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第19話 家を探そう


 始まりは些細なことだった。

 いつも通りにギルドに顔を出すと、職員の一人が俺に話しかけてきた。


「あのー、ちょっといいですか?」

「どうしました?」


 いつも話しかけてくれる職員さん。

 天気の話とか街の噂話とかいったたわいない会話ばかりだが、俺は毎日の楽しみとしている。

 しかし、今日はいつもと少し様子が違った。

 何かあったのだろうか?


「ヴァリスさんって、ルーファスさんのパーティーメンバーですよね?」


 あ、なんか嫌な予感が。


「はい。ヴァリスが何か」

「実は……ヴァリスさん、閉館時間を過ぎてもずっとギルドに居るんですよ。そのせいで戸締りができなくて。我々が言っても全然聞いてくれないのでルーファスさんから言ってくれませんか?」


 俺は固まってしまった。

 知らないところでパーティーメンバーがめっちゃ迷惑かけていたようです。



×××



 我がパーティーの美女さんは近所の子どもたちとザリガニ釣りをしていた。

 子どもか……。

 コイツ、暇なときはいつも子どもと遊んでいるか酒盛りしているな。

 この間、お母さんたちに『ヴァリスさんが一緒に遊んでくれるから安心だわ』って感謝された時の言いようのない恥ずかしさと来たら……。

 というか、見た目は成人女性だぞ。

 安心できるのか?

 むしろ怖いと思いのだが。


 で、話を聞くためにヴァリスをギルドに連行した。


「ったくなんじゃ? せっかくデカイのが釣れそうだったのに」

「おい、ヴァリス。お前、普段どこで寝泊まりしてるんだ?」

「ここじゃ」


 コイツ、なんの悪気もなく言いやがった。


「ここで寝泊まりしちゃダメなんだ。職員の人が迷惑しているから今日から別のところで寝るようにするんだ」


「はぁ!? じゃあ、ワシは雨風に晒されて寝ろというのか! 貴様、ブッ飛ばされたいのか!」


「宿でもなんでもあるだろ!」


「グゥハハハハハハ────!! 金なぞ持っておらんわ。酒盛りに全部使っておるからの!」


 大口を開けて笑うヴァリス。

 なんたる楽観主義。

 いや、快楽主義というべきか。

 ここまで悪気がないとなると爽快感すらある。


 しかし、どうしたものか。

 俺の家は?

 いいや、ティナと二人でも手狭なのにヴァリスが入ったら家が壊れる。


 セラフィの家は?

 きっと快く受け入れてくれるだろうが、ご両親に負担をかけてしまうそうだ。

 大喰らいだから、店に出す分の食材まで食べてしまいそうだ。


 俺がうんうん悩んでいると、後ろから声をかけられた。


「お困りのようだな、ルーファス」

「マーティンじゃないか」


 照明によってより一層煌めく禿頭。

 穏やかな面持ちに反して、鍛え上げられた肉体を持つ男性。

 彼の名はマーティン・ベック。

 このギルドのギルドマスターだ。

 元は冒険者で相当な実力者で『先読みのマーティン』と呼ばれていたらしい。


「確かにヴァリスの居住問題で困ってるよ」

「そうだと思った。そんなお前たちに良い話があるんだ」

「ギルドマスターが直々って、なんか怖いな」

「こちらとしてもギルドの戸締りができないのは困るんだ」

 

 お互いの問題を解消出来るということで、マーティンの話を聞くことにした。

 俺たちは関係者以外立ち入り禁止の扉を進んで会議室のような場所に連れて来られた。

 椅子に座ってから、マーティンはゆっくりと口を開いた。


「少し昔話を聞いてもらおう」



×××



 これは、とある屋敷の話。

 その屋敷には資産家が住んでいた。

 それなりの地位、豊富な資産、夫婦仲も良好。

 周りからすれば羨ましい限りの生活を送っていた。

 しかし、資産家には一つだけ悩みがあった。


 子宝に恵まれなかったのだ。

 養子を取ろうという話が何度か出たが、結局は取ることはなかった。

 理由は資産家が自分たちの子どもにこれまで築いてきたモノを与えたいと強く希望していたからだ。

 資産家は年老いても子どもを諦めようとはしなかった。

 最愛の人が死んでもなお、夫婦の子どもを作ろうとしていた。


 それは、願いなんて優しいものではない。

 それは、執念なんて苦しいものではない。

 それは、呪い。


 資産家の想いは呪いとして捻じ曲がり、精神を蝕んでいった。

 呪いに毒され狂人となった資産家は晩年を過ぎた頃あろうことか悪魔を呼び出し、最愛の者と自分の子どもを悪魔に願った。



×××



「──さて、その資産家はどうなったと思う?」

 

 ストーリーテラーのように流暢に昔話を聞かせてくれたマーティン。


「エクソシストを呼んで祓ってもらったんじゃないのか」

「なるほど、エクソシストと来たか。エクソシストが資産家に取り憑いた悪魔を命懸けで祓う、実に面白い展開だと俺は思う。でも、事実は小説より奇なりだ」

「ってことは、奇妙なことが起こったと」


 俺の相槌に、マーティンは心底楽しそうに指を鳴らした。


「その通り。その屋敷は程なくして強力な結界が張られた。それを実行したのは恐らく悪魔だ。けど、変だとは思わないか? 資産家は子どもを願ったのになぜ屋敷に結界が張られたのか」


「言われてみればそうだな」


「さらに不思議なのは、結界が張られたのは今から約五十年前。けど、結界は今現在も張られたまま。資産家が悪魔を召喚したのは晩年。普通に考えて資産家は死んでいるはずだ。と、ここまでが前置きで、本題はここからだ」


 中々興味深い話だった。

 俺は楽しんで聞いていたが、ヴァリスは寝ていた。

 その鼻ちょうちんを割ってやりたい。


「実は資産家の親族が屋敷の調査をウチに依頼してきた」

「そうなのか」

「このクエストの特別報酬として屋敷の所有権を受け取れることになっていたんだ。取り壊すくらいなら誰かに使って貰いたい、と親族からの要望だ」

「ということはそのクエストを俺たちに斡旋してくれるのか?」


 マーティンは首肯する。


「依頼者への確認は必要になるが、まぁ、問題無いだろう。条件としてウチの職員と共にクエストに挑んでくれ。元々はその二人が受けた個人的な依頼だったんだ」


 そのクエストを達成すれば屋敷が手に入るってことか。

 若干曰く付きだけど、なんてたって屋敷だぞ。

 ヴァリスの問題も解決出来るし、みんなで暮らせるじゃないか。


「それは構わないが。その二人だって屋敷に住みたいんじゃないのか?」

「いや、興味無いと言っているから安心してくれ」

「じゃあ、ありがたく頂戴するよ。ところで、その二人の職員って誰のことだ?」


 職員の中に戦える人は何人かいる。

 割と冒険者からギルド職員になる人は多い。


「お前が居なかった間に入ってきた新入りだ。実力は保証するが……かなりの問題児だ」


 結局、俺はクエストを引き受けることにした。

 帰り際、マーティンが引き止める。


「ティナを連れていくことを勧めるぞ」

「ティナをか?」


疑問符を浮かべ首を傾げる俺を見て、マーティンは意味深に呟いた。


「資産家はな、それはそれは綺麗な黒髪の持ち主だったらしい」


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