第9話:少年錬金術師、初めての狩りをする
素材を集めに何度か森に足を踏み入れたけど、相変わらず豊かな自然を感じる。
木漏れ日がチラチラと舞う光景は美しく、爽やかな空気もマイナスイオンたっぷりって感じ。
それでも普段より深い場所を進んでいるためか、木々は鬱蒼としておりどことなく暗い雰囲気だ。
時折、ガサッと葉っぱが揺れたり、木の枝が踏まれるような硬い音が響いたりする。
やっぱり、魔物が住んでいるのかと緊張するね。
顔が強ばっていたら、ランドが僕に言ってくれた。
『大丈夫レムよ、ツバサ。周りにいるのは小さい魔物ばかりレム。ボクたちを警戒して、逃げているみたいレムね』
「そうなんだ……ありがとう、ランド。それにしても、よくわかるね」
『ツバサのおかげで目が良いんだレム』
ランドは猫モチーフなので、視力が優れているのだろう。
森の中を歩いていると、自然と帝国の話になり、僕はジゼルさんから国内情勢を色々と教えてもらっていた。
「……"魔波"の開発で忙しくはなりましたが、もちろん良いこともたくさんあります。町には警備ゴーレムがあふれ、夜も明るくなったおかげで治安も一段と向上しましたし、傾き駆けた帝国の経済も復活しました」
「えっ、帝国は廃れている時期があったんですか?」
女神のディアナ様から大きな国だと聞いたから、ずっと昔から栄えていたものだと思っていた。
僕が尋ねると、ジゼルさんは頷きながら言葉を続ける。
「ええ、ちょうど10年ほど前のことです。元々アルカディア帝国は安定した基盤があったのですが、先代皇帝と皇妃……つまり、私の父様と母様が不慮の事故で死んでから、一気に不安定になったんです」
「そう……でしたか……」
『悲しい話レム……』
ご両親はもう亡くなられているんだ……。
初めて耳にした。
今、ジゼルさんは十八歳で、六歳の頃にご両親は亡くなったとも聞いた。
まだ若いのに可哀想だ……。
しょんぼりする僕とランドに対し、ジゼルさんは微笑みを浮かべながら話す。
「それから、私と姉は二人で帝国を立て直そうと誓ったんです。二人で遊んでいるときに見つけた"魔波"を元に技術革新を進めた結果、世界的でもトップクラスの国力となりました。あの頃の姉は今より優しかったんですけどね……」
「きっと、お姉さんはジゼルさんを追放したことを後悔していると思います」
『早く仲直りしてほしいレムよ』
「ありがとうございます、お二人とも……。私も姉とはこのままで終わりたくはありませんね」
ジゼルさんは祖父母もすでに他界していて、家族はお姉さんだけとのこと。
たった二人の家族ならば、尚更早く仲直りしてほしい。
さらに五分ほど歩くと木々が途切れ、ぽかりと開いた小さな空間が現れた。
その中央には……1mくらいの猪がいる。
僕たち三人はササッと身を屈めた。
初めて見た生き物なので、ジゼルさんに聞いてみる。
「あの動物は何でしょう……?」
「主に草花を食べる猪、グラスボアです。お肉は歯ごたえがあっておいしいですよ。私はベリーソースをつけて食べるのが好きです」
へぇ~、ジビエ料理みたいな感じかな。
さっそく狩ろうと僕は〘蒸気な銃〙を、ジゼルさんは杖を準備したら、ランドが小声で叫んだ。
『ちょっと待ってレム!』
突然、空から全長5mほどの大きな鷲が舞い降りて、あっという間にグラスボアを捕まえて飛び去っていく。
羽ばたきの力が強すぎて、木陰にいる僕たちの髪も風圧で揺れるほどだった。
慌てて空を見ると、1mくらいもある猪を軽々運んでいる。
地球にはあんなに大きな鳥はいないよ。
ジゼルさんもホッとした様子で話す。
「グラスボアを攻撃していたら、私たちが襲われていたかもしれませんね」
「び、びっくりした~。ありがとう、ランド。おかげで助かったよ」
『二人に危害が及ばなくてよかったレムよ』
ランドの頭を撫でると、嬉しそうに笑っていた。
彼がいてくれてよかった。
また別の獲物を探そうと歩き出すと、ジゼルさんが“スターフォール・キャニオン”についていろいろと教えてくれた。
「この大峡谷では、豊かな生態系により新種の魔物や動植物が毎年のように出現すると言われるくらいです」
「すごく深い森がたくさんありますもんね」
僕の拠点は魔物の生息域から離れた高台にあるので、今まで魔物との接触もなかったのでしょう、ということだった。
広場の空間は空の魔物にとっても格好の狩り場だとわかったので、木々が生える森の中で獲物を探すことにする。
数分も歩かぬうちに、ジゼルさんが青い羽根と濃い藍色の嘴がとても綺麗な鳥を見つけてくれた。
「あれは晴天鳥と言いまして、その名の通り晴れの日じゃないと空を飛ばない鳥型魔物です。肉の濃い旨みが特徴的で、塩胡椒のサッパリした味付けがおすすめですよ」
「おいしそう……」
「美しい羽根は装飾品に使われたりもしますね」
『猫目線で見ても綺麗レム』
ランドが周囲に大型の魔物はいないと教えてくれたので、晴天鳥を狩猟することに決める。 ジゼルさんがそっと杖をかざした。
「……《電撃波》!」
電気がバチッと迸り、晴天鳥に直撃する。
パタリと落ちた晴天鳥の元に行き、自然と三人とも地面に膝をつく。
命をいただいたことに感謝の意を示し、天へとお祈りを捧げた。
お祈りが終わると、ジゼルさんがぽつりと話す。
「ここで暮らしていると、帝国で忘れてしまった大事なことを思い出せます。食べ物や命に感謝したり……生きる上で大事なことを、です」
そう語るジゼルさんの瞳は穏やかだった。
「僕も感謝の気持ちは忘れないようにしたいです」
『ボクもレム』
立ち上がって狩りを再会する。
ジゼルさんの拘束魔法でサポートしてもらいながら、僕も〘蒸気な銃〙で狩猟した。
晴天鳥は樹の上にいることが多いので、角度をつけたり狙いやすい位置を考えたりと、幹での練習より難しかった。
何発か外してその度に逃げられてしまったけど、これから少しずつうまくなっていきたいね。
もちろん、狩猟した後は命の恵みに対して丁寧にお祈りを捧げた。
ゆったりしたスローライフを送りながらも、感謝の気持ちを忘れてはいけないから。
合計で三匹の晴天鳥を狩猟し、高台に戻る。
行きは少し怖かったものの、帰りはもう怖い気持ちはなかった。
森の中の風景は変わらないのに何だか不思議だね。
二十分も歩かぬうちに、僕たちのお家〘試作型:ツバサのお家〙が見えてきた!
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