第45話 勇者パーティーの崩壊⑦
新たな街に来ちゃいました。
もう嫌だ。
今すぐこのパーティーから逃げて、お家に帰りたい。
剣闘大会で全くの見せ場もなく負けたオスニエルが自分の無力さに気が付いて王国へ帰還。
この馬鹿みたいなパーティーは解散。
私は役目から解放されてハッピーエンド。
そのつもりだったのに……。
オスニエルは決して止まることはなかった。
流石のイヴィーも子どもに負けたオスニエルの実力に疑問を持ち、帰還とまでは言わなかったが修練をした方がいいんじゃないか、と進言していた。
しかし、オスニエルはこう反論したのだ。
『あの時の僕は全く本気じゃなかったんだ。それもそうだろう? 子ども相手に本気出すなんて大人気ないじゃないか』
はい、馬鹿です。
プライド高すぎです。
自分が一番理解しているのに認めようとしない。
そこでゴリ押せばいいのに、イヴィーはあっさり納得してしまった。
ふざけんな。
いつもはどうでもいいことでゴリ押しするくせに、肝心なところで使えないんだから。
私とイアンも今回はハッキリと言ったが、オスニエルは言うことを聞かなかった。
その結果、道中は悲惨なことになった。
魔王城に近付いていることもあって、モンスターの強さはどんどん上がっている。
このパーティーの実力ではかなりキツくなってきている。
撤退することも多くなってきている。
もうさ、一人で戦わせて欲しい。
いくら強くなっていると言っても、それはこのパーティーの実力と比較してだ。
私からすれば雑魚なんで倒すのは訳ないのに。
×××
「オスニエル! イアン! いい加減にしなさいよ!」
我慢の限界と言わんばかりの口調でイヴィーが机を叩いた。
店内に居る人たちの視線が私たちのテーブルへと集まる。
あー、嫌だ嫌だ。
ここのところ楽しい気分でご飯を食べた記憶がない。
いつも、イヴィーがキレ散らかしている。
せっかくの昼食が不味くなる。
「ここ最近の苦戦具合は何なの!? 本当に信じられない!」
何度も見た光景だが、少し前から様子は変わっている。
「そういうイヴィーはどうなんだ? 最近、強い幻獣を出せていないじゃないか」
「────っ!」
先の回想でもあったようにオスニエルが反発するようになったのだ。
今まで言われたい放題だったのに。
表面上見えて来ないが、あの少年に敗北した精神的ダメージは確実にある。
そのダメージは彼の余裕を奪っているのだろう。
「というより、ここ最近の苦戦は君のせいじゃないか? シェリル」
は?
コイツ、今何て言った?
私のせい?
「こういうことを言うのは心が痛むが、君の強化魔術の効果は弱い気がする。ちゃんとかけているのか?」
怒りで視界が真っ白になるなんて初めての経験だ。
コイツ、本当にムカつく。
ふざけたことばかり言いやがって。
私の強化魔術は紛れもない一級品。
師匠もルーファス君も大絶賛の強化魔術。
それを弱い?
弱いのはお前なんだよ。
流石の私もこればかりはプライドが許さない。
オスニエルを睨みつけて言う。
「自分の力不足を他人のせいにするのはやめて」
「それはこちらのセリフだ」
コイツ、殺してやろうか?
王子だかなんだか知らないけど、殺した方が世間のためになるんじゃない?
というか、何で実力不足を認めないの?
それを周りのせいにするとか最低なんだけど。
だが、私を標的にしたのは悪手だ。
イヴィーが今までに無いほどに怒りを剥き出しにしている。
オスニエルが好きなイアンも、今の発言は看過出来なかったようで怒りの視線を向けている。
しかし、オスニエルは飄々としている。
いや、これは開き直ったという感じか?
最悪のパターンだ。
こういう無能が開き直るのが一番面倒なのに。
「提案があるんだ。実はこの街には大賢者なる人物が居るらしい。その人にイヴィーとシェリルは強力な魔術を教えてもらう。そうすれば戦力アップだ」
「ちょっと、何で私もなのよ!」
「覚えておいて損はないだろう? それに今のイヴィーが使役する幻獣だけではこの先が不安だ」
もっともらしいことを並べるオスニエルだが、一番の問題は自分だと理解して欲しい。
イヴィーは更なる怒りで体を震わせた。
「はぁ!? なにそれ! 私は……」
「このパーティーのリーダーは僕だ。意見に従ってもらおうか」
「………………っ」
ぴしゃりと言い放つオスニエルに、イヴィーはそれ以上何も言わずに俯いてしまう。
膝の上に置かれた拳が硬く握りしめられているのを見たら、ちょっと怖くなった。
オスニエルの意見はともかく、私には気になることがあった。
大賢者って何?
え? 嘘でしょ?
私の他に賢者いるの?
しかも、『大』って何よ?
それ、私より凄いってこと?
というか、何で賢者である私が何者か分からない奴に教えを乞わないといけないのよ。
オスニエルのふざけた案に乗るのは業腹だったが、私はその大賢者とか自称している奴を放っておくことはできなかった。
そんな訳で、私たちは大賢者(自称)に会いに行くことになった。




