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第47話 勇者パーティーの崩壊⑨


 街に戻ってきた私とイアンは広場のベンチに座って休憩をしていた。

 手には屋台で買った軽食と飲み物。

 イアンは広場で楽しそうにしている人たちを眺めながら溜め息をこぼす。


「平和そうなのにね。四皇将が支配しているなんて……」

「多分、支配されていることすら理解していないと思うわ、ここの人たちは」

「どういうこと?」

「街のお偉いさんと四皇将の間で密約が交わされたのよ。そうね……街の人々には手を出さない代わりに、この街での魔王軍の動向を口外するな、みたいな」


 イアンの表情には怒りと恐怖が浮かんでいた。


「それって、街の人たちが人質ってことじゃない」

「そういうこと」


 敵ながら良い戦略だと思う。

 私も魔王軍だったら同じことをしていただろう。

 無意味に人を殺すくらいなら、人質に使う方が賢い。

 相手の動きを封じることが出来るし、こちらの要望も通しやすい。


 それに、何より無意味な争いを避けることが出来る。

 戦いとなれば戦力消耗するのは必然。

 痛手を負うくらいなら、言葉のみで潰した方が圧倒的に得だ。


 そんなことをツラツラと考えていたら、イアンに服の袖を引っ張られる。

 彼の顔は引きつって一点を見つめていた。

 何かと思って、イアンが向いている方に顔を向けると──。


「随分と仲が良いのね、二人とも」


 悪魔に取り憑かれたような形相のイヴィーが私たちを見下ろしていた。

 髪の毛はボサボサで瞳は赤らんでいた。

 いつも、身だしなみには気をつけているのに今は見る影もない。


 すっごい怖いんですけど。

 イヴィーは私とイアンが手に持っている軽食に視線を向ける。


「同じ物食べて、同じ物飲んで。本当に楽しそうね。……私はこんなに最悪な気分なのに」

「いや、あの屋台にはこれしかなくて。そ、そうだ、イヴィーも食べるか?」


 イアンの言葉を無視して、イヴィーは私の軽食と飲み物を引ったくり全部腹の中に入れてしまう。

 あぁ……まだ殆ど食べていなかったのに。

 何で私のを取るんだよ。

 取るならイアンのにしろ。


 イヴィーは口の端についた汚れを拭いながら不愉快そうな声で問いかける。


「二人は何をしていたの?」

「大賢者のところに……」

「へぇ、二人きりで?」

「あ、ああ」


 イヴィーの目がキッとキツくなる。


「私はこんなに嫌な思いしているのに、二人は仲良くデート!? そんなに私をいじめて楽しいの!?」


 怖っ!

 何なのコイツ?

 ちょっとオスニエルに言われただけで、メンタル病んでるの?

 いくらなんでも弱くない?

 スライムメンタルじゃん。


 というか、何をどうしたらデートになるんだよ。

 ルキヤンのところに行っていたって言ってんじゃん。


「誤解しているよ、イヴィー。私とイアンはただの友達。それ以上でもそれ以下でもないから」

「ふぅん……。その割には前の街では楽しそうに買い物していたわよね?」


 げっ……アレ見られていたんだ。

 参ったな。

 そのことを説明するとイアンのことも話さないといけなくなる。

 イヴィーの性格上、イアンのことは絶対に拒絶するだろう。


「あれは、シェリルに相談していたんだ」

「はぁ?」

「実は国に残している恋人にプレゼントを贈りたいと思っていてな。でも、俺はそういうのには疎くて、シェリルに無理言って相談に乗ってもらっていたんだ」


 おお、それっぽい嘘。

 武闘のことしか興味ない(設定)イアンがそういうことで私に相談するのに違和感はない。


「恋人なんていたの? 私、聞いたことないんだけど」

「平民の娘なんだ。隠れて付き合っていたんだ」

「へぇ……魔王討伐っていう大義があるのに呑気に贈り物ね」


 アンタ、私にプレゼント送ってきたわよね?

 今の台詞、そのままそっくり自分に返ってくるけどいいの?


「……すまない」


 イアンは頭を下げる。

 そうそう、それでいいわ。


「今、『お前は婚約者と旅をしているじゃないか。自分のことを棚に上げて嫌な女だ』って思ったでしょ!」

「いや、そんなことは全く……」

「嘘よ! 嘘嘘嘘嘘! 絶対思った! 私だって好きであんな男と婚約している訳じゃないのに! どうして私ばかりこんな目に遭うの!」


 コイツ、やっぱり超めんどくせぇ……。

 ただでさえ面倒なのに、精神やられているから更に悪化している。

 絶対に関わりたくないタイプだ。


 あまりの剣幕にイアンは固まってしまう。

 イヴィーは私の方に潤んだ瞳を向けてから、どこかに走り去ってしまう。


 しばらくしてから、イアンが安堵の息を漏らして私に寄りかかった。


「こ、怖かった〜」

「よしよし、よく耐えたね」

「でも、イヴィー相当来ているわね。大丈夫かしら?」


 大丈夫じゃないのは確かだ。

 トチ狂って何か変な事をしなければいいけど……。


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