第6話:少年錬金金術師、銀髪お姉さんと暮らすことになる
「《スキルオン》」
ぽんっ、と出現した二つのアイテムを見て、ジゼルさんは笑顔を浮かべる。
「それは何ですか? なんだか、すごくおしゃれですね」
「僕のスキルは【蒸気の錬金術師】と言いまして、この本に描いた魔導具を錬成できるんです」
「へぇ~っ! そんなスキルがあるのですね。私も初めて聞きました」
『ツバサは絵がすごくうまいんだレムよ』
さっそく、釣り竿のイラストを描く。
僕と同じデザインだけど、大人用として少し長くしておいた。
一応、使う本人に確認してもらおう。
「こんな感じでいかがでしょうか?」
「素晴らしいです! どこか古くて懐かしさを感じるデザイン……! 見ているだけでワクワクします! ……それにしてもランドさんの仰る通り、ツバサさんは絵がお上手です」
「!? ありがとうございます!」
絵がうまいと褒められるのはすごく嬉しい。
とても気分がよくなって、上機嫌でサインしてしまった。
続けて、<真鍮石>と手頃な樹をスケッチしていると、ジゼルさんはまたもや感嘆とした声音で僕に話す。
「ただ書き写しただけでなく、風情がより増しています。温かみがあるというか。自分の部屋に飾りたいくらいですよ」
「! ありがたきお言葉!」
素材を吸収し、準備は完了。
「それでは、錬成します。……《蒸気錬成》!」
<真鍮>を4個、<木材>を2個、<糸>を5個消費して、釣り竿を錬成する。
大人用で大きかったからか、少し素材が多かったね。
〘大人用:蒸気の釣り竿〙が完成すると、ジゼルさんはさらに拍手しながら喜んでくれた。
小川の近くに行って、一緒に釣り糸を垂らす。
「サンアップルの欠片を餌として使っているんですが、結構食いつきがいいんですよ」
『ツバサは釣りもうまいレム』
「魚釣りなんて、最後にやったのはいつか覚えてすらいません」
釣り糸を垂らしてお魚がかかるのを待つ。
ただ何もせず、待つだけの時間……。
少ししてから、ジゼルさんは呟くように言った。
「時間って…………こんなにゆっくり流れるものだったんですね」
彼女の赤い瞳は穏やかに水面を見つめていた。
何も言わず、三人で釣りを続ける。
しばらくすると、ジゼルさんのウキがピククッと動いた。
「ツ、ツバサさんっ、魚がくいついたみたいですっ」
「一緒に引き揚げましょう!」
『ボクも手伝うレムよ!』
三人で力を合わせ、大きな石魚が釣れた。
ジゼルさんは弾けるような笑顔で喜ぶ。
「やった……! 釣れましたよ、ツバサさん!」
「お見事です!」
『大漁だレムー!』
僕も一匹釣ったところで、焚き火を準備する。
だいぶ慣れてきたので、すぐ火を起こせるようになったのだ。
枯れ枝や枯れ葉を集めていたら……ジゼルさんが何もない空間から杖を出した!
「火魔法を使いましょうか? 私のスキルは《賢者》ですから、魔法は得意なんです」
「け、《賢者》!? すごいですね……。せっかくですが、大丈夫です。こうすれば……」
ゴーグルのレンズで火を起こすと、ジゼルさんは甚く感動していた。
「どうやったのですか!? まるで、魔法ですね!」
「レンズで太陽の光を一点に集めて着火したんです」
「魔法にもあまり頼らないなんて! これがアナログ生活……!」
石魚を焚き火にかざすこと、およそ五分。
こんがり焼き上がった。
おいしそうだね。
香ばしい匂いが漂う石魚を眺めながら、ジゼルさんが言う。
「帝国では、漁も調理も配膳も全部自動ゴーレムが行っているんですよ。全てが効率化されていて、注文して座席に着いた瞬間には運ばれてくるほどです」
「へぇ~、すごい技術力ですね」
『働き者レムね~』
僕とランドは単純に帝国の技術に感嘆としたけど、ジゼルさんの表情は暗い。
そのまま、ポツリとした呟きが石魚に落ちた。
「でも、どこか……味気なかったんですよね。お料理自体は美味しいのに……。ずっとどうしてかわからなかったのですが、こうやって自分でお魚を釣って、焚き火で焼くことで……わかってきたような気がします」
「『ジゼル(さん)……』」
そう話す彼女の顔は、先ほどより明るい。
少しずつでも元気になってくれたらいいな……と思う。
調理も完了したので、さっそくみんなで早めのお昼ご飯をいただこう。
いつもと同じように、石魚の串焼きとサンアップルのセット。
食べる前に手を合わせてお祈りしていると、ジゼルさんが石魚を持ったまま固まった。
「……食べないんですか? 待っている時間が無駄になってしまいますよ……? ただでさえ、焼くのに五分もかかってしまいましたし……」
「あ、いえ、やっぱり、食べる前は挨拶した方がいいのかなと……。命をいただいているわけですから……」
僕が言うと、ジゼルさんはハッとした。
串焼きの石魚を戻すと、唇を噛みしめ恥ずかしそうな表情で話す。
「そう……ですね。お食事の前は、命を捧げてくれた生き物に感謝の意を示さないといけませんよね。日々の仕事に忙殺されていたとはいえ、王女たるもの許されないことでした。私は……自分が恥ずかしいです」
ジゼルさんは力なく俯く。
彼女の気持ちは痛いほどよくわかった。
僕も忙しかった前世の"いただきます"や"ごちそうさま"を言う時間すら惜しかった感覚を、今でもよく覚えている。
だから……。
「これからは、今までの分も挨拶しましょう」
「ツバサさん……。……そうですね。挨拶損ねた分、精一杯感謝しようと思います」
僕たち三人は串焼きを持ち、生命に感謝する。
「『それでは……いただきま~す! ……おいしい!』」
食べた瞬間、濃厚な旨みが口いっぱいに広がった。
ジゼルさんもまた、満面の笑みだ。
「こんなにおいしいお食事は初めてです! 王宮では食事中もずっと通信が届いていたので、ろくに味わいもできなかったです。お食事って……楽しいんですね」
『みんな一緒にいると、よりおいしさも増すレム!』
食事が終わり、ごちそうさまでした!と食べ物に感謝する。
その後は、みんなで円になって地面に寝っ転がった。
目に映るのは青い空と白い雲だけ。
ただ雲を眺めるだけの、のんびりした時間。
このゆったりした時間を邪魔する人は誰もいない。
僕たちは微笑み合うと、一緒に叫んだ。
「『……アナログ生活最高!』」
僕とランド、そしてジゼルさんの明るい声が天高くまで響く。
その日から、三人でのスチームパンクでレトロなスローライフが始まった。
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