第二話『転生』
「おぎゃぁ…あうああぁぎゃぁあ」
?
自分がしゃべっているのか…。何も喋れない?
「まぁ、笑ったわぁ」
銀色の髪をなびかせた女性が自分を覗き込んでいた。
この人が母親か?そして、その隣のダンディなのは父親?で黒髪の子供は…ルルランカ!やっぱり乙女ゲームの世界だからか?顔面偏差値がハーバード大学なみだ。
「!?」
ルルランカ?じゃあ自分は一体…。妹?いや、ルルランカに妹なんか…。いや、いたような気もする、が。
『もしなにも好感度を上げなかったら?』
そう疑問に思って、『ほしなな』を最初からやり直したことがある。
ルルランカは元々、オルガルト王国第三王子の【ココリアル・オルガルト】の婚約者である。で、学園を卒業する際に婚約破棄されるのだが、その口実がルルランカの妹の【フランシア】だ。ココリアルはフランシアをいじめるルルランカのことを嫌っており、可哀想なフランシアに思いを寄せていた。
その後フランシアとオルガルトは結婚するものの、王弟妃となったフランシアは国の税金を横領し、自身のアクセサリーやドレスに使い、犯罪者として処刑される。
「おぎゃぁ!?(やばくない!?)」
まぁ、でも散財とかしなければいいってことかぁ。
でもココリアルと結婚するのは性に合わない。
王弟妃なんて、貴族社会の礼儀とか腹のさぐりあいとかするんでしょ?
なったこと無いから、あんまり断言はできないけど。
でも、貴族っていう感じではないのは確かだ。
『ほしなな』の世界ってことは、魔法とかもあるはず。
自分でも使えるのかな?
もーそんなのロマンしかないじゃん〜!
貴族よりも絶対冒険者とかの自由な職業に就きたいなぁ。
自分だってせっかくの異世界を楽しみたいんだ!
とはいっても、フランシアは表舞台に登場していない。
→何が起こるかわからない。
そもそも、魔法が使えるかさえわからないし、下手なことはしないほうがいいだろう。
「あうあぁ(うむむ)」
まぁこんなこと今(赤ちゃんのときに)考えても仕方ないよね。
なにもできないわけですし。
(うおっ)
ルルランカがほっぺたをツンツンしている。
ちょ、ルルランカさん?爪がっ、痛い、刺さってるって。
「ふうむ、では、お前の名は【フランシア】だ!」
ドーンという効果音がついていいほど大きな迫力のある声で名前を呼んだのは、
先程のダンディな父親だ。
蒼黒色の髪色。
ルルランカの髪色は父親譲りだったのか。
それにしても、サラサラだなぁ。
この世界にはお風呂はあるのだろうか?
流石に!元日本人としてはお風呂は欲しいっ!
『ほしなな』には、ひじょーに残念ながら、入浴シーンはなかったため、わからない。
でも、ルルランカって公爵家の令嬢だったはず。
なら、そのくらいは備え付けてあるのでは?
リンスとかシャンプーはないにしろ、湯船ぐらいは…。
期待しておくとしますかぁ、今はどうせわからないしね。ハハハ。
…なんか、本当にこの世界に来たんだ。
前世の幼少期の頃の記憶はあんまりなくて、ただ、母親一人だけだった。
でも母親も、いわゆる虐待をしていて、子供だったからか、ソレに慣れてしまっている自分がいた。
殴られて、蹴られても、自分が全部悪い。
そう、思い込んでいたからこそ、虐待されているなんて思ってもいなかった。
日に日に、作ってもらえるご飯が減って。
給食が本当に美味しくて、たくさんおかわりした。
テストでいい点をとっても、遠慮して、言い出せなかった。
「(おかあさんは、⬛️⬛️の声なんて聞きたくもないんだ)」
冷蔵庫の中はいっつも空っぽで。
部屋は散らかりっぱなし。
でも、いつかわからないぐらい昔。
一緒に食べたご飯は美味しくて。
きっと、きっと。また、一緒に、食べれるはず。
今日はだめだった。
…お母さん、帰って来るの、遅いな。
お母さん、一緒にたべたいな。
だめだった。
バイトを始めて、中卒だけど、就活して。
やっとの思いで入った会社がブラックで。
ここをやめたら、次受かるかわからない。
どんどんお金が減っていくから頑張って。
稼がないと。
ストレスって無いと楽なんだ。
もう『前世』は忘れよう。
新しい自分がいるんだもの。
やっぱり、楽しまないとね!
「フランシア…、フランシア・フォン・サリムウェージュね。良い名前だわ。アルベルト様」
母親が、満面の笑みで隣りにいた父親に話しかける。
アルベルト…、サリムウェージュ公爵家現当主【アルベルト・フォン・サリムウェージュ】。
ルルランカを溺愛しており、いや、しすぎており、ルルランカはあんな性格になったとか、ならなかったとか…。
まぁ、前世のストーリー上の話なんだけど。
溺愛して、反抗ってことなのかな?
そんなかるーい設定ではなかったはずなんだけどな。
うーーーん。
思い出せないっ。
ふぅ、考えすぎて疲れたのかも。子供の体だからかな?大人のときより余っ程疲れやすい。
あー、眠い。
意識が薄れていく中で、
「あら、フランシアは眠っちゃった?」
「寝顔も可愛いな」
そんな声が遠くの方から聞こえる。
新しい命が生まれた、心地よい、夏の朝だった。