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第34話 セラフィと幻獣


 その輝きが収まると同時に俺とセラフィは驚きをあらわにした。

 原因は魔法陣の中心に座る存在。


 しなやかな体躯をした九尾の四足獣だ。

 その全身は青白い炎を纏い幻想的ですらある。

 俺たちが戦ったのよりは遥かに小さい。

 だが、確かに蒼炎の九尾(キュアノス・エンネア)だ。


「なっ、なぁぁぁぁ────!?」


 メイナードがあまりに驚きひっくり返る。


「あ、ありえん! これは流石にありえん!」

「いくらなんでも驚き過ぎじゃないか?」


 俺とセラフィはメイナードの居る方に移動して、起き上がらせる。

 普段、感情的にならないメイナードがこうも驚くとは意外だった。


「これが普通の蒼炎の九尾(キュアノス・エンネア)なら、ここまで驚かん! いや、十分驚くが……。これは超希少個体『ラピスラズリ』だ!」


「ラピスラズリ?」


「よく見ろ。纏っている炎が瑠璃色なんだ」


 そう言われて、よくよく見てみると確かに瑠璃色っぽい。

 というか、俺たちが戦ったヤツもあんな色してたよな?


「色が違うだけではない。能力値も通常個体より遥かに高く何より驚愕するべき点は転生能力を持っている、ということだ。しかし、ありえん。触媒無しの契約召喚術式では絶対に呼べん。触媒有りでも召喚に応じてくれる確率は限りなく低いというのに……」


 もの凄い早口で異常事態を語るメイナード。

 こんなにも興奮している姿は見たことないので少し面白い。

 しかし、触媒か。

 触媒ね。

 俺には心当たりがあるような……。


「なぁ、その触媒ってのはどんなヤツなんだ?」


「ラピスラズリは転生する際、極稀に心臓の一部を結晶化させる。それはそれは綺麗な瑠璃色の結晶…………というか、お前さんが持ってるそれは?」


蒼炎の九尾(キュアノス・エンネア)を倒した時に落ちていたから回収しておいたんだ」


「儂、お前さんたちが怖い!」


 絶叫するメイナード。

 それに反応したのかどうかは分からないが、蒼炎の九尾(キュアノス・エンネア)が優雅な足取りでこちらに近付いてきた。


「え? あ……」


 蒼炎の九尾(キュアノス・エンネア)はセラフィの手に頭を擦り付けた。

 これは、懐いている?


「ダンジョンの時は怖かったけど、これくらいの大きさなら可愛いね」


 セラフィが優しく撫でると嬉しそうに目を閉じる。


「熱くないのか?」

「全然大丈夫だよ。ルーファスも触ってみたら?」


 お言葉に甘えて、触ろうとすると青白い炎が激しく燃え出した。

 なんかめちゃくちゃ怒ってるんだけど。

 しかも、かなり熱いし。


 だが、セラフィが触ると何ともない。

 まるで犬や猫が飼い主に甘えるような素振りすら見せている。

 もしかしなくても俺は嫌われてるな。

 転生と言っていたから、コイツは俺たちと戦った個体なのか?

 だとしたら、嫌われているのは当然だ。


 見た感じで分かるが、セラフィと蒼炎の九尾(キュアノス・エンネア)はかなり相性が良いようだ。


「いい子、いい子。名前付けようね〜。何が良いかな……ラピス?」


 安直っ。

 しかし、奴は気に入ったようで九本の尾を嬉しそうに揺らしていた。

 それでいいのか……。


「可愛い〜! これからよろしくね、ラピス!」

「キュゥ!」


 落ち着きを取り戻したメイナード。

 なんだもう終わってしまったのか。

 滅多に見れない姿だったので、もう少し見ていたかったのに残念だ。


「なぜにそんなに懐かれているのか、儂にはさっぱり分からん」

「素質があったということだろ」

「それだけで片付けていいものか……あっ、お前さん、スキルを譲渡したのでは?」


 そういえば俺は『幻獣使役』のスキルを持っていたな。

 まぁ、基本的に魔術しか使わない俺には宝の持ち腐れ。

 どのような形であれ役に立つなら、それが一番だ。


「可能性はある。けど、大部分はセラフィ自身の力だ」

「そうかもしれんな。そうだ、お前さんが適当に持っているラピスラズリの結晶」


 俺は持っていた結晶に視線を落とす。


「これがどうした?」

「それこそが依代だ。常に身につけていられるように加工した方がいいぞ」


 確かにこのままでは無骨だ。

 これをずっと持ち歩いているセラフィを想像すると、なんだか悲しくなってきた。


「加工って簡単に出来るんですか?」

「これほどの代物となると一般の職人では難しいな。でも、安心してくれ。儂の友人に凄腕の職人が居る。ソイツを紹介しよう」

「感謝するよ」


 メイナードの人脈はとにかく幅広い。

 困った時に必要な人を紹介してくれるのは本当に助かる。



×××



 後日談。

 メイナードが紹介してくれた職人の手によって、例の結晶はペンダントになった。

 セラフィは首にかけており、胸元で瑠璃色の輝きを放っている。


 ギルドにいた冒険者たちが興味深そうにセラフィの足元にいるラピスを見つめていた。


「へぇ〜、これが幻獣ってやつか」

「これ熱くないのか……アチィ!」

「お嬢ちゃん、幻獣使いだったのか」

「すげぇな」

「コイツ、冬には便利そうだな」


 各々が感想を述べる。

 そして、分かったことはラピスの炎はセラフィ以外はみんな熱いということだ。

 因みにティナとヴァリスも検証済みだ。

 

 セラフィは注目を浴びて恥ずかしそうだ。

 だが、これで少しは印象も変わるだろう……そう思っていた。



×××



「よぉ、幻獣使いの胸のデカい嬢ちゃん。元気してるか?」

「食堂の娘じゃねぇか。さっき、お前んところで食って来たんだぜ。オヤジさんが作る飯、ホント美味いな」

「胸のデカい嬢ちゃん、あの幻獣出してくれないか? 今日はちっと寒いから暖を取らせてくれよ。頼むよ」


「………………」


 結局、セラフィの印象に『幻獣』というワードが追加されただけだった。

 


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