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第9話 王子は語り聞かせる

 昔々、まだ神々が地上におわしましたほどの大昔。


 今は神秘の森と呼ばれている場所に、白銀の髪を持つ青年が住んでおりました。


 青年は誰もが恋してしまうほど見目麗しく、彼を一目見るためにわざわざ森を訪れる者もいるほどでした。


 それもそのはず。青年はただの人間ではなく、妖精の血を引いていたのです。


 妖精というのは気まぐれで身勝手なもの。例に漏れず彼も、妖精のその性質を色濃く受け継いでいました。


 湖で泳ぐ彼に魅了された人間が溺れ死んでも、彼を捕らえようと森にやってきた人間が獣に食い殺されても、青年はこれっぽっちも悲しいとは思いませんでした。


「何が悪いというのか。私が美しいのは私のためだけのことなのに、お前たちが勝手に魅了されるだけだろう!」


 傲慢で恐ろしい半妖の青年。彼の日々が一変したのは、森に迷い込んできた少女との出会いがきっかけでした。


「妖精様、私の摘んだお花をあげます。きっととってもお似合いになるでしょうから」


 少女は純粋な気持ちで青年に花をプレゼントしました。しかし青年はそれを求愛だと受け取りました。妖精の考え方では、花を手渡されることは求愛を意味しているのです。


「私に求愛するとはなんと驕り高ぶった行動か! だが、その気持ちは受け取ってやろう! 私の妻になるがいい!」


 青年は有無を言わさず少女を連れ去り、永久に一緒に暮らそうとしました。しかしそこで邪魔をすることになったのがかの魔術王オルテアでした。


 少女の両親は魔術王オルテアに頼み込みました。


「王よ、私たちの愛娘が半妖の怪物に連れ去られたのです!」


「どうか力をお貸しください!」


 魔術王オルテアは両親の願いを聞き届け、青年から少女を取り戻そうとしました。


「悪しき半妖の者よ、なにゆえ乙女を連れ去ったのか!」


「我が妻は私に求愛をしたのだ! 返すつもりは毛頭ない!」


「ならば仕方ない、神々の罰を受けよ!」


「なんと傲慢な人の王よ! 妖精の怒りに焼き尽くされるがいい!」


 森を丸ごと巻き込んだ激しい魔法の攻防の末、魔術王オルテアはついに青年に勝利し、彼を永久に角のある白馬――ユニコーンの姿に変えることに成功しました。


 少女の両親は少女を取り戻しましたが、妖精のもとで長い時間を過ごした少女はすっかり人間ではなくなっていました。


 結局、人間としての少女が返ってくることはありませんでした。


 神秘の森には今でも伴侶を求めて彷徨う恐ろしいユニコーンが住んでいます。


 あなたがもし妖精に出会うことがあっても、決して話しかけたり物を渡したりしてはいけませんよ。迂闊に関わったが最後、妖精に連れ去られて人ではなくなってしまいますからね。




□■□■□■




 アルフレッドはまるで役者が劇を演じるように、情感たっぷりに物語を語り聞かせた。それを目の前で聞いたレティシアは、自然と前のめりになってその話に聞き入る。


 しかし全てを語り終わった後になって、己があまりに熱を込めて語ってしまったことが気恥ずかしくなったのか、アルフレッドは気まずそうに咳払いをして目をそらした。


「んんっ、以上が神秘の森のユニコーンの伝説だ。異本もあるし、大昔のことだから、本当にあったことなのかは定かではないがな! ……なんだその目は。何か文句でもあるのか?」


「いいえ? とっても面白い物語でしたわ。物語にさほど興味のないわたくしでも、熱中して物語の登場人物たちに思いを馳せてしまいましたもの。こんなに語り聞かせるのが上手だなんて、殿下は本当に物語がお好きなのですね」


 純粋な褒め言葉を並べられ、アルフレッドの頬はほのかに紅潮する。


「……ふーん、あっそ。そんな風に褒めてきたのはお前が初めてだよ。変わり者なんだな、お前」


「ふふ、変わり者なのは事実ですが、殿下のお話が面白かったのも事実ですわよ?」


「……へーそう」


 たき火に赤く照らされたアルフレッドの顔がさらに赤くなり、もごもごと相づちを打つばかりになる。レティシアはそんなアルフレッドの横顔をにこにこと眺めていた。


 しかし、そんな微笑ましい空気を切り裂くように、二人の背後から突然男の声がかけられた。

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