第21話 屋敷探索
「ここか......」
俺たちは屋敷の門前に来ていた。
屋敷の周りにはハッキリと目視出来る強力な結界が張られていた。
それは、淡い紫色の輝きを放ち、禍々しい雰囲気を醸し出し近寄りがたさを演出していた。
うん、普通に怖いな。
考えてみれば幽霊屋敷なんだ。
いや、悪魔屋敷か。
「お兄様! 悪魔とはどんな見た目なんですかね?」
「ぐうぅ」
「はぁ、はぁ......お姉ちゃんの寝息が首筋に......うんっ」
何だこの緊張感のなさは。
目の前にあるのは悪魔がいる屋敷だぞ?
下手したら悪魔と戦うかもしれないのに、この緩さ......まるで遠足だ。
「てか、変態妹。何で怠惰姉おぶってんだよ?」
ギルドから屋敷までの距離はそう離れていない。
それなのに、この黒猫はずっと白猫の背にのしかかっている。
俺の記憶が正しければ、モカはギルドを出てから一回も地面を踏んでいなんだが。
「お姉ちゃんを背負うのは妹である私の役目ですから」
「そんな役目聞いたことないんだが…..。ほら、もう降ろせよ。足ガクガクじゃないか」
「こ、これは疲労とかでは......」
「はぁ?」
「はぁ、はぁ、こんなにお姉ちゃんを触っていたのは久しぶりで......はぁ、はぁ、こ、興奮でどうにかなりそうで......」
「この正直者! 少しは本音と欲望を隠せ!」
俺の大声で目が覚めたモカは、ルカから降りて杖に寄りかかり欠伸をする。
「うるさい奴だにゃ。人が気持ち良く寝てたのに起きちゃったじゃにゃいか」
「いくらなんでも寝過ぎだろ……。俺たちと会ってから五分も起きてないだろ」
「モカは猫の亜人にゃ。寝る子と書いて、寝子......つまりそういうことにゃ」
「どういうことだ!?」
モカのマイペースさに多少疲れながら、改めて結界に視線を向ける。
「とても強い結界ですけど、破る手段はあるんですか?」
ティナの意見。
双子の前評判は聞いているが、こうも強力そうな結界を前にすると大丈夫なのかと思ってしまう。
すると、馬鹿にするようにモカは鼻を鳴らす。
「悪魔の張った結界だろうと、魔王の張った結界だろうと、ルカにかかれば余裕にゃ」
「魔王はちょっと......でも、この結界なら解除できると思います」
そう言うと、ルカは結界に向けて杖を構える。
杖に大量の魔力が集中していくのを感じて、その量に鳥肌が立った。
これだけで分かる。
彼女は相当な実力者だ。
十分な魔力を溜めたルカは結界を破る魔術を放った。
「──セイント・プルカジオン!」
屋敷囲む結界よりも大きな魔法陣が展開され、青白い煌めきが淡い紫を飲み込んでいく。
限界を超えた結界は、光の粒子となり虚空に溶けて消えていった。
青白い光が静まると、屋敷に張られていた結界は見事に解除されていた。
「さぁ、行きましょう」
俺たちは屋敷の敷地内へと入っていく。
結界のせいで五十年近く手付かずだったはずなのに、屋敷は不気味なほどに綺麗な状態だった。
まるで、時が止まっていたみたいだ。
「開かない」
屋敷の扉に手をかけるが、鍵が掛かっているようで開けることが出来ない。
どうやって屋敷内入ればいいんだ?
窓割って入るか?
いや、それは......修理費がかかるから控えたい。
「ちょっと退くにゃ」
「え、ちょっ……」
正直に言おう。
この瞬間何が起こったか分からなかった。
結果だけを伝えると、『何の予兆もなく屋敷の扉が吹き飛んだ』。
もちろん絶句したさ。
いきなり扉が吹っ飛んだんだからな。
ただ分かることは、この黒猫魔術師が何かをしたということだけだ。
「よし、これで行けるにゃ」
「お前何してんだよ!」
「魔術で扉をブッ壊したにゃ」
「そういうこと聞いてんじゃないんだよ! わざわざ壊す必要あるか! このクエスト終わったらここに住むんだからあんまり壊さないでくれよ!」
扉の修理は確定してしまった。
これ以上の損壊は阻止したいところ。
俺の懇願に対して、モカは任せろと言わんばかりのドヤ顔を見せる。
「全壊はさせないから安心するにゃ」
「安心できないんだが……」
モカを止める方法はないのかと考えつつ、ガラスの散らばった玄関を通り屋敷内に潜入。
やけに重たく息苦しい空気が漂っていて、あまり長く居ると精神がやられそうだ。
ランタンに火をつけて灯りを確保する。
「これからどう動く?」
依頼では屋敷内がどれほど荒れているか確認のための内部探索とあったが、恐らくは建前だろう。
本当の狙いは悪魔の撃退、資産家の死を確認することのはず。
......気持ちの良い依頼じゃないな。
「二手に分かれて屋敷内を探索しましょう」
「分け方はどうするの?」
「そうですね」
話し合いの結果、俺とモカ、ティナとルカになった。
俺とモカの組み合わせの理由は単純に監視だ。
放っておくと手当たり次第にブッ壊しそうで怖い。
幽霊、悪霊より怖い。
というか、俺だって魔術使うの我慢しているのにずるい。
探索は俺たちが二階、ティナたちが一階となった。