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第7話:パワハラ女王、怒る(三人称視点)

 ジゼルが北に向かってひたすらに歩き、ちょうど"スターフォール・キャニオン"に足を踏み入れたとき。

 アルカディア帝国の近未来的な様相を呈した巨大な宮殿の、これまた巨大な"女王の間"では、とある女の金切り声が鳴り響いていた。

 

「……ジゼルー! こらー、ジゼルー! どこ行きおった! 妾が呼んだら0秒で来いといつも言っておるであろうがー!」


 現代社会のトレーダーの部屋を思わせるような、モニター型の魔導具が立ち並ぶ広大な部屋。

 朝からずっと、ガツガツガツ!っと硬いガラスを叩くような音が響いていた。

 鬼の形相で〘魔波プレート〙を叩いているのは、この国の女王――ロザリー・アルカディア。

 ジゼルの双子の姉だ。

 眩い銀の髪と真っ赤な瞳の他、身につけるサイバーパンクな服装も含めて瓜二つである。

 ただ一つ、前髪は右側だけ伸ばしており、ちょうどジゼルと真反対の髪型だった。

 国一番の秘宝とも称される美しい赤の瞳は怒りに燃え盛り、室内を行き交う自動ゴーレムたちも自我はないのにどこか怯えた様子だ。

 ロザリーはジゼルの居場所が探知できないとわかると、〘魔波プレート〙を机に叩きつけて叫んだ。


「おい、モーリス! 今すぐ来んかー!」

「……はっ、女王様! ただいま参上いたしました!」


 ドスの利いた怒号を聞くや否や、控えていたように初老の男――執事のモーリスが扉を開け放ち、ロザリーの元へと駆ける。

 だが、扉と机までは距離が遠く、走っても数秒かかってしまった。

 生活の自動化による弊害で運動不足気味のモーリスは息を切らすが、ロザリーは容赦なく怒鳴る。


「こらー、4秒も待たせるとは何事じゃ! 妾は時間が無駄になるのが一番嫌いじゃと、いつも言っておるだろ! お前の脳味噌に〘魔波プレート〙を埋め込んでやろうかー!」

「も、申し訳ございません、女王様っ。埋め込まないでくださいっ」


 ロザリーは時間を無駄にしたモーリスにキレまくる。

 悲しいことに、日常的なパワハラ風景であった。

 震えるモーリスになおも怒号が降りかかる。


「ジゼルはどこじゃ! 今すぐ呼んでこい!」

「お、お言葉ですが……女王様が追放を命じられたかと……」


 モーリスに言われ、ロザリーは我に返る。

 たしかに……そのような記憶がある。

 仕事に追われ、ジゼルを追放したことなどすっかり忘れていた。


「そんなこと知っておるわー!! ……わかったぞ、妾を侮辱しているな!? 女王侮辱罪じゃ! お前の脳みそをレーザーで焼き払ってやろうかー!」

「違います! 侮辱していません! レーザーで焼き払わないでください!」


 ロザリーは自分のミスや間違いを決して認めようとしない剛の者であり、仕える人間は常に振り回されていた。

 彼女はなおも地団駄を踏んではモーリスを責める。


「今すぐジゼルを呼んでこいー! 妾だけこんなに忙しいのはおかしいじゃろうがー!」


 "魔波"の発明により帝国の日常は飛躍的に加速し、今ではほとんどの生活雑務がゴーレムや魔導具により自動化された。

 だが、日常が加速すればするほど人々は逆に仕事に追われるようになり、自動化により浮いた生活雑務の時間にはまた別の仕事が降りかかる悪循環に陥っていた。

 中でも、国の中枢に関わる責任の重い大事な案件は、全て女王か王女に上がってくる。

 ロザリーは常に睡眠不足であったが、ジゼルを追放したことでより疲労困憊な日々を送っていた。

 怒る彼女に、モーリスは慎重に言葉をかける。


「し、しかし、女王様。ジ、ジゼル様は退職届を提出されました。退職願ではないので、受け取る義務があるかと……こちらをご覧ください」


 彼が自分の〘魔波プレート〙を操作すると、ロザリーのモニターに一枚の文書が表示された。

 ジゼルの退職届だ。

 忙しさにかまけて、適当にサインしていた。

 ぷるぷるとロザリーは震え始める。


「退職届じゃとぉ!? そんなもの無効じゃー!」

「じょ、女王様!」


 とうてい認められるわけもなく、モニター魔導具を叩き割った。

 粉々の破片が宙を舞う中、ロザリーは勅命を下す。


「大至急、ジゼルを捜すのじゃ! 妾は退職など認めんぞ! 追放と言われて本当に出て行くヤツがどこにいるー!」

「しょ、承知しました! 直ちに、捜索を開始いたします!」


 モーリスは大急ぎで"女王の間"を後にする。


(あの猪口才な妹め! 絶対に見つけ出すからな~! もう二度と姿を消せないよう、脳みそに〘魔波プレート〙を埋め込んでやるんじゃ!)


 ロザリーはモニターを叩き割った拳の痛みに耐えつつ、ジゼルへの怒りを燃やしていた。

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