する……その顔、覚えたからな。次会ったら確実に殺してやるぞ」


 いかにもなセリフを残して自称ヘルムートは足を引きずりながら山の中へ消えて行った。


「次会ったらちゃんと謝っておこう」



×××



 その男、ヘルムート・ドレヴァンツは悲鳴を上げる身体を無理矢理動かして山を下る。


「クソッ……全部台無しだ」


 ヘルムートは奥歯を噛み締める。

 駆け出しの冒険者が多く集まる街。

 いずれ魔王軍の脅威になる者がいるかもしれない。

 脅威の芽は早急に摘むという方針で街の壊滅を指令された。

 

 簡単な指令だったはずだ。

 街にいるのは命のやりとりすらロクにできない雑魚ばかり。

 連れてきたモンスターで総攻撃すれば簡単に終わるはずだった。

 

 さて、これから攻撃しようとした矢先だ。

 あの変な二人組が来たのは。


 小さな女の方は目にも留まらぬ速さでモンスターを殺していった。

 ありえない。

 用意したモンスターはどれもヘルムートの配下にしたことによって強化されていたのにだ。


 突如としてきた脅威への対処を考えていたところに、凄まじい爆発がヘルムートを襲った。

 理解ができなかった。

 それは、とても駆け出し冒険者が使う魔術の威力ではなかった。


「あの小さな女と黒髪の魔術師は危険過ぎる。ついこの間、勇者パーティーまで出てきたってのに」


 勇者パーティーの出現。

 それは魔王軍と王国の戦況の優劣を崩す一石になる可能性がある。


「とにかく魔王様に報告しないと」


 ヘルムートは呟く。

 その表情には焦りがあった。



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