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第32話 イルソイールの呪い

 オウム返しに尋ねてきたアルフレッドに対して、レティシアは深刻な表情で言葉を続ける。


「イルソイール家が大昔に、超常的な存在――恐らく神か妖精に力を与えられたという話はしましたでしょう? それによってイルソイール家の人間は植物に関する固有魔法を発現するようになったのです」


「ああ、それは知っている。お前が植物を活性化させているあれだろう? そのせいで俺は酷い目にあったがな!」


「ふふ、そんなこともありましたわね」


 わざと大げさに怒ったような仕草をしておどけるアルフレッドに、思い詰めた表情だったレティシアは小さく笑顔を見せる。


「実は、力を授かった際、わたくしの一族はその存在に呪いを受けて、数代に一度、魔力のタガが外れて過剰に魔力を放出してしまう体質の人間が生まれるようになったのです」


「呪いを受けた……穏やかじゃない話だな。お前の先祖は、その神だか妖精だかを怒らせるようなことでもしたのか?」


「……それが分からないのです。我が家に残る言い伝えには、そのような内容はどこにもなくて」


 困り果てたという様子で目を伏せるレティシアに、アルフレッドは少しの間おろおろとした後、重い空気を振り払うように声を張り上げた。


「と、とにかく! その体質のせいで、お前は魔力を放出しすぎて倒れたということか?」


「ええ。ただ、あの症状が出ている最中には、魔力が枯渇しそうという感覚はありませんでした。むしろ内側から無限に溢れてくる魔力に、体が耐えられていないような感じがして……」


 自分の手のひらを見下ろしながらレティシアは自信なさげに呟く。


 普段の快活な性格の彼女からは想像ができないほど弱り切ったその様子に、アルフレッドは気まずそうに足下を見た後、意を決して彼女の手を、自分の両手で包み込んだ。


「レティシア、俺に何かできることはあるか? 特効薬を作るのに何か必要なものだとか、他に必要なものがあったりするなら、何でも言ってくれ」


「え?」


「っ……だ、だから! 俺は、お前の役に立ちたいんだよ! 弱ってるお前を何もできずに見ているのは嫌なんだ!」


 自分の行動への照れくささが遅れて追いついてきて、アルフレッドの顔は見る見るうちに赤くなっていく。レティシアはそんな彼の様子をきょとんと眺めていたが、少し考えるそぶりを見せた後に、穏やかに微笑んで答えた。


「でしたら、殿下の語る物語を聞いてみたいです」


「へ?」


「実は、この体質の症状を軽くする方法は全くわかっていないのです。だから、気晴らしに殿下の物語を聞いてみたいと思いまして。ふふ、寝物語をねだるなんて、子供っぽくてちょっと照れくさいですわね」


 レティシアは、そう言って恥ずかしそうにはにかむ。しかしアルフレッドは、怪訝な表情で反論した。


「物語なんて聞いても体調が良くなるわけじゃない。そんな暇があるなら、せめてお前の体質をどうにかできないか、俺が一人で調べるとか……」


 真剣な面持ちでそう提案するアルフレッドに、レティシアは仕方なさそうに眉を下げる。


「ですが殿下は、魔力や呪いの研究の知見がないのではないですか? そんな貴方がお一人で調べても、打開策が見つかるとは思えません」


「うぐっ」


 正論を突きつけられ、アルフレッドは小さく唸って硬直する。そして、レティシアの手を離すと、俯きながら絞り出すように言った。


「そ、そんなはっきりと、言わなくてもいいだろっ……」


 我慢するように拳を握りしめ、深く傷ついた声色で言うアルフレッドに、レティシアは自分が失言をしたことに気付く。


「確かに俺はっ、物語を作る以外、できることなんて何もないけどっ……」


 心の柔いところを抉られたアルフレッドは、小さな子どもが癇癪を起こすのを我慢しているかのように、じわっと涙ぐむ。レティシアは慌ててそんな彼に声をかけようとした。


「殿下、すみません。そういうつもりじゃ……きゃっ!?」


「レティシア!?」


 悲鳴を上げたレティシアに、アルフレッドは焦って顔を上げる。するとそこには、仄かに魔力の光を帯びた彼女の姿があった。


 彼女の纏う魔力は急速に膨大なものになっていき、レティシアは息も絶え絶えにアルフレッドに向かって声をかける。


「殿下、危ないですっ、離れてくださいっ……魔力の制御が、できないっ……」


「だが……!」


 レティシアを見捨てて逃げられるわけもなく、アルフレッドは何も出来ないまま立ち尽くす。


 そのまま魔力は爆発的に膨れ上がり、二人の体を焼き尽くすほどの光になろうとしたその時――工房のドアが突然開かれ、小さな人影が飛び込んできた。


「王様、見つけたっ!」

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