第16話 ダンジョン攻略準備
休憩の後、一気に登り目的地であるペンションに到着した。
すると、ツルハシを肩に担いだおじさんが俺たちに気付き大声を張り上げた。
「なんだテメェら! さっきのクソったれ共みたいに金目の目当てで来たならとっとと帰りやがれ!」
いきなりの罵倒に苛ついたヴァリスが、おじさんに掴みかかろうとするのを慌てて止める。
「待て待て、落ち着けって。あの人が依頼主だ」
「ふんっ」
ヴァリスをなだめてから、俺はおじさんに声をかけた。
「俺たち、クエストに来ました」
それを聞いたおじさんは嫌悪感を収めて近付いてきた。
俺たちを値踏みするような視線でジッと見て、
「ガキと女……期待外れもいいところだ」
「貴様、これ以上ワシを愚弄するなら骨の髄まで焼き尽くすぞ」
本物の龍の威圧感に怯んだおじさんは、冷静を装っていたが凄く膝が震えていた。
気持ちは分かる。
ヴァリスの威圧は芯から震えるほど怖い。
「......口だけならなんとでも言える。さっきのクソったれ共と違うなら行動で示せ」
おじさん──ダンガスさんの後を追ってペンションの中に入っていく。
木造造りの建物で、内装は意外にもお洒落だった。
ダンガスさんは、一旦奥に行って荷物を持って戻って来た。
「これに着替えろ。そんな服じゃ話にならない」
依頼主の方針には素直に従う。
俺は、女性陣たちとは別の部屋に行き着替えることに。
支給されたのはつなぎの作業服だった。
リビングに戻って、ダンガスさんと女子たちを待つこと十分。
ティナとセラフィがやって来た。
ティナはかなりサイズが大きなかったようで余った袖を腕まくりしている。
セラフィは問題無さそうだが、やはりと言うべきか胸がキツそうだ。
「二人とも可愛いから何着ても似合うな」
「お兄様も最高にカッコいいですよ」
「そ、そう? ありがとう、ルーファス」
仲睦まじく話をしているとヴァリスがやってきた。
上半身部分を腰で巻いて、上はタンクトップといったスタイルだ。
なんてワイルドなんだ。
カッコいい。
しかも、尻尾は相変わらず健在。
これ絶対につなぎに穴空いているだろ。
×××
シャベル、つるはし、運搬用一輪車などの道具を持って、俺たちがやって来たのはペンションから少し離れた場所にあったダンジョンだ。
「数十日前に、コイツが急に現れやがったんだ。おかけで登山客が怖がって来なくなっちまった。ったく、どこのバカがこんな所にダンジョン建てやがったんだ。テメェらにはコイツの解体を手伝ってもらう」
ダンジョンは攻略してもある年月が過ぎると復活してしまう。
だから、通常は封印術式でダンジョンの復活を止めて近隣のギルドが管理を行う。
ただし、封印術式が機能しない特殊ダンジョン、近隣住民の要望などがあった場合解体する事例もあるのだ。
「あれ、解体だけですか? クエスト内容には攻略、解体と書いてあったはず」
俺の質問に、ダンガスさんは怒りを剥き出しにした。
「ああそうだ。俺は攻略、解体を依頼した。それなのに、テメェらの前に来たクソったれどもは攻略したらダンジョン内で手に入れた金目の物を持って、そのまま帰って行きやがったんだよ! 何が解体は業者に頼めだ! ダンジョンの解体業者なんて聞いた事ねぇってんだ!」
脳裏に浮かんだのは登山中に見たあの集団だ。
登山集団と思ってたけど冒険者たちだったのか。
「って、ちょっと待って下さい。それじゃあ特別報酬の方は......」
この依頼には、『ダンジョン内で見つけたアイテムを持ち帰っていい』という特別報酬があった。
「もう、何もねぇよ。テメェらもそれが目的で、解体を手伝う気がねぇなら帰れ」
吐き捨てるように言うダンガスさん。
その推測は間違いだ。
ヴァリスが軽くストレッチをしながら鼻を鳴らす。
「抜かせ、ワシはそんな物に興味はない。ダンジョンを破壊する、なんとも面白そうではないか」
推測をバッサリ切り捨てる彼女の言葉に、ダンガスさんは目を丸くした。
「一度受けたクエストは責任を持って完遂するのがティナのポリシーです」
「ダンジョン解体なんて中々出来ることじゃないから、ちょっと楽しみなんだよね」
続けてティナとセラフィ。
唖然とするダンガスさんに俺は言う。
「良いアイテムちょっとは期待してましたけど、無い物は仕方ないですよ。それに、受けた依頼はきっちりこなしますから」
「テメェら」
しかし、気になるのはダンジョンから未だに瘴気が漂っていることだ。
普通、ボスを倒せばダンジョンは機能を停止して単なる建造物になるのだが。
もしかして、あの冒険者たちはボスを放置してアイテムだけ持ち帰ったのか?
そうだとしたらあまりにも悪質だ。
詐欺と言ってもいいだろう。
ボスが撃破されていない可能性を考慮して、俺はダンジョンに潜ることを提案した。
全員承諾し、俺たちはダンジョン攻略、解体を始めた。