第4話:少年錬金術師、畑を耕す
「『……ふわぁ~あ』」
ランドを作った翌日。
朝日を浴びて、僕たちは目覚めた。
外はすっかり日が昇っている。
一晩中お喋りして、ランドとはすごく仲良くなれた。
真鍮製のランドは冷たいけど、ずっと抱いていたからか人肌に暖かい。
『ツバサと一緒に寝ると、ほんわかして気持ちよく眠れたレム』
「それならよかった。ランドのおかげで、僕もぐっすり寝れたよ」
ベッドから起き上がり、一緒に背伸びをする。
時計を見ると10時過ぎ。
夜遅くまでお喋りしていたので、寝坊しちゃった。
時間を気にしなくていいって本当に最高だ。
ランドがカチカチと毛繕いする中、顔を洗おうと蛇口を捻ったけどお水が出ない。
「うそっ、故障?」
『いくら回しても、お水出ないレムね』
何度かやり直したけどダメだった。
パイプが詰まってしまったのかな。
一度外に出てお家の状態を確認してみると、またもや異変が起きていた。
「あれ……? 蒸気が出てない……」
『どうしたんだレムかね』
お家を振り返ったら、煙突から蒸気が出てないことに気がついた。
周りの空気も何となく乾燥している。
昨日はあんなにもくもくとあふれていたのに……。
家全体が故障したのかと思って、慌てて中に入ったら原因がわかった。
「『……あらら』」
部屋の片隅にあるタンクの中の、お水がなくなってしまったらしい。
中身が空っぽだ。
たしかに、エネルギー源のお水がなかったら、〘蒸気魔導具〙は稼働しないよね。
後は補給するだけだけど……。
「タンクは結構大きいね……。満杯にするのは大変かも」
『ボクも手伝うレムよ』
「ありがとう、ランド。でも、ちょっと待って」
少し考えた後、《スキルオン》して【蒸気な本】を手に持つ。
この前吸収した小川……というか水のイラストをタンクにかざすと、瞬く間に水が満杯になった。
「『おおお~!』」
きっと、素材として使ったからイラストを見せるだけでいいんだろう。
定期的な補給は手間暇かかるけど、それがいいね。
喉が渇いたのでついでに飲もうと思ってコップを入れるも、なぜか掬えない。
「……あれ~?」
『すり抜けるレムね』
腕が濡れるくらいちゃんと入れているのに、掬い上げるとコップに水が入っていないのだ
どうして……そうか、採取した素材も食べることはできないのか。
諸々を、【蒸気な本】の最初のページに追記。
スキルを実際に使って気づいた点は、こまめにメモしていこう。
というわけで、ランドと一緒に外に行く。
ちゃんと煙突から蒸気が出ていて安心した。
「じゃあ、遅めの朝ご飯を食べようか」
『お水飲みたいレム』
ランドはゴーレムだけど、人間みたいにご飯を食べる。
食べ物以外にも、蒸気機関のエネルギーとなるお水をたくさん飲むのだ。
一日三回の補給で十分とのこと。
ランドには小川から汲んだ新鮮なお水を先に渡し、僕は石魚の釣りを始める。
二匹釣り上げて木の枝に刺す。
焚き火は昨日の火種が残っていて、再利用したらすぐに火が付いた。
石と灰で覆っておいたおかげかな。
大自然の爽やかな空気を堪能しながら、ほかほかの焼き魚と採れたてサンアップルを二人で一緒に食べる。
『「いただきま~す……おいしい!」』
石魚は濃厚な旨みが素晴らしいし、サンアップルは甘酸っぱくて爽やか。
昨日からずっと同じ物を食べているけど、まったく飽きない。
「……はぁ、何度食べてもおいしいなぁ~」
『小川のお水も冷たくておいしいレムよ』
お腹が満腹になったところで、ごろんと寝っ転がって食休み。
ランドも僕のお腹に頭を乗せて、一緒に青い空を眺める。
綿菓子みたいな白い雲が、何個もゆったりのんびり漂っていた。
ゆっくりと風に流れる景色は長閑そのもので、見ているだけで心が穏やかになる。
小鳥の囀りや木々の葉が揺れる音もまた、僕たちを優しく包み込む。
ぽかぽかした陽気も暖かく、起きたばかりだというのにランドはうたた寝してた。
しばらくひなたぼっこしたところで、僕たちは立ち上がる。
「さてと、今日は畑を作ろうかな」
『楽しそうだレム!』
高台にはサンアップルの樹がたくさん生えている。
でも当然だけど、全部食べてしまえばなくなっちゃう。
だから、自家栽培しようと思うのだ。
一応、今まで食べた分も種は取ってあるから、土を耕せばすぐ撒ける。
作業を始める前に、【蒸気な本】のサンアップルの素材説明欄を見直そう。
ランドも興味深そうに覗き込む。
栽培法法とか書いてあったかな……と思ったら、追加説明の文章がじんわりと浮かび上がった。
「どれどれ……種を撒いた後、一日五回水やりすることで二週間後には収穫が可能になる……だって!? そんなすぐに実が成るんだ!」
『素晴らしい成長ぶりだレム! 毎日食べ放題レムよ!』
林檎なんて何年も育てないと実らないのに。
これが異世界……。
栽培法法がわかったところで、農具を用意する。
ストックの<真鍮>を1個と<木材>を2個消費して、ただの鍬(ただし、スチームパンクデザイン)を錬成。
これで土を耕して畑を作ろう。
場所は日当たりなども考え、お家の横にした。
ここは昼間でも日陰にならないのだ。
鍬でガガガと縦横3mくらいの線を引き、耕作開始。
空高く腕を上げて、すとんと落とす、ちょっと引く。
また上げて、すとんと落とし、ちょっと引く。
動かしてみると鍬は結構重くて、徐々に腕や腰に疲労が溜まってきた。
でも、最後まで頑張るぞ!
『頑張れ、ツバサ……頑張れ、ツバサ……レム!』
ランドもまた、僕の周りを駆け回って応援してくれる。
小一時間ほど鍬を振るうと、不格好ながらも畑が耕せた。
達成感と満足感で心が満たされる。
自分で耕したと思ったら感動もひとしおだ。
「いえーい、完成! 名付けて、"フェザー・ファーム"だ!」
『パーフェクトな畑レム!』
しゃがみ込んでランドとハイタッチを交わす。
休憩がてら、今度は<真鍮>を2個消費して〘ジョウロ〙を錬成。
機能はないけど、もちろんのことスチームパンクなデザイン。
畑にサンアップルの種を撒き、軽く土で覆う。
ランドも足の爪で手伝ってくれた。
お水を畑に撒いたら、真の完成だ。
「元気に育ちますよーに!」
『またたくさん実ってほしいレム!』
ランドと一緒に祈ったとき。
僕の後ろから、鈴が鳴るような軽やかな声が聞こえた。
「あの……ここはあなたの家なんですか?」
振り返ると、美しい銀色の髪をした女の人が立っている。
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