第30話:少年錬金術師、空を飛ぶ
「それでは、お弁当を作りましょー!」
「『おおおー!』」
僕の掛け声に、ジゼルさんとランドも拳を突き上げ応えてくれる。
お弁当のメニューはもう決めてある。
ピクニックといえば……サンドイッチ!
具材が違えば味わいも異なるので、楽しめると思う!
さっそく、キッチンで調理開始。
最初に始めるのは、ラヴァポテトと呼ばれる、この世界で一般的なじゃがいもを茹でること。
南側の森にお出かけしたとき、いくつか採取してきたのだ。
育てるのがとても簡単で、今ではお家の裏手でたくさん実っているよ。
ついでに、晴天鳥の卵も一緒にお鍋に入れる。
茹で上がるまでの間、具材を作ろう。
「合わせて、三種類の具材を用意しています~。まぁずは、晴天鳥のお肉と焼きサンアップル~」
「『……いい!』」
お肉と林檎を一緒に炒める。
こうすれば上質な脂と果汁が混ぜ合わさって、互いに互いを引き立てる。
お肉が柔らかくなる効果もあるよ。
五分ほど炒めたら完成し、二つめの具材に移る。
「お次は、晴天鳥の卵サンド~」
「『……とてもいい!』」
晴天鳥のゆで卵をフォークで潰し、ささっと塩胡椒で味付け。
シンプル故に、素材のおいしさが引き立つのだ。
「最後は、石魚のツナをご用意しました~」
「『……大変いい!』」
二人とも喜んでくれて何より。
食事のレパートリーを広げるため、この前石魚のツナを作ってみた。
さっそく料理に使えてよかったね。
ラヴァポテトが茹で上がったら、これまたフォークで潰してマッシュポテトみたいに加工する。
「パンの代わりには、ラヴァポテトのパテを使いましょ~」
「健康的でいいですね!」
『お肉やお魚との相性もバッチリレム!』
ポテイトゥをフライパンでこんがり焼けば、あら不思議。
香ばしいパンみたいになったよ。
調理した具材を包み込んだら完成だ。
せっせと作業していると、ジゼルさんが手伝ってくれるとのこと。
「これくらいなら、料理が苦手な私でもできそうです」
「ありがとうございます。でしたら、ツナのサンドをお願いします」
手分けして作業した方が効率いいもんね。
ジゼルさんが手伝ってくれてよかった~……と、このときの僕もランドも思っていた。
「それでは失礼して……あっ!」
「『どひゃあああっ(レム)!』」
なんと、ジゼルさんが触れた瞬間……食材がスライムになってしまった!
面白おもちゃとして売られていそうな、緑色のネバネバ。
キッチンに似付かわしくない、"それ"が僕たちの目の前にあった。
呆然とする中、ジゼルさんの小さな声が耳に届く。
「……申し訳ありません。"スターフォール・キャニオン"の大自然に囲まれて過ごしているので、私のこの謎の現象も消えたとばかり……」
「い、いえ、気にしないでください。誰にでも向き不向きはある、ということですよ。汚部屋よりよっぽどマシですから」
『ジゼルのせいじゃないレム。元気だしてほしいレム』
しょぼ~んとするジゼルさんをランドと励ましながら、何はともあれサンドイッチが完成した。
お肉に卵にツナ……。
彩り豊かで食欲をそそるね。
お弁当の他、護身用に〘蒸気の銃〙も持っていこう。
これで準備は万端。
お家の外に出て、気球のバーナーを起動させる。
ジゼルさんが魔法でバルーンを支えてくれたので、思ったより簡単にできた。
「いきますよ~……点火~!」
「『い! えーい!』」
火を灯すと、バルーンが少しずつ膨らんでいく。
ワクワクしながら僕たちは籠に乗り込んだ。
地面と気球を繋ぐ係留の縄を、みんなで持つ。
「それでは……しゅっぱーつ!」
「『いざ、空の旅へー(レム)!』」
パッと離すと、ふわ~っと飛び立った!
のんびりと宙に浮かぶ。
気球を操作するのは初めてだったけど、【蒸気の本】に使い方が書いてあったおかげでうまくできた。
あっという間に、地面から50m近くも上がってしまった。
同じ場所でも高台から見るのとはまったく異なる景色で、僕たちは思わず歓声を上げた。
「『……きれ~い!』」
眼下に見えるのは、見渡す限りの大峡谷!
