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第24話 慣れない大奮闘

 太陽のように眩い笑顔で告げられ、アルフレッドは大きく息を吐いて気を取り直す。


「そうだな。まずは小麦粉と酵母と水を混ぜて練るところからか。俺は水を汲んでくるから、計量は任せてもいいか?」


「ええ! 実験器具には慣れていますから、完璧にはかってみせますわ!」


 自信満々に胸を張るレティシアに、アルフレッドは不安げな目を向ける。


「……本当に頼むぞ? 大雑把にこれぐらいかなーとかやるんじゃないぞ? 材料は無限じゃないんだからな」


「まあ、殿下はわたくしを何だと思っていらっしゃるの?」


「意外と雑なところもある変わり者の令嬢だな。まったく、ここまでお転婆だなんて初対面では思わなかったぞ!」


 アルフレッドは偉そうに言い放つ。レティシアはふうと小さくため息をついて、わざとらしく言った。


「うーん、それはそうかもしれませんね。何しろわたくしは、殿下いわく()()()()ですから」


「うぐっ……まだそう呼んだことを根に持ってるのか?」


 アルフレッドはじとりと彼女を睨み付ける。しかしレティシアは涼しい顔だった。


「いいえ? 雑草という単語はわたくしにとってマイナスなものではありませんし根に持ってなどいませんわよ。でも、なりゆきに任せてきちんと謝ることもしないまま、婚約者として王都に帰るのは不誠実だとは思いますが」


「う」


「もしわたくしと改めて婚約したいのであれば、殿下ご自身の言葉でわたくしにプロポーズするのが前提条件でしてよ?」


「うぅー……」


 完全に論破される形になったアルフレッドは、顔を赤くしながら反撃しようとした。


「わ、分かったよ、言えばいいんだろっ! 俺は、お前のことがっ……!」


 そこまで言ったところで彼の顔は耳まで真っ赤になり、それ以上の言葉を紡げないまま、うろうろと視線を彷徨わせる。そして、急にドアのほうへと向き直ると、外に向かいながら声を張り上げた。


「っ……水を汲んでくる! この話はまた今度だ!」


「あらあら、ふふふ」


 初心な反応をごまかしているのが手に取るように分かり、レティシアは微笑ましい視線で彼を見送る。


 これはちゃんとしたプロポーズができるようになるまで、もう少しかかりそうだ。


 そんなことを思いながらレティシアが調理の支度に戻ろうとしたその時、アルフレッドは慌ててドアを開けて戻ってきた。


「大変だレティシア、妖精たちが!」


「え?」


 開け放たれたドアの向こう側からは、妖精たちの騒がしい声が聞こえてきた。完全に警戒して身構えているアルフレッドの横から、レティシアはそちらをのぞき込み、大きな石を次々に運んでいる妖精たちに声をかける。


「皆様、これは何の騒ぎですの?」


『石窯が欲しいって言ってた!』


『だから作ってる!』


『パンたべたーい!』


「まあ!」


 無邪気に主張する妖精たちに、レティシアはぱあっと明るい顔になる。


「ありがとうございます、皆さん。頑張って作りますね。……殿下はどうしてそんなに警戒していらっしゃるんです?」


「……妖精はろくなことをしない存在だって言っただろ! お前こそもうちょっと警戒心を持て!」


「殿下、本人たちの前でそういうことは言わないほうがいいですよ?」


「うぎぎ……」


 少しズレた正論で返され、うまく反論できなかったアルフレッドは悔しそうに唸る。レティシアはくすくすと小さく笑った。


「殿下、石窯も無事に用意できそうですし、今のうちにパン生地を作ってしまいましょうか。小麦粉は大体どれぐらい計ればいいのでしたっけ?」


「だから、大体じゃダメなんだよ! そこにレシピ本があるから、きっちり計っておけよ!?」


「まあ、見た目に似合わず殿下は細かいことが気になる方なのね」


「お前が大雑把すぎるんだ!」


 わいわいと騒がしくやりとりをしながら、二人はパンを作り始めた。


 小麦粉に水と酵母を入れ、たどたどしい手つきで捏ねていく。だが、生地はぼろぼろになるばかりでなかなかまとまらなかった。


「うーん、これで合っているのかしら。もう少し水を足してみます?」


「まだ始めたばっかりだろう! 頼むから材料を勝手に足さないでくれ!」


 悲鳴じみた声でアルフレッドは、レティシアの蛮行を阻止する。そのまま根気強く生地を捏ねていくと、ようやく完成図がイメージできる見た目にまで生地は丸くまとまった。


「はぁはぁ……。次は生地を寝かせる行程だ」


「寝かせる? 子守歌でも歌うんですの?」


「そんなわけないだろ! 酵母で生地が膨らむまで待つって意味だ!」


「ふふ、ただの冗談ですわ。殿下ったら、そんなに力強く否定しなくてもいいのに」


「うぎぃ……!」


 苛立ちを込めてアルフレッドはレティシアを睨み付けるも、レティシアには一切効いていない。


 そうしているうちに生地は無事に膨らみ、二人はそれを鉄板に乗せて石窯の中へと入れた。


 炉に火がくべられ、徐々に美味しそうな匂いが辺りに漂い始める。その香りを吸い込みながら、ふと気づいたレティシアはアルフレッドに尋ねた。


「そういえば、わたくしたちってどうして妖精さんたちの姿が見えているんでしょう」

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