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第27話 お母さん……お母さん!?


 それから数日後。

 俺、ティナ、セラフィ、ヴァリスは、各々荷物を持って屋敷の門前へと来ていた。


「今日からここが俺たちの家だ! はい、拍手!」


 俺の掛け声で拍手をするティナとセラフィ。

 ただ一人、金髪の美女だけは不満そうに頬を膨らませいた。


「なんだよヴァリス。めでたい日だってのにムスッとして」

「なぜ、貴様はワシが居ない間に面白そうなことをするんだ」

「いやだって、お前近所の子どもとザリガニ釣りしてただろ」


 ヴァリスは痛いところを突かれたみたいな表情をした。


「そ、そうだけど! うぅ……ワシだって屋敷幽霊行きたかった! 幽霊見たかったんじゃ!」

「今度墓地に連れて行ってやるから。墓地なら幽霊くらい居るだろ」

「絶対だぞ! 連れて行かなかったら骨を砕くからな!」

「分かった、分かった。って、サラッと怖いこと言うなよ!」


 俺たちは門前を入り、玄関まで向かう。

 そこでセラフィが首を傾げた。


「なんで玄関の扉ないの?」

「ま、まぁ......色々とな。ちゃんと直すから」


玄関に入ったところで、ティナが声を上げた。


「ただいま」


 ティナが笑うのを見て、俺たちも笑みをこぼした。

 そうだ、これからはここが俺たちの家なんだ。


「俺たちも言おうぜ」

「そうね」

「そうじゃな」

「じゃあ、行くぞ。せーの」

「ただいまー」

「おかえりなさーい」


 ………………ん?

 予想外の返答に俺たちは思わず目を合わせた。

 耳を澄ませると、屋敷内から玄関に向かってくる足音が聞こえた。


「あらあらまあまあ、やっと来てくれたのね。みんな、とーっても可愛くてお母さん嬉しいわ」


 エプロン姿の黒髪美女が満面の笑みで俺たちを出迎えてくれた。

 あれぇ? おかしいぞ?

 目の前にいる美女は数日前に成仏したはずのフェリシアなんだが。


「ちょ、ちょっと待ってくれ! 成仏したんじゃないのか?」

「バッチリ成仏したわ。でもね、新しい未練が生まれて戻って来ちゃったの」


 お茶目にウインクするフェリシア。

 そんな軽いノリで戻って来れるものなのか?

 いや、悪魔を取り込むような人だ。

 何でもありなんだろう。


「ああ! ティナちゃん、おかえりなさい!」

「ただいまです、お母様!」


 二人は満面の笑みで抱き合った。

 その姿は、本当の親子のようだ。

 いつの間にあんなに仲良くなったんだ?

 あぁ......もしかしてフェリシアの未練ってティナか。


「おい、ルーファス。あの女は誰だ?」

「なんか、あの人から底知れぬ狂気を感じるだけど……」


  謎の人物に首を傾げているヴァリスと、若干怖がっているセラフィ。

 そんな二人に視線を向け、フェリシアは母親のような優しい笑みを浮かべた。


「私はフェリシア。ティナちゃんの、みんなのお母さんよ。良いお母さんになるから、よろしくね?」

「お母さん!?」


 眉間にシワを寄せて、母性爆発お姉さんのフェリシアに詰め寄るヴァリス。


「お母さん? 貴様舐めてるのか」

「で、出た! ヴァリスの十八番、『初見威圧』!」

「初対面でいきなりあの威圧は肝が冷えること間違いなしです!」


 説明しよう。

 初見威圧とは、ヴァリスが初対面の相手に対して威圧して怯ませる奥義である。

 偉大なる龍ということもあり、その威力は絶大だ。

 因みに、本人曰くただ見ているだけらしい。


「あらあら、そんな怖い顔してちゃダーメッ。綺麗な顔が台無しよ」

「き、効いてませんよ! あんなに怖いのに!」

「これが全てを包み込むお母さん属性ってヤツなのかっ! めちゃくちゃ怖いのに!」

「おい貴様ら」


ジト目で睨み付けるミロスラーヴァに、俺とティナは目をそらす。


「さあさあ、みんな。まずはお茶にしましょう」


 包容力抜群の笑顔に、俺たちは首を縦に振ることしかできなかった。



×××



 場所は変わって広間。


「この人はフェリシア。屋敷の前所有者で、今はえっと......アンデッ......じゃなくて。悪魔? ……でもないよな。すまない、なんて説明すればいいか分からないんだが」


