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第23話 呪いの寝室


 ルーファス、モカのペアが二階を探索している一方、ティナとルカのペアは一階を探索していた。

 いや、探索というより下見だ。

 というのも、なぜか二人の前には悪霊の類いが全くと言っていいほど現れない。

 こうも何もないと警戒心を維持するのは難しい。

 ティナとルカは和やかな雰囲気で、談笑をしながら一階を見て回っていた。


「ここが広間ですか」


 ティナは備え付けの照明を起動させる。

 テーブルに椅子は新品同様の美しさ。

 座り心地抜群そうなソファーの前には、丁寧に手入れがされた暖炉。

 必要家具が揃った、文句無しの広間がティナたちの瞳に飛び込んで来た。


「うわぁ、綺麗」


 ルカは目を輝かせながら、広間をクルクルと見渡す。

 先ほどまでは、姉に対しての歪んだ愛情ばかりが目立っていたが姉から引き剥がされれば、ルカもどこにでもいる少女だ。


「このソファーとってもふかふかそうです」


 ソファーを眺めるティナにルカが優しく声をかける。


「座ってもいいと思います」

「じゃあ、一緒に座りましょう」


 ティナとルカはソファーに座った。

 硬過ぎず、柔らか過ぎでもない。丁度良い心地良さが二人を優しく包み込んだ。

 いつまでも座っていたくなる、そんな感触だ。


「これは気持ち良いですね」

「えぇ、とても良いです」


 しばらくソファーに座っていると、屋敷全体が微かに揺れた。


「何でしょう?」


そのすぐ後にルーファスの叫び声が薄っすらと聴こえて来た。


『あぁ! 壁に風穴空いてるじゃないか!』


 どうやらルーファスと一緒に行動していたモカが何かやらかしたようだ。

 やらかすモカを怒鳴るルーファス。

 その光景を想像してティナはクスクスと笑う。


「......お姉ちゃんがごめんなさい」


 事態を察したルカが、申し訳なさそうに頭を下げた。


「謝ることはありません。お兄様、楽しそうなのです」

「どう解釈しても楽しそうに聞こえないんですが......」

「お兄様は猫好きですから」


 ルカはポツリと呟いた。


「猫好き、ですか」

「はい。ちなみにティナも猫は大好きです!」


 ソファーを堪能した二人は広間から出て他の場所へと移動する。

 それは、台所を見終えて浴室に向かっている最中のこと。

 再びルーファスの大声が聞こえて来たのだ。


『ああ! やってやるよ! ティナとルカのパンツは絶対に剥ぎ取ってやる!』


 意味不明な破廉恥発言にルカはスカートの裾を押さえて顔を赤面させた。

 二階で一体何が起こっているというのだ?



×××



「なっ……」


 俺は今、目の前で起こっている現象に疑問しか浮かばなかった。

 これはどういうことなんだ?

 目的がさっぱり分からない。

 仕組みも分からない。

 超常現象としか言いようのない出来事。


「............……」


 モカが宙に浮いたまま身動きを取らないのだ。

 だらんと伸びた手足。

 まるで、ぬいぐるみのようだ。

 ちょっと微笑ましい。


「誰かこれの意図を教えてくれ……」


 ただ宙に浮いたまま。

 なんならモカは少しくつろいでいる。


「空中で寝るのは初めてだから楽しみだにゃ」

「落ち着きよう半端ないな!」

「これは寝れ......にゃにゃ!?」


 突然モカが暴れ出した。

 見えない何かと攻防を繰り広げ始めた......いや、よく見るとスカートを必死に押さえているだけだ。

 奇妙なことにスカートがひとりでにずり落ちていっている。


「これは......新手のご褒美なのか?」

「バカなこと言ってないで助けろにゃ!」

「そう言っても届かないんだ!」

「じゃあ、こっちを見るにゃ!」


 そうは言っても、俺だって年頃の男子だ。

 見ちゃいけないのは重々承知なのだが、目がどうしても離せない。

 見えそうで見えない、そんなもどかしさが俺を翻弄する。

 助けたい気持ちはあるが、この後どんなことになるか気になる俺もいる。


「俺はどうすればいいんだ!」

「こっちを見るなって言ってる......にゃ............」


 モカの動きが止まった。

 俯いているが、俺の位置からだと顔を真っ赤にさせて恥ずかしがっているのが分かる。

 すると、床に何かが落ちた。

 俺はそれを拾い上げて絶句した。


「パンツ、だと……?」


 それはどう見てもパンツだ。

 まごうことなきパンツ。

 パンツを拾った真上にはモカがいる。

 ということは、だ。

 これは、モカのパンツに他ならない。


「お、お前、絶対に上見るにゃ! 見たらブッ殺すにゃ!」


 モカの羞恥と焦りが混ざった声が上から聞こえる。


「そ、そんなことしない!」


 俺は身動きが取れないノーパンの女の子を下から覗き込むなんて、卑劣な行為は断固としてしない。

 そう、断固としてだ。

 しかしながら、本能というのは非常に強力だ。

 正直負けそうだ。

 頼む……俺に力を貸してくれセラフィ!


 いつ理性が負けるか分からないから俺はモカの真下からさっきの位置に戻る。

 謎の現象は俺の鋼の理性に怯んだのかモカを降ろしてくれた。

 衣服がところどころ乱れていて、目のやり場に困ってしまう。


「大丈夫か?」


 モカは俺に手を伸ばしてきた。目を伏せて頬を赤らめる仕草は恋する乙女のようだ。

 おぉ......ちょっとドキドキして来た。


「......パンツ返して欲しいにゃ」


………………。


「にしてもこの部屋はどうなっているんだ?」

「おい、ズボンのポケットに突っ込んだパンツ返せにゃ」

「もしかしたらここに悪魔がいるんじゃ......」


 涙目になったモカがいきなり胸ぐら掴んで来た。


「無視してるんじゃないにゃ! パンツ返せにゃ!」

「断る」

「はぁ!? 人のパンツ盗ってどうするつもりにゃ! 変態かにゃ!? お前は変態なのかにゃ!?」

「うるさい! いいか? 次に少しでも屋敷壊してみろスカート容赦無くひん剥くからな」


モカの顔が一気に青ざめてスカートを押さえる。


「最低にゃ! 最低最悪の変態にゃ! お前はモカに何の恨みがあるんだにゃ!?」

「屋敷を容赦なくブッ壊すからだよ! それにあの杖の使い方は魔術師として絶対に許せない!」


 俺だって本当はこんなことはしたくないんだ。

 でも、こうでもしないとモカの動きを封じることが出来ないんだ。

 モカという強力な戦力を失うが、屋敷の破損と天秤にかければ、どちらが傾くかは言うまでもないだろう。


 自分で選んだ選択だ。

 それ故にモカは俺が何が何でも守り抜く。

 とりあえずお姫さま抱っこしたモカを、ベッドに降ろしてその横に座り肩に手を回す。


「......お前何やってるにゃ?」

「......俺も自分で何ってるか分からないんだけど」


 自分の意思とは関係なく体が勝手に動いてしまい、遂にモカを押し倒してしまう。

 はだけた衣服、月明かりに照らされた白い素肌は艶やかで、思わず生唾を飲み込んだ。


 一体何が起こっているというんだ!?


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