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第57話 白馬は疾駆する

「……王様、王様!」


「……殿下、起きてください! 起きないなら踏みつぶしますよ!」


「ううん……」


 唸り声をあげながらアルフレッドが目を開けると、そこにあったのは至近距離でこちらをのぞき込んでくるソイルとアーシェの顔だった。


 アルフレッドはあおむけのままぼんやりとそれを見上げていたが、ハッと正気に戻ると、慌てて体を起こした。


「今、何時だ!? あれからどれだけ時間が経った!?」


 食って掛かるような勢いで尋ねてくるアルフレッドを、アーシェは鼻先で押し返して、冷静に答える。


「今は夜明け前です。清らかな水に浸っていたおかげで、なんとか体を起こせる程度に私は回復したのですが、小妖精たちに異変を騒ぎ立てられて、慌ててあなた方を迎えに来たんですよ」


 そう言いながら、アーシェはちらりと周囲へと目を向ける。そこにはせわしなく飛び回りながら口々に言葉を発する小妖精たちの姿があった。


「女王様連れていかれた!」


「森の外に連れていかれた!」


「村の近くで」


「処刑台が組まれてる!」


「約束だから手出ししなかったけど」


「このままじゃ殺されちゃう!」


 焦っているようにも楽しんでいるようにも見える彼らは、言いたいことを伝え終わったといわんばかりにそのままどこかへと姿を消していく。


 アルフレッドは立ち上がると、アーシェに向かって声を張り上げた。


「アーシェ、森の外まで乗せてくれ! 事情は向かいながら話す!」


「……分かりました。ですが乗り心地は保証しませんよ! ヒヒン!」


 空元気のように高らかに言った後、アーシェはアルフレッドが乗れるように身をかがめる。アルフレッドはソイルを先に彼の背中に乗せた後、自分もよじ登るようにして彼の上に乗って跨った。


「では行きますよ! 振り落とされないように!」


 アーシェは大きくいなないた後、吹き抜ける一陣の風のような勢いで走り始める。


「レティシアは森の外の人間に連れ去られたんだ。奴らは俺たち妖精王を邪悪な魔王だと思って、殺そうとしてるんだ。世界樹の根元に追い詰められて、レティシアは俺たちを逃がすために自分だけ捕まって――」


「……なるほど。一刻を争う事態ですね。さらにスピードを上げますよ……!」


 その宣言通り、アーシェは足にさらに力を込めて加速する。矢を受けた箇所にじんわりと血が滲んだがそれでもスピードを緩めず、アーシェは命を削る勢いで駆けていった。


 アルフレッドはソイルに覆いかぶさるような姿勢で、アーシェへとしがみつき、向かい風にあおられないように耐え続ける。


 鬱蒼と生い茂る木々の間を、じんわりと湿った地面を蹄で蹴り飛ばして、白銀の馬は駆け抜けていき――ついに森の外へとたどり着いた。


 森から出たとたん、清浄だった空気はどこか濁ったものとなり、息苦しさを覚えながらもアルフレッドは首を巡らせる。すると、遥か彼方にうっすらと黒煙が立ち上っているのが視界に入った。


「あれだ!」


 アルフレッドの指し示した方向に向き直り、アーシェは再び駆け始める。


「殿下、何か策は!?」


「そんなものない! とにかくレティシアを助ける!」


 無策であることを恥じることも焦ることすらせず、高らかにアルフレッドは宣言する。そのまばゆいほどに純粋な意思に目を細め、アーシェもまた前向きな声色で答えた。


「ヒヒン! その愚直さ、嫌いではありませんよ!」


「ソイルも頑張る!」


 二人のやり取りにあてられて、それまで不安そうにしていたソイルも元気を取り戻し、自分を抱えるアルフレッドに振り向きながら力強く言う。アルフレッドはそれにうなずき返し、遠く立ち上る煙をにらみつけた。

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