第37話 大精霊マジ半端ねぇ
森の最深部。
そこには巨大な樹があった。
あまりにも巨大過ぎて、先が全く見えない。
それに加えて放つ光が他とは比べ物にならない。
「これは……」
「大精霊プネブマの本体じゃ。おい、プネブマ。貴様に用がある故に来てやったぞ」
ヴァリスが大樹に向かって声を上げる。
すると、光の粒子が集まり人の形を成していく。
現れたのは長身の美女だ。
背丈まで伸びた淡い緑色の髪。
ダウナーな雰囲気が妙な色気がある。
スレンダーな体は薄手の布が巻かれているだけで、目のやり場に少々困る。
「おつー。つか、来てやったとかどんだけ上から目線? マジウケるんですけど」
え?
「つか、ちゃんヴァロ元気してた? 今、何してんのー?」
「ワシはルーファスと冒険者やっておるぞ」
「マジ!? チョーウケるんですけど。加護ってる子と冒険者とかイカつ」
うわぁ……。
なんか思った感じと違う。
大精霊っていうからもっと厳かな感じかと思ったのに、めっちゃ軽いんだけど。
「でさー、ちゃんルーはどうよ? 少しは良い男になった?」
「ここに居るんじゃから直接確認せい」
「え? まじんこ?」
ヴァリスが俺を指差す。
プネブマはヘラヘラ笑いながら俺の顔を覗き込む。
「うわーマジじゃん。時が経つの早過ぎウケる」
「………………」
「良い男になってんじゃん。何々、彼女とか居んの? ねぇねぇ〜」
「あ、いや……」
肩に手を回して詰め寄ってくるプネブマに俺は上手く返答が出来ない。
このノリは初めてな上に結構しんどいぞ。
「おい、ワシらには貴様との談に興じている暇は無いんじゃ」
「ノリ悪っ。まぁ、いいし。で、ウチに用って? 大精霊とか半端ない肩書き持ってるから大概はことは指先一つ的な感じでやってますわ」
俺はここに来た理由を説明した。
プネブマは聞いているのかいないのかよく分からなかった。
だって、ずっと自分の爪眺めているんだもん。
「──という訳なんだ」
「で、じゃ。呪いを解くには貴様の涙が必要じゃ。という訳で泣け、今すぐ泣け」
「いきなり泣けとか無理難題じゃね? つか、ウチが直接行って呪い解けばよくない?」
「貴様、この森から出れるのか?」
ヴァリスの問いにプネブマは大樹のバシバシと叩きながら「余裕余裕」と笑う。
「本体は不可能って感じだけど、末端ならね。それに久しぶりに街に降りたいっつーか」
プネブマは軽いノリでウィンクする。
俺たちは彼女を連れて街に戻ることになった。
×××
街に戻ってきた俺たちはその足でアーベの家へと向かった。
アーベの母親に事情を話して家の中に入れてもらう。
寝室に行くとベッドの上で悶え苦しむアーベの父親がいた。
素人目に見ても分かるほど、おぞましい呪いが彼の体を蝕んでいた。
「父ちゃん! 父ちゃん! アネゴが助けを呼んでくれたんだ!」
父親に必死に呼びかけるアーベを眺めてプネブマは呟く。
「親子の絆マジ感動。これハッピーエンドかまさなきゃ大精霊やめるっしょ」
ベッドの前に立ちプネブマはアーべの父親に手をかざす。
その瞬間、淡く優しい光が彼を包み込む。
「すげぇ……」
アーべが呟く。
光はどんどん広がり、やがて部屋全体を覆った。
呪いを解除するプネブマはあまりにも美しい。
大自然の絶景や偉大さを目の当たりにしているような美しさだ。
気付けば俺は涙を流していた。
光が収まる。
アーべの父親を蝕んでいた呪いは欠片も残さずに綺麗に無くなっていた。
「父ちゃん!」
「おお、アーべ!」
アーべと父親が抱擁を交わす。
その様子を満足そうにプネブマは見つめていた。
「ありがとうございます! どうお礼を言っていいか……」
「気にすんなし。助け合い最高じゃん」
「でも、それでは……」
「んー、じゃあ、暇な時にウチに祈り捧げてくんない? 精霊は人の祈りの力で元気出っから。あ、ウチはプネブマね」
あっけらかんと言うプネブマに対して、親子は何度も頷いた。
「プネブマ様……毎日祈りを捧げます」
「俺も毎日祈るよ!」
「毎日とかマジ勤勉過ぎ。チョー感謝」
てな感じでアーべの件は無事に解決した。




