第1話 勇者パーティーからの追放
勇者パーティーのメンバーは四人いる。
勇者オスニエルは卓越した剣技を持ち、なおかつ選ばれた者しか抜けないと言われている勇者の剣を手にしている。さらに大精霊の加護まである。あとカッコいい。
戦士イアンはとにかく俊敏だ。いかなる攻撃も華麗に避け、長槍から放たれる一撃はいかなる者でも刺し穿つ。さらに龍の加護まである。あと、美形だ。
召喚術師イヴィーは幻獣を何なく召喚し使役してみせる。その使役能力は誰もが賞賛するほどだ。あと、かわいい。
そして、俺。
ルーファス・ファーカーは魔術師である。
常人離れした魔力を保有していて魔術を使うのが好き。
だが、それだけだ。
×××
今、まさに戦闘中である。
モンスターは複数体いて、それぞれが結構な強さを誇っていた。
「オスニエル! 俺が囮になる! その隙を突け!」
「分かった!」
オスニエルとイアンの連携。
その後方ではイヴィーが召喚術式を展開し始めていた。
俺も何かしなければと思い、全員に向けて支援魔術を行使しようとして杖を構える。
が、すぐにやめて杖を下ろす。
ダメだ。
俺が魔術を使ったら、みんなの邪魔になってしまう。
「ちょっとルーファス! 今、何かしようとしたわよね!?」
術式展開中のイヴィーが俺の動きに反応して怒号を張り上げた。
凄まじい形相で睨まれる。
「いや……その……」
「絶対に杖を動かしていた! アンタ、私たちを殺そうとしたでしょ!?」
「ち、違う! 俺も何かしないと思って……でも、やめた……ちゃんとやめたよ」
「ほら、認めた! 今、オスニエルとイアンに魔術かけたらどうなるかくらい分かるでしょ!? やっぱり殺す気じゃない!」
凄まじい剣幕のイヴィーに怯む。
俺は杖を地面に置いて、両手を上に挙げた。
「すまない……もう、何もしない。この状態から絶対に動かないから」
「そうして。次、少しでも動いたら許さないから」
俺は微動だにしないように細心の注意をしながら、戦闘が終わるのを眺めていた。
×××
何とか戦闘を終えた俺たちは食堂に来ていた。
テーブルに並んだ料理はどれも美味しそうだが、誰一人として手をつけない。
空気は異常なくらいに重たい。
原因は言わずもがな。
しばらくの沈黙の後にイヴィーが甲高い声をあげた。
「もう限界! 何でこんなのが私たちのパーティーにいるの!?」
「同感だな。正直言ってお前は邪魔なんだよ」
「すまない……」
頭を下げることしかできない。
俺は魔力保有量が異常に多い。
魔術行使に使う魔力量が多くなれば、その分威力や効果は高くなる。
効果が強力になるのは良いことだ。
しかし、俺の場合は度を越している。
肉体強化を使えば、肉体を破壊してしまう。
魔力消費軽減を使えば、魔力を封じてしまう。
バフのはずなのにデバフになっているのだ。
攻撃魔術は多少の調整はできるが、それでも威力が強過ぎて前衛の二人を巻き込む恐れがあるので使えない。
何も最初からこうだったわけではない。
勇者パーティーに入った最初の方は、回復魔術以外は何の問題もなく使えていた。
とはいえ、回復魔術が使えないことが発覚した時点でメンバーからは白い目で見られていた。
彼らは俺のことを回復役としか考えていなかったからだ。
それが、回復魔術を使えないと分かれば、それは対応も酷くなるだろう。
それから旅が進むにつれて、魔術の威力はどんどん上がっていった。
そして、ある日。
いつものように強化魔術をオスニエルとイアンにかけた。
その瞬間、二人は苦痛に顔を歪めた。
まるで雷を受けたように全身を痙攣させて、その場で膝をついた。
彼らは危うく死にかけた。
その日から、パーティー内で俺の居場所は無くなった。
荷物を運び、戦闘時は何もしてはいけない。
常に嫌味を言われ、事あるごとに罵倒され、鬱憤ばらしの道具として扱われていた。
すると、ずっと黙っていたオスニエルがゆっくりと口を開く。
「お前にはパーティーから抜けてもらう」
「え? ちょっと待ってくれよ」
「いや待たない。正直言ってお前は必要ないんだ。お前のどうしようもない魔術のせいで僕たちが窮地に立たされたことは覚えているだろう」
「それは本当に悪かったと思っている。でも、その代わり荷物とか持ったり、宿泊の手続きとか買い出しをして、役に立とうと努力し……」
「使えない荷物持ちを抱えるくらいなら、自分たちで荷物を持って有能な魔術師を迎い入れる」
オスニエルの言葉にイアンとイヴィーな何度も頷き肯定する。
三人の冷たい視線が突き刺さる。
もう、説得することはできないのはみんなの顔を見れば明白だ。
俺は席を立って、その場を去ろうとする。
「おい」
イアンに止められる。
「何だ?」
「金置いていけよ。それ俺たちの生活資金なんだからよ」
怒りが湧いたが、ぐっと堪えて金の入った袋を取り出してテーブルに置いた。
「あー、これで清々するわ」
嫌みたらしくイヴィーが呟く。
俺は聞こえないふりをしてその場を後にした。
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