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第48話 勇者パーティーの崩壊⑩


 夕食時になるとオスニエルは何食わぬ顔で私たちの前に現れた。

 昼食とは別の食堂に入り、ご飯を食べることに。

 因みにイヴィーはこの場には居ない。

 また自分の部屋に引きこもっている。


 そのことをオスニエルに伝えたが「そうか」の一言だった。


 最高に重たい雰囲気の食事。

 私は何度も隣にいるイアンに目配せをする。

 イアンも居心地の悪さを感じて、私をチラチラと見る。


 しかし、オスニエルはいつもと同じだ。

 この雰囲気の中で平然としている。

 度を越した鈍感なのか?


 息が詰まりそうな食事が続く。

 すると、オスニエルが口を開いた。


「二人に話がある」

「ああ」

「何?」


 オスニエルはフォークを置いてから、私たちに顔を向ける。


「イヴィーにはパーティーから抜けてもらおうと思っている」


 うぅん……思っていたのと違う。

 一瞬、もう旅を諦めると言うかと思ったがそんなことはなかった。

 というか、こんな状態でまだ魔王討伐ごっこを続けるつもりなの?

 普通にありえない。


「理由を聞いても?」

「ここ最近、イヴィーは目立った活躍をしていない。召喚する幻獣も前より弱くなっている。足手纏いになっているのは二人も感じているだろう?」


 それは最初から感じています。

 全員、足手纏いなんですがそれは。

 段々苛ついてきたな。


「だから、イヴィーには一足先に国に帰ってもらう。僕たちが吉報を持ち帰るのを待っていてもらうんだ」

「オスニエル、それは本気で言っているのか?」


 イアンが問いを投げた。


「もちろん」

「これまで一緒に旅をしてきたイヴィーを切り捨てるのか?」


 感情的な意見だ。

 でも、イアンの意見を否定するつもりはない。

 いくら使えなくても同じ釜の飯を食った仲間。


 仲間意識という名の感情と言ってしまえばそれまでだ。

 しかし、そういうのは時にあらゆる事柄を乗り越える力を持っている。

 だから、私は論理的、合理的な考えと感情的な考えをちょうど良い塩梅でするようにしている。


「イアン、僕たちの目的は魔王討伐だ。魔王を倒そうとしているのに使えない人材をパーティーに入れておくなんてありえないだろう。僕はイヴィーのことは好きだ。でも、戦力にならないなら切り捨てる」


「────っ」


「ルーファスの時と同じことだ。僕はイヴィーより強い人材を探してパーティーに加える。僕のやり方に文句があるならパーティーから抜ければいい」


 我慢ならなくなったイアンは立ち上がり、オスニエルを睨みつける。


「見損なったぞ。仲間を大切にしない奴が魔王になんて勝てるわけがない」


 そう言って、イアンは食堂から出ていってしまう。

 オスニエルは動こうともしないで、止めていた手を動かして食事を続ける。


「追いかけなくていいの?」

「僕はイアンの気持ちを尊重している」


 気付くと私はコップに入っていた水をオスニエルにかけていた。

 びしょ濡れにされたというのに澄まし顔。

 全てを許すといった聖人のような……いや、この程度のことでは感情を露わにする必要がない、と悠然に振る舞う上流階級民のそれだ。

 本当に苛つく。


「最低」


 私はイアンの後を追いかけた。



×××



 イアンは広場の階段に座っていた。

 膝に顔を埋めて泣いていた。

 聞こえてくる嗚咽に胸が締め付けられる。


 私はイアンの隣に座る。

 彼はゆっくり顔を上げて、私を見る。


「シェリル……。わたし、あんなこと言うつもりじゃなかったの」

「うん」

「でも、気付いたら口が勝手に……」

「うん」


 イアンは涙を何度も拭うが、涙は溢れてくる。

 怒り、驚愕、後悔、それと罪悪感が混ざり合っているような気がした。


「わたしだってルーファスを切り捨てたのに……あんなこと言う権利ないのに……」

「うん」

「それでも、相手はイヴィーよ。オスニエルにとって、イヴィーは特別な存在のはずなのに……それなのに、簡単に切り捨てるなんて許せなかったの。今の彼は……わたしの好きなオスニエルじゃない!」


 大粒の涙を流すイアン。

 私はただ黙って、彼の背中に手を添えた。



×××



 泣き疲れたイアンは宿に戻って就寝した。

 私もお風呂に入ってから、就寝することにした。


「なんだかなぁ」


 ベッドに入った私は天井を眺めながら呟いた。

 当初はこのパーティーを王国に帰還させることが目的だったのに。

 それが、イヴィーには恋愛的感情を持たれ、イアンの秘密を知って友達になったり……。

 何か変なことになっちゃったな。


「あー、もうオスニエルをブッ飛ばして強制送還させようかな」


 考えていると意識がどんどん遠ざかっていく。

 現実と夢の狭間に漂っているような心地良さ。

 この瞬間の気持ち良さはたまらない。


 あと数秒で眠りに落ちるというところで、体に妙な重さを感じた。

 気のせいかベッドが軋んでいるような気がする。


 何か嫌な予感がして、ゆっくりと目を開けると……。



「………………」



 下着姿のイヴィーが私の上に乗っていた。


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