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第46話 勇者パーティーの崩壊⑧


 大賢者(自称)なる人物はこの街では結構な有名人だった。

 彼は森の中で自給自足の生活を楽しんでいるとのことで、人前には滅多に出てこないらしい。

 でも、困った人が彼の元に行くとあっという間に問題を解決してくれるそうな。


 何それ?

 とても良い人じゃん。

 大賢者とかふざけたこと言っていなければ評価高かったのに。


 まぁ、いいわ。

 大、なんて付けているその実力をとくと見せてもらいましょうか。



×××



 すこぶる不機嫌な私はイアンと一緒に森の中を進んでいる。

 因みにオスニエルとイヴィーはこの場に居ない。

 オスニエルは昼食後、そそくさとどこかに行ってしまった。

 実は隠れて鍛錬しているんじゃないか、みたいな考えが一瞬よぎるが、それは絶対にないと断言できる。


 イヴィーは宿にこもってしまった。

 私の声にも反応しないあたり、過去最高に腹を立てている。

 関わりたくないのでしばらくはそっとしておくことにした。


「ここのところずっと雰囲気悪いわよね……もう、嫌になっちゃうわ」


 腕を組みながら溜め息を漏らすイアン。

 今は私しかいないので素だ。


「イヴィーもアレだけど、それよりもオスニエルが度を越しているわね」

「そうね。自分の実力不足をシェリルのせいにするのはどうかと思うわ」


 イアンの表情は悲しげだ。

 好きな相手の悪いところをこれでもかと見ている彼の心中はあまり想像したくない。


「ねぇ、シェリル。わたし思うんだけど、あなたの正体と目的を二人に明かした方がいいんじゃないかしら? 相手があの賢者だって分かれば多少は話を聞いてくれると思うの」


 そう、私は自分が賢者だということを隠している。

 というか気付かれていないので言ってないだけだ。

 賢者シェリルなる人物は銀髪と青い瞳の麗しい女性、と王国では有名な話だ。

 速攻でバレるかと思ったが、三人は無知だった。

 それ故に私を普通に優秀な魔術師としてパーティーに加えたのだ。

 

「それも有りかもね。でも、私が賢者だと知った途端にあの二人が調子に乗らないかが心配。賢者が居れば魔王なんて楽勝とか思いそう」

「それ言われちゃうと返す言葉がないわ……」


 アイツらは他人の力を自分の力だと誤認する能力を持っている。

 それにいくら私が強くても、足手纏い三人引き連れて魔王に戦いを挑むのは無謀過ぎる。


 とはいえ、今や勇者パーティーは崩壊寸前。

 もう一押し何かあればいける。

 私には確信があった。



×××




 ある程度まで森の奥に来た。

 そこにはポツンと木造の小屋が建っていた。

 さぁ、大賢者(自称)とのご対面だ。


「ちょっと待って。あ、あー……」


 イアンが偽りの仮面を被る。

 表情を凛々しくして、声も低く、口調もそれらしくする。


「どうだ?」

「うん、ばっちり」


 私は親指を立てる。

 同時に少し悲しくなってしまう。

 いつか、イアンが本来の姿でも拒絶されない居場所ができて欲しいと切に願う。


 私たちは小屋の前に来てノックをする。

 しばらくすると、小屋から男性が出てきた。

 驚きなのはその大きさだ。

 縦にも横にも大きい。

 凄い迫力だ……というか、ちょっと待って……。


「やあ、よく来たね。どんな相……いぃ!?」


 大男は私を見た瞬間に驚きの声をあげて、次の瞬間には最大限の喜びを浮かべた。


「師匠!? なぜ、こんなところに師匠が!? もしかしてボクに会いにきてくれたんですか!」

「私を差し置いて大賢者なんて名乗っている不届き者がいると聞いたから顔を見にきたの。まさか、貴方とは」

「大賢者!? そんなの名乗ったことありません! 師匠という最高の賢者がいるのに、ボクが大賢者なんて口が裂けても言えません!」


 うーん、この子が言うならそうなのだろう。

 嘘をつけるような性格していないし。

 きっと、街の人が勝手に囃し立ててただけね。

 そういうことにしておきましょう。


 私は呆けているイアンに彼を紹介した。

 

「この子はルキヤン、私の弟子」

「よろしくお願いします!」

「全てにおいて大きいのが特徴なの。特に声には気をつけて。私、この子のせいで鼓膜破れたことあるから」

「面目ないです!」


 耳が痛い。

 凄まじい声量に圧倒されるイアン。

 ヒョロヒョロのイアンは声量だけで吹き飛ばされそうで心配だ。


「弟子、か。やっぱり賢者となれば弟子の一人や二人くらいいるんだな」

「イアンさんは弟子ではないんですか!?」

「イアンはパーティーメンバーなの」


 私はそうなった経緯をルキヤンに話した。

 本当は話すのはよくないかもしれないが、これまでの鬱憤を誰かに言いたいという欲には勝てなかった。

 まぁ、私の弟子だし良いよね。


 話を聞き終えたルキヤンは表情を曇らせた。


「そういうことなら、この街からは早く出た方がいいです!」

「どうして?」

「実はこの街は四皇将の一人に支配されているんです!」


 衝撃の事実に困惑してしまう。

 見た感じは普通の街なのに。


「それ本当なの?」

「はい! その四皇将は比較的に温厚なので直接的な被害は出ていません! しかし、この街を拠点にした王国への侵攻計画は着々と進んでいます!」


 そう言って、ルキヤンは服をまくった。

 腹部には包帯が巻かれており、少し血が滲んでいた。


「その傷……」

「四皇将に挑んだ時につけられた傷です! ボクの実力じゃ、逃げ帰ってくるのが限界でした! でも、師匠ならきっと四皇将を倒してくれると信じています!」


 弟子のキラキラした瞳を見ている余裕はなかった。

 はっきり言って、四皇将かかってこいやくらいの気持ちはある。

 でも、それは私一人に限った場合だ。


「………………」


 これは非常にマズいことになりそうだ。

 そう、私の直感が訴えてかけていた。


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