第12話 真相はあまりにも
俺は勇者パーティーの真実を知るために賢老メイナード・ロースソーンの元へ向かった。
普段の彼は街から離れてた湖のほとりで一人で暮らしている。
木造の玄関をノックする。
しばらくしてメイナードが扉を開けた。
「ルーファス?」
まるで幽霊を見たかのように老人は目を大きく見開いた。
それもそうだろう。
メイナードの中では、俺は勇者たちと魔王城へ向かっている。
そんな人物が来客してくるのは予想外だったのだろう。
「話がある。勇者パーティーのことについてだ」
「……分かった。中に入りなさい」
家の中は相変わらず本だらけだった。
メイナードはキッチンでティーカップを用意していた。
「ティナは元気にしているかい?」
「ああ、凄く元気だ」
「そうか。それなら良かった」
メイナードは穏やかに微笑む。
彼は俺とティナの後見人として色々世話をしてくれた。
親代わりと言っても過言ではない。
互いにテーブルに座る。
先に口を開いたのはメイナードだった。
「まず、何があったか聞かせてくれんか? なぜ、お前さんがここにいる?」
俺はこれまでのことを話した。
パーティーから追い出されたこと。
故郷に戻ってティナ、セラフィと冒険者をしていること。
ヴァロスラヴァのこと。
俺が話し終えるとメイナードは頭を抱えた。
「ああ……恐れていたことが現実になってしまった」
「どういうことだ? ちゃんと説明してくれ」
「こうなっては隠す必要もない」
そう呟き、メイナードはゆっくりと語り始めた。
「結論から言おう。勇者パーティーは王国が士気を高めるため作り出した幻想だ」
「王国は魔王を討伐する気がなかったのか?」
メイナードが不愉快そうに頷く。
「元を辿ればオスニエル王子のわがままだ。国王は王子に甘くての、わがままを叶えるためにできたのが勇者パーティーだ」
「オスニエルが王子? そんな話聞いてないぞ」
「隠しているからの。魔王討伐後、凱旋でその正体を明かすと楽しそうに言っておったわ」
俺は頭が痛くなってきた。
お遊び感覚で魔王討伐に行こうとする馬鹿が居たなんて。
それが未来の国王になるかもしれない奴とは悪い冗談だ。
「って、まさか他の二人も?」
「イアンは大臣の息子でオスニエルの幼馴染み、イヴィーは同盟国の王女でオスニエルの許嫁だ」
「おいおい、上流階級の奴らは揃いも揃って馬鹿なのか?」
呆れて物もいないと言うのはこのことか。
「それで。そんなおふざけ集団になぜ俺を入れた?」
俺を任命したのはメイナードだ。
その理由を是非とも知りたい。
「儂が今まで会った中で最も優秀な魔術師がお前さんだからだ。お前さんなら大した訓練も積んでいないボンボンたちを守りながら旅ができると思った」
「買いかぶり過ぎだ。ところで加護の件で話があるんだ」
俺は加護のことをメイナードに話した。
すると、メイナードは少し黙ってから見解を述べた。
「あくまで推測になるが、王子たちがあまりに弱過ぎるゆえにお前さんは加護の一部を譲渡していたのではないかと」
「そもそも加護を譲渡なんてできるものなのか? そんな話聞いたことないぞ」
「できる者は居たから不可能ではない」
話を聞いて、俺は大きな溜め息をついた。
メイナードも溜め息を吐く。
「お前さんが抜けた以上、王子たちは無力だ。そのうち逃げ帰ってくるだろうよ」
「拗らせてそのまま突き進みそうだがな」
「その可能性も否定できなかったから、弟子を派遣しておいた」
「シェリル姉さんか」
あの人ならオスニエルたちが死んで帰ってくるリスクを少しは減らせるだろう。
出された茶を飲んで一息を吐く。
「すまない、お前さんには迷惑をかけたな」
「まぁ、過ぎた話だ。それに今は楽しくやっている」
「それなら良かった」
「一つ聞いていいか? どうして俺にはこんなに加護があるんだ?」
メイナードは微笑む。
「それは世界に愛されている証拠だよ」
×××
ルーファスが帰った後、テーブルに置かれたティーカップを片付けながらメイナードは難しい表情をしていた。
「やはり、無理だったか。ルーファスを魔王にぶつけることさえできれば……あるいは……」
言葉にしてメイナードは首を横に振った。
「いかんいかん。どうしてもあの子たちにすがってしまう」
ティーカップを流しに置いてから、メイナードは窓の方へと向かう。
空を眺めながら、頭の中では様々な思いが駆け巡る。
「弱い儂をどうか許して欲しい」
懺悔の呟きは誰の耳にも届かなかった。