表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

25/105

第25話 いい夫婦になれたかも


 まるで巨人が現れて寝室を抉り取ったようだった。

 俺たちが居た寝室は跡形もなく吹き飛んでしまった。


「死ぬかと思った......」


 残骸が散らばる廊下で、俺は安堵の息を漏らした。

 爆発が起こる寸前、モカは魔術で壁を壊し、俺を蹴り飛ばして廊下に避難させてくれた。

 だが、モカの姿はどこにもない。

 まさか、俺を助けるために犠牲に......。


「そんな......嘘だろ。モカ......」


 膝から崩れ落ちた。

 正直、変な子だった。

 寝てばかりいて、屋敷は平気で壊すし、魔術師のくせに杖を鈍器と言い張る、極めて変な子だ。

 でも、数時間だけだが一緒にいたから少しばかり仲間意識が湧いていた。

 これから、きっと仲良くできたかもしれない。

 でも、それはモカが居なければ成立しないんだ。

 俺の、俺のせいでモカは......。


「ごめん、ごめんモカ......俺はなんてことを......」


 悔やんでも悔やみきれない。

 一人の少女が命を落としてしまった。

 妹のルカには何て言えばいい?

 俺は一体どうやって償えばいいんだ......。


「うにゃー、しんどいしんどい......早く寝たいにゃ」


 そんなことを言いながら、死んだはずのモカが隣の部屋から当たり前の様に出てきた。


 ..................。


「えっと、本物か?」

「何言ってるにゃ。モカがモカ以外に居る訳ないにゃ」


 生きていたことに素直に安堵。

 それと同時に疑問が湧いて来た。


「なんで......だって、あの爆発に」

「モカが自分の魔術に巻き込まれるようなヘマする訳ないにゃ。魔術が発動する瞬間にお前を廊下に退避させた後、窓から出て隣の部屋に移動したにゃ」


 俺は絶句した。

 魔術が発動するまで約一秒のタイムラグがあったが、その時間でモカは先の行動を全てをやってのけたのだ。

 何が凄いって、その冷静な判断力だ。

 元宮廷魔術師は伊達じゃないってことか。


「お見それいたしました」

「そう思うなら、パンツ返せにゃ。さっきからスースーしてしょうがないにゃ」

「断る」

「何でにゃ!?」


 それとこれとは話が別だ。


「モカのおかけで呪いの部屋を突破出来たのは事実だ。それには感謝している。でもな、今ので屋敷の修理費は目も背けたくなる額になったのは確かだ」

「だから何にゃ? 下手したらモカとお前は子ども出来るまで子作りしていたのかもしれなかったにゃ」


 子ども出来るまで子作りか......あれ?

 冷静に考えてみたらそんなに悪くなかったんじゃないか?

 子どもが出来たら、責任はとって結婚するとして。

 そうなると、俺のお嫁さんは猫耳美少女だ。

 猫好きだし、美少女も好きだ。

 俺の好きが掛け算した奇跡の存在と夫婦になるのか......。


「俺たち、良い夫婦になれたかもな」

「頭が呪いに侵されておかしくなったのかにゃ!?」


 子どもができたらモカにも母性が芽生えて、常識を取り戻して良いお母さんになるかもしれない。

 それに、きっと可愛い子が生まれてくるだろう。


「くっ、俺は惜しいことをしたのかもしれない……っ!」

「トチ狂ってないで、早くパンツ返せにゃ!」

「断る」

「お前殺されたいのかにゃ!?」


 いかんいかん、少し自失していた。


「さっきこれ以上屋敷を壊したらスカートをひん剥くと言った。けど、自分の身をかえりみず俺を助けてくれた。それにノーパンの女の子からスカートを剥ぎ取るのは俺だってしたくない」


「どの口が言ってるにゃ」


「そこで取引をしようじゃないか。俺が求めるのはさっきのティナ、ルカのパンツを剥ぎ取る発言の取り消しと屋敷破壊の自重。それを承諾してくれるなら、この任務終わりにパンツは返そう」


「ふざけんにゃ! どっちみち屋敷出るまでスースーしたままじゃないかにゃ!」


 俺とモカが言い合いしていると、爆音に気付いたティナとルカが驚いた表情でやって来た。


「凄い音してましたけど大丈夫......じゃないですね」


 駆けつけた二人はなぜか、俺に視線を合わせてくれなかった。

 好機と思ったのか、モカはニヤつきながらルカの背中に隠れて嘘泣きを始めた。


「ルカ、ルカ......コイツがモカのパンツを剥ぎ取りやがったにゃ」

「えっ!?」

「返せって言っても返してくれない......挙げ句の果てにベッドに押し倒して孕ませるまでやめないって......モカ怖いにゃ」

「誤解を招くような言い方をするな! ちょっと待って! そんなゴミを見るような目で俺を見ないで! 違うから! 本当に違うから!」


 完全に変態を見る目で俺を睨み付けるルカ。

 姉想い(?)の彼女のことだ。

 誤解を解かないと殺される気がしてしょうがない。

 一方のティナは、頬を赤らめてモジモジしながら俺に言う。


「......その、ティナにそういうことするのは倫理的にどうかと思います」

「へ?」

「でもお兄様が望むなら、ティナはこの身を捧げます!」


 血の気が引いた。

 まさか、あれが聞かれていたのか。


「違うから! そんなことするつもりないから! そんなこと絶対しないから! ルカは殺す気満々で近付いて来ないでくれ! モカ! おいモカ! 全部ちゃんと説明しろよ!」

「ぐうぅ......」

「寝るなぁ!!」


 誤解を解くのにどれほどの時間を費やしたか。

 夜空が若干明るんで来ていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