深い緑の木々に、とても広くて大きな川。
川は底まで見えるほど透き通っており、真上から眺めると光の反射のためかエメラルドグリーンに見える。
お魚もたくさん泳いでいるよ。
東側の森の上を飛ぶと、木々に隠れて見えないものの、"兎獣人"の国の場所も何となくわかる。
自転車もいいけど、今度は気球で行ってみようかなぁ。
上空からでは、動物や魔物の群れなどもよく見える。
草原には、見たことない黒と白の縞模様をした牛が、いくつかの塊になって草を食べていた。
頭の両脇からは鋭く太い角が伸び上がっているので、魔物だろうか。
ジゼルさんに聞いたら、どんな魔物なのか教えてくれた。
「あれはヘルホーンと言いまして、見ての通り牛の魔物です。頑丈な角で肉食の魔物を倒すほど強いのですが、適度な霜降りのお肉は絶品ですよ。帝国の宮殿でもよく出てきましたね」
「へぇ~、それはまたおいしそうな魔物です」
『話を聞いているだけでお腹空いちゃうレムね』
お昼ご飯にはサンドイッチがあるけど、晩ご飯はあの牛でもいいかもしれない。
そう思いながら西側の方に移動すると、鉱床洞窟のある地溝が見えてきた。
大冒険(僕にとっては)の記憶が鮮明に蘇り、ジゼルさんにハイテンションで話す。
「ジゼルさん、大地溝と荒れ地が見えますよ! 上から見てもすごい険しさですね」
「今思えば、私たちは自転車で移動したんですよね。自分のことながら、すごい頑張ったなと思います」
『ガタゴト走った感覚はまだよく覚えているレム』
真上から見る荒れ地は岩の陰影や地面の凹凸が一段と際立ち、何人も近寄らせないような排斥感にあふれている。
グールハウンドと思しき犬型の影が獲物を探して歩いていることもあり、冷たさを感じる殺風景な風景だった。
空から見ると場所毎の情景の違いがよくわかり、傍らのランドも『地図製作が捗るレムね~』と嬉しそうだ。
途中、野菜や果物が自生している森があり、休憩も兼ねて降り立ってみた。
サニーレタスみたいな葉野菜のオトギリーフ、大きなラディッシュを思わせるトキンディッシュ、ラズベリーそのものなロパナベリー……などなど、種々の食材が手に入った。
お酒の元になるスターグレープという葡萄を見つけたときは、ジゼルさんがすごく喜んでいたっけ。
採取した野菜や果物を積み、空中散歩を再開して三十分後。
お昼がやってきた。
「ジゼルさん、ランド、そろそろお弁当を食べますか?」
「ええ、そうしましょう」
『もうお腹ペコペコレム』
サンドイッチを広げて、みんなで一緒に食べる。
僕は晴天鳥のお肉と焼きサンアップル、ランドは石魚のツナ、ジゼルさんは卵サンドだ。
「『いただきま~す……美味絢爛!』」
一口食べた瞬間、僕たちの歓喜の声が空に木霊した。
お肉のしょっぱさと、林檎の甘酸っぱさが相性抜群だ!
ポテトの香ばしさも素晴らしい!
僕と同じように、傍らの二人も笑顔でサンドイッチを頬張っていた。
『石魚のツナもすんごくおいしいレム! 噛めば噛むほど食材の味が滲み出てくるレムね!』
とは、ランドの談。
「晴天鳥の卵サンドもまた美味です! 卵のまろやかな味わいが、カリッとしたラヴァポテトと絶妙にマッチしています!」
とは、ジゼルさんの談。
こんな絶景を見ながらのご飯は最高だ。
……ところが。
「……あれぇ? なんだか、急に霧が出てきましたね」
お弁当を食べ終わったら、気球はすっぽりと白い霧に囲まれてしまった。
晴れているのに、なぜ?
ジゼルさんとランドも不思議そうな顔だ。
「そうですねぇ、雨雲なんてなかったのに……。いえ、この霧は自然のものではありません!」
『……! 二人とも、魔物レムよ!』
突然、霧の向こう側から、巨大なドレイクが現れた!
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