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第101話 決戦、魔王


 ティナ、セラフィを連れて一度家に戻った。

 ティナが無事に帰ってきたことに安堵し、大量出血しているセラフィを見て泣きそうになるフェリシア。


 一緒に戻ってきたメイナードがセラフィに回復魔術を行使して命を繫ぎ止める。

 彼だって相当にダメージを負っている。

 だが、それを無視してセラフィのために力を尽くしてくれている。


「これくらいしか償いができないが」

「そんなこと言わないでくれ」


 色々と話したいこともある。

 未だ目覚めないティナ、意識不明のセラフィ。

 不安しかない。

 できることなら側にいたい。

 だが、脅威は完全には去っていない。


 あらゆる感情が渦巻いている。

 その中でやるべきことを見極める。


 俺はフェリシアに視線を向けた。


「みんなを頼む」

「ルーファスちゃん……分かったわ」

「俺が入ったあと、空間は閉じていい」

「え? でも」

「破壊の余波が届くかもしれないから。大丈夫、必ず戻ってくる」


 俺の覚悟を感じ取ったのか、フェリシアは溢れ出そうになる涙をグッと堪えて頷く。

 そして、一言。


「美味しいご飯作って待っているわ。──みんなで」

「ありがとう」


 俺は再び空間の向こう側へ足を踏み入れた。

 その直後に空間の歪みが消失する。

 ありがとう、フェリシア。


 先刻まで戦っていた場所を抜けて、さらに奥に進んでいく。

 そして、最奥に位置する部屋から禍々しい魔力を感じた。

 巨大な扉だ。

 一人では開けることができなさそうだ。

 すると、俺を待ち構えていたかのように扉が独りでに開き始めた。


 その部屋は殺風景だった。

 あるのは奥に鎮座してある椅子のみ。

 椅子には一人の男が座っていた。

 伸びに伸びた黒い髪、澱んだ輝きを放つ瞳、伸びっぱなしの髭。

 あまりにも痩せていて、とても健康そうには見えない。

 枯れ木のような手には使い古された杖を握っていた。

 その姿は御伽噺に出てきそうな数百年生きている大魔導師のようだった。


「ここは私が大戦時に陥落させた城だ。今となっては単なる伽藍堂……魔王軍以外でここに──玉座の間に辿り着いたのはお前が二人目だ。ルーファス・ファーカー」

「魔王っ」


 杖を握る力が強くなる。

 怒りで頭がどうにかなりそうだ。


「魔王、か。そうだな、私は魔王だな。王国を絶望に陥れる者」

「禁術を使ったのはお前の意思だ。それを国のためとか言って責任逃れをしているだけだ。挙げ句の果てに逆恨みして魔王などと……馬鹿馬鹿しいにもほどがある」


 魔王は大きく溜め息をついて、手で顔を覆う。

 指の隙間から見える澱んだ瞳は憎悪に塗れながら俺を見る。


「その言い草……弟にそっくりだ。弱いくせに口だけは大それたことを垂れ流す。そもそも、奴は全てにおいて足りない。あんな有用な幻獣を自分の娘として育てるなど愚かの極み。研究材料にするのが道理だろ?」

「お前ッ!!!」

「おっと、そうだった。お前は度を越した妹好きだったな。変態はどちらだという話だ。普通に気持ち悪いぞ」


 変態野郎に変態と言われても痛くもかゆくもない。

 それに妹を大事にしていることの何が悪い。

 大切な家族だ。

 好きに決まっているだろう。


「もう、お前とは会話する気はない。俺の家族を、仲間たちを弄んだ償いをさせてやる」


 魔王はしゃがれた声で笑いだす。


「国のためではなく私情か! 思えばここに来る奴は等しく私情で私を打倒しようとする! 待て待て、考えてみたら四皇将を打ち倒したのはルーファス、無駄に自尊心が高いシェリル……どれもメイナードの弟子とはな! とことん身内に邪魔される! これでは壮大な身内喧嘩ではないか!」

「所詮、その程度の器だってことだ」


 俺は杖を振り、魔術を行使する。

 その時に微かな違和感を感じた。

 気持ち悪さはない。

 寧ろ、今までより魔術の本質を捉えられている気がする。


 調整は一切なし。

 最高火力の一撃を放つ。


「──アノ・ケラヴノス!」


 超巨大な雷撃。

 輝きは一瞬。

 直後に大規模な破壊が発生する。

 壁や柱が一気に瓦解した。


 攻撃の余波が収まると、部屋という存在は完全に崩壊していた。

 満天の星空が俺を見下ろしていた。


「凄まじい威力だ。様々な加護を受けていれば当然か」


 魔王は無傷で椅子に座っている。

 防御壁が砕け散る様子が見て取れた。

 さして驚くことはない。

 今ので倒せるとは最初から思ってはいない。


 魔王はゆっくりと立ち上がった。

 そして、杖で床を叩く。


 その瞬間、俺の頭上の空間が捻れて歪む。

 真っ暗な歪みから大質量の魔力を感じた。

 背筋が凍る。

 冗談抜きで命を危険を感じて、俺は回避に全神経を注いだ。


 漆黒の一撃が地面を穿つ。

 なんだアレは?

 初めて見る魔術だ。

 いや、本当に魔術なのか?


 分からないことだらけだ。

 ただ、一つ言えるのはまともに喰らったら致命傷ということだけだ。

 

 魔王はひび割れた唇に笑みを浮かべて、杖を俺に向けた。


「来い、ルーファス。本物の魔術戦を見せてやろう」


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