第44話 戦いの後
四皇将ヘルムートとの戦いから一夜明けた日。
俺はギルドに向かっていた。
戦いの後、彼女は俺を含めた負傷者の傷を癒すために森に帰るのを延期してくれた。
プネブマの持つ癒しの能力は凄まじかった。
負傷した者の傷を跡形もなく治したのだ。
その中に俺もいたのは言うまでもない。
因みに俺が一番の重傷者だった。
という訳で、四皇将戦において死傷者はゼロ。
俺たちの大勝利となった。
ギルドの扉を開けた瞬間にヴァリスの笑い声が響いてきた。
「それでの、デカブツの顔面に拳を叩き込んでやったわ!」
ジョッキを持ちながら手をブンブン振り回しているので、酒が凄い勢いで飛び散っていた。
酒がかかっているのも気にせずに冒険者たちはヴァリスの話を聞いて歓声を上げていた。
「すげぇ! あの巨大なゴーレムに一発ぶち込んだのか!」
「ただの呑んだくれだと思っていたけど……見直したぜ!」
「グゥハハハハハハ────! もっとワシを崇めるがいい!」
超テンションヴァリスの近くにはフェリシアとプネブマもいた。
二人は多くの冒険者たちに囲まれていた。
「え!? ルーファスとティナの母親なんですか?」
「マジかよ! めちゃくちゃ美人じゃん!」
褒められて頬を赤らめるフェリシア。
「あらあら、こんなおばさん褒めてもいいことないわよ」
「おしとやか!」
「羨ましいぜ……。できれば俺の母ちゃんになって欲しいくらいだ」
「俺も、俺も」
「甘えてぇ」
その瞬間、フェリシアの瞳に怪しい光が灯る。
あっ……これは……。
「私はみんなのお母さんよ。みんなは私の可愛い子供たちよ」
「母ちゃん……?」
「え? あ、あれ?」
「お、お母さん……?」
冒険者たちがフェリシアの母性に洗脳されかけている。
満面の笑みを浮かべながらフェリシアは手を広げて受け入れる体制をとった。
「おいで、可愛い子供たち」
「うあぁぁぁぁ! お母さんーー!!」
あっという間に洗脳完了されてしまう。
もはや、誰でも子どもになるんだな……。
一方、プネブマはというと。
「傷を治してもらった者です。プネブマ様、本当にありがとうございます」
「戦いの傷じゃなくて、昔の古傷まで……ずっとコンプレックスだったので、本当になんてお礼を言えばいいか」
「失った腕を……うぅ、まさか、再生してもらえるなんて……感謝します」
もう、凄い感謝されていた。
彼女の周りだけ喜びの涙を流す冒険者たちが多い。
プネブマは泣いている冒険者の肩を軽く叩く。
「気にすんなし。傷治すついでだし、それくらい余裕つーか」
「ですが、与えられてばかりでは!」
「そうです! 私にできることがあれば何でも言ってください!」
「儂は貴女様に忠誠を誓いたい」
「じゃあ、暇な時にウチに祈り捧げてくんない?」
冒険者たちは毎日祈りを捧げると涙を流しながら言う。
これと同じ光景を昨日も見たよな。
プネブマが大精霊である理由が分かった気がする。
×××
俺はようやく、ティナとセラフィ、ラピスに合流することができた。
彼女たちは特に仲の良い冒険者、それからギルドマスターのマーティンと料理を食べながら談笑していた。
「あ! お兄様!」
「ルーファス!」
「おっ、今回の主役のご登場だな」
ティナが飲み物をセラフィが料理が乗った皿を渡してくれた。
すると、すでに酔っ払った冒険者が俺の肩に手を回す。
「お前本当に凄いな! 相手は四皇将だぜ……俺は感動した!」
「ありがとう」
絡まれながら俺はティナとセラフィに顔を向ける。
「二人とも無事で良かった」
「ルーファスもね。私、あのまま死んじゃうんじゃないかと不安だったんだから」
「わんわん泣いていましたもんね」
「──っ! ティナちゃんも泣いてたじゃん!」
二人揃って顔を真っ赤にする。
心配してくれたことに嬉しさを感じつつ、申し訳なさも出てきた。
「心配してくれてありがとう。でも、この通り元気だから安心してくれ」
マーティンが賞賛の面持ちで俺の肩をポンと叩く。
「四皇将の一人を倒すなんてな。ギルドでも有名なポンコツ魔術師だったお前がな」
「ポンコツは余計だ」
「俺は一人の冒険者として尊敬するよ」
「ギルドマスターにそこまで言われると照れるな」
俺が照れていると、ヴァリスの声が響く。
「ルーファス! 来たなら来たと言え!」
彼女の大声によって、冒険者たちの視線が一斉に俺の方に向く。
次の瞬間、拍手喝采。
その場にいた全員が俺を讃えてくれている。
あまりの嬉しさに涙が浮かんできた。
「みんな、ありがとう! 今日は俺の奢りだ! 飲んで食って騒いでくれ!」
「うおおおおおおお──っ!」
「ルーファス! ルーファス! ルーファス!」
勝利の宴はそれこそ朝になるまで続いた。
×××
後日談。
四皇将戦の熱はまだ残っていたが、いつもの日常を送っている俺たち。
だが、一つだけ変化があった。
プネブマが俺たちのパーティーに加わった。
とはいえ、それは便宜上の話。
普段の彼女は冒険者たちの傷を治したり、悩みごとをギルド内で聞いている。
ああ見えて、プネブマは聞き上手で多くの冒険者たちが悩みを打ち明けにきているのだ。
「つか、最近祈り過剰供給で体光出したわ。ウケる」
そういうプネブマは確かに発光していた。
「神聖な感じで良いと思う」
「まじんこ?」
因みにギルド内でついたあだ名は『発光アネキ』だった。




