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第28話 勇者パーティーの崩壊③


 私たちは新しい街に来ていた。

 ここに来るまで、事あるごとに理由を付けて王国への帰還を促した。

 しかし、コイツらは決して止まらなかった。

 信じられないくらいペースは遅いが、それでも着実に魔王城へと近づいている。


 マズい。

 早くなんとかしないと。


「ここは平和そうだな」

「でもよ、いつ魔王軍の攻撃が来るかは分からねぇ」

「そうね。魔王を討ち取らない限り、真の平和はやってこないわ」

「ああ、だからこそ僕たちが魔王を倒し、真の平和を掴み取るんだ」


 吹き出しそうになってしまうのを全力で我慢する。

 ちょっと待って。

 めちゃくちゃ面白いんだけど。

 実力がある奴が言う分には様になるだろうけど、雑魚が言うと……ぷっ……面白過ぎる。


 というか、笑っている場合じゃない。

 私は馬鹿共の進行を止めなければいけないのだ。

 しかし、これまでの企みで分かったことがある。


 コイツらは基本的に人の言うことを聞かない。

 その上、自分たちが本気で魔王を倒せると思い込んでいる。

 ならば、だ。

 コイツらの自信を砕けばいいのだ。

 自分たちはどうしようもない雑魚だと自覚させる。

 そうすれば魔王討伐なんていう妄想から覚めてくれるだろう。


 だが、コイツらの自信過剰は筋金入りだ。

 他人がとやかく言っても右から左だ。

 なので、自分自身で気付いてもらうのが一番だ。

 とはいえ、そんな都合の良い機会があるわけ……。


「あった」


 私は思わず呟いてしまった。

 宿屋を探して街中を歩いていたら、偶然目に入った掲示板。

 そこには剣闘大会のお知らせが貼ってあった。

 こ、これだ!


「ねぇ、ちょっと見て」


 私はオスニエルたちを掲示板の前に誘導する。

 大会の日付は……明日だ。

 なんて、私は運が良いの。

 美しくて、賢くて、強くて、運が良いなんて……完璧過ぎるわ。


「ほう、剣闘大会か」


 オスニエルは顎をさすりながら興味深そうに張り紙を見つめる。

 ククク……アンタみたいな自己顕示欲の塊にとっては願ってもないイベントだろ?

 けど、それこそが落とし穴。

 お前はズタボロにやられて自信喪失。

 帰還ルート突入だ。

 

 イアンも確認。

 さりげなくオスニエルに密着しようしている。

 こらこら、気持ちを抑えきれていないぞ?


「ちょっと、そんなことに割く時間ある?」


 イヴィーが興味無さそうに鼻を鳴らす。

 コイツ……。

 水差すんじゃないわよ。


「それもそうかもな……」

「確かにな……」


 ほらー、すぐに言いなりになるんだから。

 もう少し自分の意思を持て。


「でも、対人戦は良い訓練になるのと思うの。今後、人型の敵が出てくる可能性もあるし」


 オスニエル、イアンではなくイヴィーに向けて言う。

 目は絶対に逸らさない。

 私の綺麗な青色の瞳に見つめられたイヴィーは頬を赤らめる。


「そ、そうね……それもありかもね」


 正直惚れられていることには困っている。

 しかし、こういう時には利用できるから良しとしよう。


 というわけで、オスニエルとイアンは剣闘大会に参加することになった。



×××



 翌日。

 闘技場は多くの観客で賑わっていた。

 参加者となったオスニエル、イアンと別れ、私とイヴィーが観客席へ。

 因みに自分たちが勇者パーティーというのは隠している。

 もし、知ってしまったら参加者が萎縮してしまうからとのこと。

 ふざけんな。


 ここに来る途中、チラッと参加者を見る機会があった。

 それなりに強いのが何人かいたので私は安心した。

 オスニエルたちは弱い。

 しかし、曲がりなりにも実戦経験を積んでいる。

 経験の差は時に技術すら凌駕してしまう。

 万が一にもアイツらのどちらかが優勝してしまったら全てがおじゃんだ。


「ねぇ、シェリル。賭けをしない?」

「賭け?」


 急にイヴィーが言い出した。

 というかあまり近付かないでくれない?

 物凄く鬱陶しいんだけど。


「オスニエルとイアンのどっちが優勝するか賭けましょう。負けた方は勝った方の言うことを何でも一つ聞くの。どう?」


 優勝前提で話進めるのやめない?

 賭け、ね。

 アンタ、私にいかがわしい命令しようとしているでしょ?

 けど、それは愚策よ。

 私、賭け事にはめっぽう強いのよ。


「いいわ。その賭けに乗った」

「じゃあ、先にシェリルが選んでいいわよ」


 うーん、正直どっちでもいいんだけど。


「オスニ……」

「へぇ……」


 イヴィーが明らかに不機嫌そうな表情をする。

 これ実質一択じゃん。


「じゃなくて、イア……」

「ふぅーん……」


 は?

 何で?

 ……あ、あー、そういうことですか。


「じゃなくて、イヴィーにしようかな」

「もうっ! シェリルったらお茶目なんだから。私は大会に参加してないわよ」

「そ、そうね。ついうっかり」


 イヴィーは嬉しそうに私に抱きついた。

 コイツ、超めんどくせぇ……。

 抱きつくな、鬱陶しい。


 結局、私はイアンに賭けることにした。

 なぜイアンにしたのか?

 彼は筋トレなど一応の努力をしている。

 しかも、好きになった相手が同性のどうしようもない馬鹿王子。

 なんて悲恋なんだ。

 イアンの方が多少同情の余地がある。

 ただそれだけだ。


 そうこうしているうちに剣闘大会が幕を開けた。

 正直言って退屈だった。

 私は特段剣闘が好きなわけじゃない。


 加えてレベルが低い。

 今のところ出てきている選手程度なら目を瞑っていても勝てる。

 もちろん剣技でだ。


 言うて、私賢者なんで。

 魔術だけじゃないんですよ。

 剣技、体術ひと通りこなせる。

 才色兼備って、私のことを言うのね。

 

 頬づえをつきながらぼんやりと観戦する。

 しかし、イヴィーは試合など一切見ないでずーっと私を見ている。

 私の横顔は大変美しいのは分かるけど少しは試合を見ろ。


 そして、次の試合。

 イアンが登場した。


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