第17話 ダンジョン攻略
ダンジョン内は洞窟という感じではなく、城の地下通路のように舗装されていた。
このタイプは進みやすくていいが、その分トラップとかも多いから慎重に進まないとな。
「思ったより中は広いんだね」
初めてのダンジョンに不安を隠せないセラフィが呟いた。
「ダンジョン内は異界化しているからな。外見と中身が全く違うんだ」
「物にもよりますけど、あまりに広過ぎてダンジョンからでれなくなった冒険者とかも居ますからね。お互いに離れないようにしましょう」
そう言ってティナは俺の腕に抱きついた。
全く甘えん坊だな。
甘えられて上機嫌になった俺はティナの頭を撫でる。
しばらく進むと、広い部屋にたどり着いた。
部屋には三つの扉があった。
恐らく……というか絶対に一つは正解で、あと二つはトラップなんだろうな。
「セラフィ、選んでくれ」
「わ、私が?」
「はぁ!? なんでコイツなんじゃ! ワシに選ばせろ!」
それまで大人しくしていたヴァリスが急に声を上げた。
「こういう運が絡む選択の場合は幸運値が高いメンバーに任せるのがセオリーなんだ」
「そんなの知らんし! ここまで退屈で死にそうじゃったんじゃ! 暇潰しさせろ!」
「暇潰し感覚で選ばせられるわけがないだろ!」
ヴァリスは尻尾をびたんびたんと地面に叩きつけて「嫌じゃ! 嫌じゃ! ワシが選ぶんじゃ!」と駄々をこねだした。
め、めんどくせぇ……。
見た目は美女なのに中身は子供じゃないか。
「選ばせてあげてもいいんじゃないかな?」
「当たる可能性もありますからね」
苦笑い顔の二人に説得されて、俺は大きくため息をついた。
それから荒ぶるヴァリスに言う。
「分かった。ヴァリスが選んでいいから」
「本当か! グゥハハハハハハ────!! 任せろ、ワシにかかれば正解の扉なぞ一発じゃ!」
一気に元気になったヴァリスが三つの扉の前に立ち悩み始める。
その後ろ姿を見ながら、俺はセラフィに聞いてみた。
「ちなみにどの扉だと思う?」
「うーん、どれもしっくり来ないかな。全部嫌な感じがする」
「全部?」
「うん。でも、ただの直感だから」
そう言うが、直感というのは理論すら超越してしまう時もある。
特にセラフィのとなると無視することは難しい。
俺は扉選びをしているヴァリスを一旦止めようとする。
「なぁ、ヴァリス……」
「決めた! この真ん中の扉じゃ! 絶対そうに違いない!」
が、ヴァリスは決めた扉を勢いよく開けてしまう。
モンスターかトラップが来ると思い構えるが特に何もない。
もしかして正解を引いたのか?
恐る恐る扉の向こう側を除く。
先には通じてなく、小さな空間にポツンと宝箱が置いてあった。
めっちゃ怪しい……。
ティナとセラフィの表情を見て、二人とも俺と同じ結論に至っているのは容易に想像出来た。
これモンスターだ。
ダンジョンにおいて、宝箱に擬態して冒険者に襲いかかるモンスターはあまりにも有名だ。
それでも被害者は多くいる。
モンスターだと頭では分かっていても、もしかしたら本物の宝箱なのではという誘惑に駆られてしまうのだ。
「正しい道ではなかったが宝箱があったぞ!」
「ダメだ、ヴァリス!」
俺が止めるよりも早くヴァリスが宝箱を開けてしまう。
その瞬間、宝箱……ではなく空間自体が歪み変形していく。
おぞましい顔のモンスターだ。
宝箱ではなく、その空間自体がモンスターだったなんて。
「──グラニティス!」
俺は杖を振るい魔術を行使する。
地面を土魔術で強引に隆起させて、ヴァリスを空間の外へと弾き飛ばす。
ヴァリスが出たのと同時にティナが扉を勢いよく閉める。
「今のなんじゃ?」
