第33話 セラフィの素質
メイナードは家の近くの湖で釣りをしていた。
声をかけるより前に彼は俺たちに気付き、朗らかな笑みを浮かべた。
「ルーファス、ティナ」
「お久しぶりです、お爺様」
「少し見ないうちに大きくなったの」
ティナの頭を感慨深そうな面持ちで撫でるメイナード。
それからセラフィの方へと顔を向けた。
「お前さんがセラフィか」
「は、はい!」
「儂はメイナード。二人の保護者ようなものだと思ってくれればいい」
「よろしくお願いします」
挨拶を交わしてから、メイナードは嬉しそうな表情で俺に耳打ちした。
「あれが噂の幼馴染みか」
「ああ、凄く良い子だ」
俺はメイナードに今回訪れた件を説明した。
聞き終えたメイナードは鷹揚に頷く。
「なるほどの」
「頼めるか?」
「可愛い息子の頼みだ。しかも、相手は息子の将来の嫁となれば断る理由がないわい」
「お、おい!」
「あ、あの……それは……」
急にとんでもないことを言うメイナード。
全くおじさん、おばさんもそうだが、どうしてすぐにくっつけたがるんだ。
俺は全然構わないが。
チラリとセラフィの方を見ると目が合う。
なんか恥ずかしくて顔を背けてしまう。
セラフィなんて顔を真っ赤にして俯いてしまった。
「じゃ、じゃあ、頼めるんだな?」
「無論だ。セラフィ、明日から来れるか?」
「今からでも大丈夫です!」
「よく言った。それなら今から修行だ!」
「はい!」
セラフィ、メイナード、二人の瞳がキラキラと輝く。
かくしてセラフィの修行が始まったのだ。
×××
三日後。
俺は修行の様子を見にメイナード宅に訪れた。
「あっ、ルーファス。来てくれたんだ」
「調子はどうだ?」
「うーん、何とも言えないかな」
「そうなのか」
セラフィの芳しくなさそうな表情に些か驚いた。
メイナードの育成する能力は相当なものだ。
俺とティナを戦えるレベルまで鍛えてくれて、シェリルという奇才の能力を最大限まで引き出した実績がある。
それなのに?
「おお、ルーファスか。丁度良い時に来てくれた。ちょっと手伝ってくれ」
俺はメイナードとセラフィの後を追う。
入った部屋は他とは毛色が違い、重々しい雰囲気が漂っていた。
何よりも目を引いたのは床に大きく展開された魔法陣。
「これは契約召喚術式か?」
相変わらず綺麗な術式だ。
これなら魔力を効率良く術式に循環させることができる。
イヴィーの術式はお世辞にも綺麗とは言えなかったからな。
あまりに気になったので助言をしたら、『支援魔術もまともに使えないアンタの言うことなんて聞くわけないじゃない。二度と指図しないで』と水をかけられたな。
「修行していく中でセラフィにはテイマーの素質があると分かった」
「テイマーか」
「うん、そうみたい。でも、実感がなくて」
なるほど。
だからセラフィは微妙な顔をしていたのか。
確かに実際に使役してみないと何とも言えないだろうな。
契約召喚術式は通常の召喚術式とは異なり、契約に応じてくれる召喚獣を召喚するのだ。
契約のメリットは多くある。
一つ、召喚術式を展開する必要がなくなる。
一つ、召喚獣本来の力を発揮することが出来る。
一つ、コミュニケーションが取りやすくなるので連携しやすくなる。
などなど。
つまり、簡単に言ったらセラフィの相棒を呼び出すって訳だ。
セラフィの幸運値ならきっと強力なのを出せるはずだ。
「それで、俺は何をすればいい?」
「魔力供給だ。お前さんの魔力は質がすこぶる良いから、レアな召喚獣を呼べるかもしれん」
「そういうことなら任せろ」
俺はセラフィの隣に立つ。
セラフィは少し緊張しているようだった。
「大丈夫かな? 詠唱とか噛んじゃったらどうしよう」
「大丈夫だ。調整はメイナードがしてくれる。だが、詠唱に気を取られて魔力を注ぐのを忘れるなよ」
「うん」
準備が整い、召喚を始める。
セラフィが魔力を注ぎながら詠唱する。
それに合わせて俺も魔力を注ぐ。
少し辿々しいが、一言一言を丁寧に紡ぐ。
徐々に魔法陣が淡い光を放ち始める。
それは詠唱が進むごとに眩くなっていく。
「──彼方から来たれ、悠久の盟友よ!」
淡い光が部屋を染め上げた──。




