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エピローグ 妖精王の伝説

 イルソイール家の屋敷の一室。密談用に設けられた窓のない部屋で、アルフレッドの後ろ盾である貴族、サンドゥア・ガディンズはユリウス・イルソイールを問い詰めていた。


「それで――、一体全体何が起きたっていうんだ?」


「何って、話した通りのことだが?」


 困惑と焦りで挙動不審になっているサンドゥアに対し、ユリウスの態度は悠然としたものだった。


「不届き者の狩人は王都で裁判にかけられ、神秘の森で暴走しそうになっていた妖精は、正体不明の大いなる妖精王の執り成しによって沈静化した。すべてが丸く収まった大団円じゃないか」


「そういう表向きのことはいいんだ。いや、妖精王というのが何者なのかは置いておいてはいけないことではあるが、そうではなく、私が聞いているのはアルフレッド殿下の消息のことで――」


 早口でまくしたててくるサンドゥアに、ユリウスはうるさそうに顔をしかめて体をのけぞらせる。サンドゥアの勢いはそれでも止まらず、さらにユリウスへと糾弾の刃を向けた。


「大体、レティシア嬢のことはどうなったんだ! あんなに溺愛していた娘が、危険な森にいるかもしれないのに心配じゃないのか!?」


「ああ、それなら問題ない。神秘の森への立ち入りは、イルソイールの手の者によって本格的に管理されることになったし、何よりあの子のそばには心強い味方がいるからな」


「……へ?」


 確信を持った言い方をするユリウスに、サンドゥアは意表を突かれてきょとんと眼を丸くする。ユリウスはその間抜け面を鼻で笑った後、どこかすがすがしい表情で呟いた。


「まだ結婚を認めたわけではないが、あれが本気でレティシアを想っていることだけは分かったということだ」


 そう言いながら、ユリウスはサンドゥアに一冊の本を手渡す。


 神秘の森付近に滞在していた時、いつの間にか彼の枕元に置かれていた不可思議な装丁の本。おそらくは妖精たちが届けてくれたものであるそれを、サンドゥアは奇妙なものを見る目をしながら受け取り、表紙を開いて中身を確認する。


 ――昔々あるところに、二人の妖精王がいました。


 その一文で始まる新たな妖精王の物語を、サンドゥアは疑問符を脳裏に浮かべながら読み進めていった。


 ユリウスはそんなサンドゥアの姿を眺めながら、今後、あの若き二人に待ち受けるであろう未来に思いをはせる。


 出奔して行方知れずとなった王家の血筋の青年。それが妖精王として神秘の森に君臨していると知られれば、権力闘争に熱心な貴族たちの格好の餌になるだろう。


 そして、その婚約者であるレティシアも争いに巻き込まれることは間違いない。いくら森を立ち入り禁止にしようと、抜け穴はいくらでもある。彼らの行く道は困難に満ちている。


 それに加えて我が家の事情ではあるが、レティシアを溺愛している弟のこともある。話を聞きつけて家に戻ってくるつもりのようだから、そこでも一波乱起きることは間違いない。


 だが――あの子たちなら、きっと大丈夫だ。


 この本に描かれた、世界を救うために真っ直ぐに力を尽くす二人の姿。頼もしい二人のその在り方を見れば、確信を持ってそう断言できる。


 だから、大人の私にできるのは、彼らに降りかかる火の粉が少しでも少なくなるよう奔走することだけだ。骨の折れる話だが、可愛い娘とその仮の婚約者のためであれば、やる気も出るというものだ。


 勘違いや思い込みで形作られた、面倒で愉快な事態がすぐそこに迫っているという事実に、ユリウスは自然と口の端を持ち上げる。


 そんな彼に、本を全て読み終わったサンドゥアは、顔を上げて途方に暮れた表情を向けてきた。


「なぁ、ユリウス。この本がどうかしたのか?」


「……お前は本当に察しが悪いな」


 物語を読んでなお理解できていない悪友に苦笑しながら、ユリウスは事の顛末を彼に語り聞かせるのだった。

第一部はこれで完結です!

第二部も近日中に公開しますので、どうぞ楽しみにお待ちいただけますと幸いです!

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