第4話 久しぶりの魔術
つい数日前から街の近くの山に大量のモンスターが現れたらしい。
モンスターたちはやけに凶暴で何人も怪我を負わされたとのこと。
怪我人が出ているなら見過ごすわけにはいかない。
それに戦闘となれば魔術使い放題だ。
俺たちは山を進んでいく。
ティナは黒を基調とした身軽な服装。
武器は腰に差したナイフと暗器だ。
暗器に至ってはどこに隠しているか全く分からない。
俺はというとローブを羽織り、杖を持っている。
山登りには適していないが魔術師なら常にこの格好でなければしまらない。
しかし、今日は調子が良い。
身体が軽いし、あんまり疲れもしない。
勇者パーティーというストレスから解放されたからだろうか。
しばらくすると、先を進んでいたティナが立ち止まる。
「お兄様、モンスターの気配がします。慎重に行きましょう」
「分かった」
舗装された道から外れて、茂みで身を隠しながらモンスターへと近付いていく。
少し拓けた場所で複数のモンスターを目視した。
「色んなモンスターが居るな」
ゴブリン、コボルト、オークなどなど。
普通、モンスターは同じ種族で群れて生息している。
別々の種族がこうも纏まっているのはいささか疑問だった。
「ゴーレムも居るのか」
不揃いな岩石を人形に固めたようなモンスター。
こいつは中々に厄介だ。
いくら破壊しても岩石さえあれば何度でも復元してしまう。
つまり、復元出来ないほどに粉々にするしかない。
「お兄様、どうしましょう?」
「ティナは陽動を頼む」
「分かりました!」
その瞬間、隣に居たはずのティナが消えた。
直後、断末魔が聞こえた。
鮮血が飛び散る。
凄まじい勢いでモンスターが切り裂かれていく。
モンスターたちは何が起こっているのか分からずに辺りを見回す。
動揺は波紋のように広がり、モンスターたちが恐慌状態に陥る。
流石はティナだ。
あまりにも速すぎる攻撃。
敵はいつ攻撃されたかすら分からない。
昔から速かったが、今はそれ以上の速さだ。
ティナの絶技を見つつ、俺は魔術行使の準備を整えた。
魔術の威力が上がってしまったことは事前に伝えてある。
ここに来る前に、別の場所で試し撃ちをして魔術の効果範囲も確認してある。
その上でティナは『大丈夫です。問題ありません』と言ってくれた。
魔力を杖の先に集中させて、術式を展開する。
それは巨大な幾何学模様が描かれた魔法陣。
空気中に高密度の魔力がほとばしる。
俺は高らかに詠唱する。
「──エクリクシス!!!」
術式を介して魔力が強大な質量を持った衝撃となり、モンスターたちを襲う。
凄まじい轟音と熱風、それから砂煙。
大爆発がモンスターたちを容赦無く巻き込んで消し炭にしていく。
砂煙が収まった時、そこは更地に変わり果てていた。
久しぶりの全力の魔術に俺は気持ちが晴れ晴れとしていた。
これだよ、これ!
この爽快感がたまらないんだ!
「あれだけのモンスターを一瞬で……流石、お兄様です!」
いつの間にか、俺の背中にくっついていたティナが賞賛してくれた。
嬉しいがむず痒い。
多少地形を変えてしまったが、まぁ、いいだろう。
「な、なんだ……今のは……?」
ふと、声が聞こえた。
更地になった場所を再度確認すると人影があった。
男だ。
着ていた服はボロボロで血まみれだ。
男は俺たちを見つけて怒号を張り上げた。
「これをやったのは貴様らか?」
「あ、ああ」
「ふざけやがって! 俺の苦労を水の泡にしやがって!」
苦労って何だ?
もしかして、俺たちと同じクエストに来ていた冒険者か。
だとしたら俺は巻き込んでしまったのか?
しまった……なんてことをしてしまったんだ。
「名前を教えてくれないか?」
他にするべきことがあるはずなのに、かなり焦っていて名を聞いてしまった。
問いに対して男はフラフラと立ち上がる。
「聞かれたのなら名乗るのが礼儀。──魔王軍四皇将が一人、『魔奏者』ヘルムート・ドレヴァンツ!」
そう、名乗ったのだ。