第2話 故郷と妹
パーティーを追い出されたのは正直ショックだったが同時に安心もした。
これからは冷たい目を気にしたり、陰口に耳をふさがなくても済む。
それに、だ。
好きに魔術をブッ放すことができる。
俺は魔術を使うのが好きなんだ。
それなのに邪魔だから使うなとオスニエルたちにうるさく言われていた。
でも、文句を言う奴はどこにもいない。
これからは好き放題使ってやる。
「とりあえず家に帰るか」
俺は故郷に戻ることにした。
×××
始まりの街、ビギン。
この街の周辺に出現するモンスターは比較的に弱く物価も安い。
冒険者になって日が浅い者はここで基礎を学び、ある程度の実力を身につけてから次の街へと向かう。
ある意味、冒険者にとって必要な場所。
そして、俺の故郷でもある。
「おい! ルーファス! ルーファスじゃないか!」
久々の故郷を散策していると大きな声で俺の名前を言う奴がいた。
声の方向を見ると冒険者仲間たちが満面の笑みで手を振っていた。
「みんな!」
再開に俺は嬉しくなって小走りでみんなの元に向かう。
「会いたかったぜ、ルーファス。ところで何でここに居るんだ? 勇者パーティーに任命されて魔王討伐に行ったんじゃないのか」
「実は追い出されたんだ。お前の魔術は使い物にならないって」
俺は真実を言った。
すると、みんながドッと笑い出す。
「そうか! そりゃあ災難だった! でも良かったじゃないか。魔王討伐なんて命がいくつあっても足らないぞ」
「確かにな」
「そうそう。これからはオレたちと気楽な冒険者生活やろうぜ」
「それもそうだな」
元よりそのつもりだった。
俺はとにかく魔術さえ使えれば何でもいい。
それに、この街に戻ってきた大きな理由がもう一つ。
「ティナは元気にしているか?」
「元気も元気だ。お前が帰ってくるまで、この街を守るってな」
「大袈裟な。どこにいるか分かるか?」
「この時間ならギルドに居ると思うぜ」
「ありがとう。また、ご飯でも食べよう」
そう言って、俺はギルドへと向かった。
×××
冒険者ギルドは相変わらずのにぎわいだった。
その殆どが冒険者になったばかりの者で初々しさがある。
俺はティナを探す。
しばらくするとそれらしい人影を見つけた。
動きやすいように肩の辺りで切り揃えた黒髪、大きな瞳、小柄で華奢な体躯の少女。
「おーい、ティナ」
俺が声をかけると、ティナの動きが止まった。
それからゆっくりと俺の方に顔を向けた瞬間、彼女の姿が消えた。
次の瞬間、体に軽い衝撃。
ティナが抱きついてきたのだ。
「お兄様! いつ帰ってきたのですか!?」
「ついさっきだ」
ティナは俺の妹だ。
髪の色とかは似ているのに、顔立ちはあんまり似ていない。
ティナは兄の俺から見ても美人だ。
「なるほど。つまり魔王を倒して戻ってきたというわけですね」
「いや、そういう訳じゃないんだ」
俺は事の顛末をティナに伝える。
聞き終えた我が妹は腰に差していたナイフを手に取る。
「ちょっと、今からその無能どもを暗殺してきます」
「やめてくれ!」
「何でですか!? お兄様の凄さを理解できない輩など生かしておく価値ありません」
なぜか知らないのだが、ティナは俺を過剰によいしょする。
嬉しくないと言ったら嘘になるが……。
妹に慕われているのは悪い気はしないが、たまに過激で困る。
「ところでティナ。今、パーティー組んでいるか?」
「いえ、お兄様と組む予定なので、と言って全て断っています」
「話が早くて助かるよ」
俺はティナとパーティーを組んだ。
フリーだったのは本当に助かった。