「モンスターだ」
「ほほう、小賢しい奴も居るわけじゃ」
納得したように起き上がったヴァリスは大きく息を吸いながら先ほどの扉をもう一度開ける。
再びモンスターが牙を剥く。
しかし、そんなことを気にせずにヴァリスは一切の躊躇無しに炎を吐き出した。
あっという間に空間は火の海になり、モンスターが苦悶の金切り声を上げた。
「ワシを喰らおうなど数千年早いわ!」
バタンと扉を閉めて、ヴァリスはフンと鼻を鳴らした。
扉の隙間からは呻き声と煙が漏れる。
ちょっとモンスターに同情してしまった。
「……一つは潰れたので残りは二つですね。あの、ティナも選んでみたいです」
「分かっているのか? 俺とティナは幸運値が最低なんだぞじゃあ残った扉は俺が開く」
「ルーファス!?」
やっぱり冒険者たるもの好奇心には勝てない。
俺は右側、ティナは左側の扉を開けることになった。
「お兄様、一緒に開きましょう」
「そうだな。どっちが正解の扉か勝負だ」
「愛するお兄様が相手でもティナは手加減しませんよ」
「それは俺も同じだ」
俺とティナは同時に扉を開ける。
俺の扉の向こうに広がっていたのは果てしない闇だった。
一歩でも踏み込んだら飲み込まれて死ぬという恐怖が沸き上がってきた。
あ、これ絶対にダメな奴だ。
すぐに扉を閉じた。
ティナも同じタイミングで閉じていた。
「俺の方はハズレだ。ティナの方は?」
「む、虫系モンスターがこれでもかというくらいに部屋の中に詰まっていました」
ティナは虫が大の苦手で見るのはもちろん触れられでもしたら気絶するほどだ。
顔が真っ青になり、体をガクガクと震わせている。
なんて可哀想なティナ!
「大丈夫だ、ティナ! お兄ちゃんがついている!」
「ああ! お兄様!」
俺はティナの震える体を優しく抱きしめた。
これぞ美しき兄妹愛。
というか、三つ全部がハズレじゃないか。
やっぱりセラフィの直感は正しかった。
「あっ! この壁の向こうに通路があるよ」
なんと四つ目の扉が存在していた。
壁と同化していて全く気が付かなかった。
「どうやって見つけたんだ?」
「ちょっと壁に手を置いたら動いて、それで全部動かしてみたらこの通り」
うん、やっぱりセラフィに頼むのが一番だった。
×××
それから、大したトラップも戦闘も無くボスフロアへと辿り着いた。
これまでとは比べ物にならない空間。
その中心に鎮座するのは、青白い炎を纏う九本の尾を持つ巨大なモンスターだ。
しなやかな体躯、鋭利な爪、全身からほとばしる青い火の粉は幻想的な美しさがある。
「蒼炎の九尾」
俺は少なからず驚いた。
蒼炎の九尾を始めとする幻獣種と呼ばれる召喚獣はダンジョンの裏ボスとして超低確率で出現することがある。
出現条件はあるらしいが未だに解明はされていない。
当然のように条件はダンジョンごとに異なるので狙って裏ボスと出会うのは不可能だ。
俺たちはいつの間にか条件を満たしていたらしい。
「な、なにあれ……」
セラフィが恐怖で膝から崩れ落ちてしまう。
仕方ないことだ。
あんなバケモノを目の前にして恐怖を感じない冒険者が居るなら見てみたいものだ。
俺もティナもかなり緊張している。
裏ボスなんて生まれて初めてだ。
しかも、試練じゃーとか言って襲いかかってきたヴァリスと違って蒼炎の九尾は俺たちを殺すことだけを考えているだろう。
とにかく、だ。
やるしかない。
「いくぞ」
俺は杖を構え、魔力を滾らせる。
「はい」
ティナはナイフ、暗器を構える。
「獣風情に格の違いを見せつけてやるかの」
ヴァリスは全身に覇気を纏う。
俺たちと裏ボスの戦いの火蓋が切って落とされた。




