第43話 決戦、ヘルムート
俺とヘルムートの戦いは白熱していた。
複数の魔術を放つが、ヘルムートは的確に対処してくる。
やはりと言うべきか魔王軍四皇将ということもあって相当手強い。
俺の杖とヘルムートの剣が鍔迫り合う。
正確に言うならば杖を起点に展開している防御壁によって、ヘルムートの斬撃を防いでいる。
「貴様、名は何だ?」
拮抗する中でヘルムートが問いかけてきた。
そういえば名を名乗っていなかったか。
「ルーファス・ファーカー」
「そうか、ルーファスと言うのか。ククク……ルーファス、ルーファス!」
ヘルムートの次なる一撃を交わして炎魔術を放つ。
渦巻く炎はあっという間にヘルムートを包み込む。
このまま閉じ込められればと思うが、直後に斬撃が走り炎を両断する。
その勢いで突っ込んでくるヘルムート。
炎弾を連射する。
当たれば相当なダメージを与えられる威力だが、ヘルムートは体を強引に捻って炎弾に一瞬たりとも触れない。
そのまま地面に着弾した炎弾が弾けて火の粉が降り注ぐ。
ヘルムートは俺の懐に潜り込んできた。
「魔術を撃てるなら撃ってみろ!」
仮に魔術を使ったら、俺自身も確実に餌食になる。
それ故に魔術を使わないと判断したのだろう。
ヘルムートの表情には勝利の笑みが浮かんでいた。
だが、それは間違いだ。
「──エクリクシス」
「なっ……」
俺は躊躇いもなく魔術を発動する。
直後、大爆発が俺とヘルムートを一瞬で飲み込んだ。
轟音が虚空に消えていき、黒煙が風によって消えていく。
「はぁ……はぁ……」
俺は膝をつき、何度も呼吸を繰り返した。
呼吸するものかなりしんどい。
痛みが全身に隅々まで走る。
強化魔術をかけて、体の耐久力を上げていなかったら今頃灰になっていたな。
その近くでヘルムートも大ダメージに苦しみの声をあげていた。
相当な魔力を込めての一撃だったのに、アレを耐えるのか……。
正直言ってショックだ。
互いに服が吹き飛び、傷や火傷だらけの上半身が剥き出しになっている。
控えめに言って重傷だ。
それでも、俺とヘルムートは立ち上がる。
戦意は一切萎えていない。
ヘルムートはバケモノを見るような目で俺を見た。
「貴様……イかれているのか?」
「相手は魔王軍四皇将なんだ。俺の命と引き換えに倒せるなら安い買い物だ」
俺たちの距離は徐々に縮まる。
歩くだけで鮮血が至るところから吹き出す
拳を握りしめるのも一苦労だ。
やがて、互いの拳が届く範囲にまで距離が詰まる。
「一つ、聞きたい。あの黒髪のチビは誰だ?」
「世界一可愛い俺の妹だ」
「そうか……お前は道化だな」
「何?」
直後、ヘルムートの一撃が腹に深々と突き刺さった。
抑えきれずに吐血。
お返しとばかりにヘルムートの顔面を殴る。
口から鮮血が吹き出す。
その中に白い物も混じっていた。
「殺してやるぞ、ルーファスゥゥゥ────!!」
ヘルムートの体が突然、大きく膨れ上がる。
膨張は止まるところを知らない。
もはや、人間の形を逸脱していった。
「これは……」
顕現した異形はありとあらゆるモンスターのパーツが混ざり合っていた。
先ほど召喚されたゴーレムの比ではない。
ゴーレムはあくまで無機物の集合体だ。
だが、目の前にいるそれはあまりにも生々しくグロテスクだ。
キメラとでも言うべきか?
人間の顔とミノタウロスとオーガが混ざり合ったような顔が俺を見下ろした。
「ルーファス、ルルルルルル、ルーファス……ルーファス────!!!」
ゴーレムのような腕から伸びた複数のモンスターが混じった手。
手のひらには口があって、そこから炎が吐き出された。
「──アトミス!」
水の壁を作り出して炎を相殺する。
痛む体に鞭打って俺は走り出す。
触手が地面を這うように追撃してくる。
一本、二本じゃない。
大量の触手。
しかも、1秒ごとに分裂して数を増やしていく。
風魔術で触手を切り刻む。
飛び散った触手は意志があるように動き、さらには分裂まで始める始末。
追撃して放った火魔術で触手を全て焼き尽くす。
ヘルムートの攻撃は苛烈さを増した。
まるで、複数の強力なモンスターと同時に戦っているみたいだ。
手を替え品を替え繰り出されてくる攻撃にその都度対処を求められる。
俺の思考は鈍ってくる。
このままではジリ貧。
何か手が無いかと俺は魔術を放ちまくる。
魔力がどんどん減っていく。
もう駄目だと思い始めた時。
雷魔術が当たった瞬間だった。
ヘルムートの動きが止まったのだ。
「電撃に弱いのか……?」
偶然かもしれない。
だが、もうこれに賭けるしかない。
俺は残りの魔力を全て注ぎ込み魔術を行使する。
「──アノ・ケラヴノス!!!」
術式の展開。
そして、俺の全ての魔力が紫電へと変化する。
大質量の紫電がヘルムートへ直撃。
音が遅れてやってきた。
耳をつんざくような鋭い轟音が大地を揺らす。
ほとばしる雷が空気を痺れさせる。
光の中でヘルムートの異形が消え去っていく。
そして、光が収束していく。
元の姿に戻ったヘルムートが満身創痍の状態でそこに立っていた。
一歩も動けないようで、ただそこに立ち俺を見つめている。
「認めよう……貴様の実力は本物だ」
「………………」
「だが、貴様では魔王様に傷一つ付けることはできないだろう。力云々の話ではない……もっと、単純な……」
ヘルムートは膝から崩れ落ちて、二度と動かなくなった。
俺は魔王軍四皇将に勝ったのだ。