 色々とややこしい人で説明が難しい。

 困ってフェリシアに振ると、彼女も困ったように頬に手を当てた。


「そうねぇ。悪魔憑きの死人? 響きが嫌ね。リッチー? うーん、ちょっと違うわね。あ、ノーライフキングにしましょう。うん、とーっても格好良いわ」


 なんて適当な。

 本物のノーライフキングに怒られるぞ。


「お母さん、みんなのことを知りたいわ。そうね……茶髪の可愛い子から聞きたいわ」


 指名されたセラフィは持っていたティーカップを置いて自己紹介をする。

 まだ、不信感は消えないようで少し目が泳いでいる。


「えっと、セラフィーナ・ラーキンズです。みんなからはセラフィって呼ばれています」

「セラフィちゃん、ね。とーっても可愛いわ。私はあなたのお母さんよ。好きなだけ甘えてちょうだい?」

「あ、い、いや……お母さんは別に居ます」

「知ってる? お母さんって……増えるの」


 フェリシアはセラフィを優しく抱きしめた。

 最初は戸惑っていたセラフィだったが、段々と表情が和らぎ、最後にはとろんとする。


「……お母さん」

「そうよ、私はあなたのお母さんよ」


 お、落とした……。

 いや、これは魅了と言ってもいいのではないのか?


 すっかりセラフィを籠絡したフェリシアが次に選んだのはヴァリスだった。

 ヴァリスは仁王立ちして、声高らかに名乗りを上げた。


「我が名はヴァロスラヴァ、偉大なる龍である。セラフィは絡め取ったかもしれんがワシはそうはいかんぞ!」

「だから尻尾があるのね。すごーく素敵だわ。それにとーっても美人さん。お母さん、抱きしめちゃう!」


 フェリシアは自身の胸にヴァリスを押し付けて満足そうな笑みを見せていた。


「おい! 早く離せ! 貴様殺された......」


後頭部をガッチリ押さえられて身動きが取れずにヴァリスはジタバタしていたが、その動きが突然止まった。


「ヴァリス?」

「大変じゃルーファス! 離れたくなくなってしまった!」

「ヴァリス!?」

「なんじゃ!? なんじゃこれは! 全くもって逆らえん!」


 あのヴァリスすら沈めてしまうとは……。

 なんて恐ろしい母性なんだ。

 いや、よくよく考えたらヴァリスって子どもっぽいところあるから相性が良かったのかもしれない。


 満足したのかフェリシアは、ヴァリスを解放する。

 ヴァリスはちょっと物寂しそうな顔をしていた。


「じゃあ、最後は」


 にこにこしながらフェリシアさんが俺を見た。

 あ、そういえばちゃんと自己紹介してなかったな。


「俺はルーファス・ファーカー。魔術が好きなティナの兄だ」

「最愛のお兄様です!」

「あらあら、そうだったのね。ティナちゃんのお兄ちゃんなら、私の可愛い息子ね。息子……あぁ……どうしましょう。ずーっと抱きしめていたいわ」


 フェリシアは愛おしそうに俺を抱きしめた。

 な、何だこれは……っ。

 何だこの感覚は?

 フェリシアは死んでいるから、ひんやりとしていた。

 でも、自分の熱とフェリシアの冷たさが混ざり合って、絶妙な温かさになり、それがとても心地良い。


 さらに至上の母性に包まれているため、心の底から安心感と幸福感が止めどなく溢れて来る。

 ついでに胸の柔らかさが極上過ぎる。

 あぁ......これはダメだ。

 ずっと抱きしめて貰いたい。


「ルーファス代われ! ワシももっと抱きしめて貰うんじゃ!」

「もうちょい! もうちょっとだけ!」

「あの、私も......その、お願いしたいかな」

「お母様、そろそろティナも抱きしめて欲しいです」

「はいはい。もう、困った子たちね」


 フェリシアの母性に全員が完全に落とされてしまったようだ。

 かくして、俺たちパーティーに新たな仲間......いや、お母さんが加わった。



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