第六話『間者』
俺は暗殺者だ。
それも貴族様お抱えの、な。
東の帝国で孤児だった俺は、暗殺者ギルドの奴等に拾われて、
この仕事についた。
この仕事以外に就くものがなかったからな。
【暗殺者】や【殺し屋】以外の生き方を知らない俺は死なないためにはその道しかなかった。
俺の出生の話はいいんだよ。
今回の任務だが、ウエの人たちが情報を高く買ってくれるっつーからよ、
西側諸国の経済国、オルガルト王国の上級貴族んとこに潜入したのさ。
こんな仕事やってからさ、
子供を相手にするときもあるんだよ。
だけどなぁ、あいつはそんじょそこらのガキとは違った。
赤子ごときが、なんで『魔力を抑え込めるのか』って話よ。
あぁん?嘘じゃないかってぇ?
俺は商売で嘘なんてつかねぇよ。
…、ああ、そうだ。
物心もついてない赤子は、自身の魔力を垂れ流すから見つけやすい。
そのくらいはお前でも知ってるだろ?
魔法を効率よく使うために俺等は普段から魔力を可能な限り抑え込んでる。
脱出やなんやらで使える場面も多いしな。
それも、生後1年くれーの赤子がしてたんだよ。
ビビるだろ?俺だってビビった。
で、夜だったからぐっすり眠ってるんだが…、
ああ。そういうことだ。
無意識にやってる…まぁ、その状態で生活してんのが当たり前になってるんだろうさ。
あんな天才、俺は聞いたこともねぇ。
あとな、あの部屋みょーに魔素濃度が高いんだよ。
分かるか?
魔法の発動させたあとだからなんだろうな。
おっ、おい!あんま大きい声出すなって!
…で、発動させたのが誰か正確にはわからんが、
多分そいつだろうよ。
そんなやつがいる屋敷に、情報量だけの報酬で動くわけにもいけねぇだろ?
ふんっ。これでも死にたくはないんでな。
…、逃げたんじゃない、一度帰還したってだけだ!
まぁ、そんな感じで中までは潜入してはいねぇが、報酬だけの働きはした。
「俺が話せるのはここまでだな、情報屋」
「十分だよ。ありがとな。ほれ、金貨10枚だ」
「投げるなよ!手渡せって」
「別にいいだろ…」
「まぁ、報酬も貰ったし俺は戻るよ」
「ああ、…ヘラエリスの加護があらんことを」
「ヘラエリスの加護があらんことを」
オルガルト王国 某所 暗殺者の酒場。
ヘラエリス教の者たちが集うこの場所は、王国の情報の最前線。
この酒場を中心に王都の闇は広がってゆく…。