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閑話 一方その頃、保護者たちは

 レティシアの父親であるユリウス・イルソイールは、とある屋敷で苛立っていた。


 公にはできない密会を行うために誂えられた窓のない小部屋で、向かい合って座る二人の男性。決して愛娘には見せない険しい顔でユリウスは向かいのソファに座る男を睨み付ける。


 彼の名前はサンドゥア・ガディンズ。ユリウスの愛娘に無礼を働いた憎き第二王子アルフレッドの後ろ盾となっている奇特な貴族だ。


 そんな彼はなぜか今、ユリウスから目をそらして冷や汗をかいていた。


「サンドゥア殿。私が新しく用意したアルフレッド殿下への縁談を断るとはどういうことですかな?」


「あーいえ、こちらとしても断りたいわけではないのですが、少々込み入った事情がありまして」


「ほう、込み入った事情。それは私にも話せないことなのですか? 長年、不器用で間抜けな貴殿の失態の尻拭いをしてきた私にも?」


「う、うう……」


 サンドゥアは身長190センチに迫るほどの屈強な大男だったが、それほど高身長ではないユリウスに完全に萎縮してしまっていた。体を丸めて縮こまり、親に叱られた子どものように目を泳がせる。そんな情けない様子をユリウスはじっと睨み付けていたが、やがて諦めたように大きくため息を吐いた。


「はぁ……。腹の探り合いは止めようじゃないか。何か問題が起きているんだろう? 内容によってはいつも通り協力してやるから、まずは話してみなさい」


「ユ、ユリウスぅ……! やっぱり頼りになるのはお前だけだよぉ!」


 一気に安堵から涙を溢れさせるサンドゥアは、ユリウスは鬱陶しそうに顔をしかめる。


 ユリウスとサンドゥアは、今でこそそれぞれの分野で活躍する貴族であるが、幼い頃は共に野山を駆けまわった腐れ縁の友人だ。


 だが、二人が気の知れた仲であることは、表向きは秘密にしている。それは両家の置かれる立場が複雑なものになっていったという外側からの圧力という理由もあったが、逆にそれを利用して、密かな協力関係を築くのが賢い立ち回りだと判断したユリウスの発案が理由だった。


 ユリウスは普段被っている紳士的で穏やかな仮面を脱ぎ捨て、砕けた口調で同い年の友人へと身を乗り出す。


「それで? 一体何があったんだ?」


「ありがとうユリウス、ぐすっ、俺ホントに困ってて、ううっ……」


「……」


 なかなか本題に入らないサンドゥアに、ユリウスはすっと立ち上がると、彼の座るソファへと歩み寄り、彼のすねを思い切り蹴飛ばした。


「いっだぁ!」


「さっさと、事情を、話せ。このまま帰ってもいいんだぞ?」


「ハ、ハイ……すみません……」


 一気に涙が引っ込んだサンドゥアは、ぷるぷると哀れっぽく震えながらようやく話し始めた。


「実は、例の婚約破棄の数日後から、アルフレッド殿下とお会いできなくなったんだ」


「会えなくなった? またいつもの癇癪か?」


「私も最初はそう思ったんだが、どうにもきな臭くて……離宮に探りを入れたら、どうやらアルフレッド殿下の食事が用意されていないようなんだ」


 サンドゥアは深刻な声色で言い、ユリウスは顎に手を置いて考え込んだ。


「食事が用意されていない? まさか私室に引きこもった殿下を引きずり出すために兵糧攻めを……いや、違う。食事を用意する必要がなくなったのか?」


「私もその線が濃厚なんじゃないかと睨んでるんだ。少なくとも殿下は今、離宮にいない。でもどこにいるのか俺には皆目見当もつかなくて、深く探ろうとしたら第一王子殿下の手の者に阻止されて……まさか第一王子に幽閉されてるとか、暗殺されたんじゃないかって、気が気じゃなくてぇ……!」


 サンディアはそこまで言うと、堪えきれなくなったのか顔を覆って泣き始める。ユリウスは立ったままそれを見下ろしていたが、絶望で泣き伏せる彼にかけるべき言葉はすぐに見つけられなかった。


 第三王子アルフレッドは、国王の側室であったアルティミスの子だ。そしてアルティミスは今目の前にいるサンディアの妹――つまり、サンディアにとってアルフレッドは甥っ子にあたる青年なのだ。


 明らかに権力闘争としては落ち目であるアルフレッドの後ろ盾となっているのも、妹の忘れ形見であるという事実が一番の理由なのだろう。


 サンディアの周囲の貴族は本気でアルフレッドの擁立を目指しているようだが、サンディア本人の気持ちとしては、ただアルフレッドのことを案じているだけなのだとユリウスはちゃんと分かっている。何しろ、彼と二人きりになるといつも、サンディアは弱音と本音しか吐かなくなるので。


「はぁー……」


 ユリウスは大きくため息を吐くと、泣きじゃくっているサンディアの頭に拳骨を軽く落とした。


「いだっ!?」


「落ち着け。お前が冷静に対処できなかったら、誰があの馬鹿王子を守るんだ。どんなしがらみがあってもアルフレッド殿下を守りたいと思っているのは、お前ぐらいのものなんだぞ」


「あっ……」


 客観的な視点から事実を述べられ、サンディアはハッと正気に戻って顔を青ざめさせる。


 貴族社会は仲良しごっこではない。権謀術数はびこる残酷な世界で、本当の意味でアルフレッドを心配している大人がサンディアしかいないのは変えようのない事実だ。


 今この瞬間にも大切な甥っ子が危険な目に遭っているかもしれないのに、困惑と焦りでうまく立ち回れていなかったことを改めて自覚し、サンディアは絶望の表情になる。


 ユリウスは仕方なさそうに息を吐くと、そんなサンディアの隣に乱暴に腰かけた。


「まあ、私もあのガキとは知らない仲ではないからな。手を貸してやらんでもない。騒ぎに乗じて他の貴族の弱みも握れたら万々歳だが」


 そう言いながらユリウスはにやりと口の端を持ち上げる。素直ではない言い方ではあるが、頼りになるその言葉を聞いて、サンディアは一瞬きょとんとした後、まるで間抜けな大型犬のようにパッと笑顔になった。


「ありがとう、ユリウス! でも相変わらず普段の紳士なお前しか知らない奴が見たら、卒倒しそうな悪い顔だな!」


 途端にユリウスの顔には苛立ちが浮かび、彼は隣に座るサンディアの足を踏みつける。


「一言多いんだ、お前は!」


「いでっ!」


 かくして腐れ縁の二人は協力体制を取り、第二王子奪還に向けて動き始めた。


 当のアルフレッドが自分から出奔して、神秘の森でレティシアと一緒に妖精王をやっているだなんて、思いもしないまま。

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