第3話:少年錬金術師、お魚を釣る。そして、お友達を作る
「……朝だ」
翌朝。
窓から差し込む穏やかな日差しで目が覚めた。
むくりと起き上がると、朝陽に照らされた大峡谷が見渡せる。
「ふわぁ~あ」
ぐぐ~と背伸びすると、筋肉が伸びる感じがしてとても気持ちよかった。
こんなにぐっすりと眠れたのはいつぶりかな。
もっと疲れが残っているかと思ったけど、意外にも身体は軽い。
夢も見ずに寝てしまった。
ディアナ様もそう頻繁に夢に現れるわけではないのだろう。
キッチンで蛇口を捻ると、冷たいお水が出てきた。
水道も引かれているのかな……と、室内のパイプを見たら、蒸気を集めて作った水だとわかった。
顔を洗ったり朝の準備を整えて、外に出てみる。
輝く太陽、雲一つない青い空、涼風に揺れる緑の葉、チチチという小鳥の囀り……全てがのびのびとして、これがすでに絶景だった。
「大自然の中で迎える爽やかな朝……本当に異世界転生してよかった」
朝の空気は清々しくて、ゆっくり吸うだけでたちまち全身がリフレッシュされた。
しばらく日光浴して太陽の光をたっぷり浴びてから、林檎の果物(林檎もどき、と呼ぶことにした)を朝ご飯に食べた。
朝食後、地面に寝っ転がって空を見る。
長閑に飛ぶ小鳥を眺めながら、ぼんやりと考えた。
これからどんな風に暮らしていこうかな……。
もちろん、アナログでスチームパンクなのんびりライフを送るのだけど、せっかく異世界転生したのだ。
思う存分、新しい人生を楽しみたい。
人生は長いようで短いということを、僕は実感したから……。
となると、ある程度の計画性は必要だね。
一度、起き上がって思案する。
生きるために大切なのは、"衣食住"。
まずは、身の回りの環境を最低限整えよう。
「衣と住はとりあえず問題ないとして、食はどうしようかな……果物ばかりじゃ健康にも悪いだろうし」
林檎もどき以外にも、お肉やお魚、野菜なども食べたいところ。
異世界だと、お肉は魔物とかになるのかな……。
討伐も難しいだろうし、すぐに入手するのは難しそうだ。
じゃあ、お魚の釣りにチャレンジしてみよう。
【蒸気な本】を《スキルオン》して、イラストページにスチームパンクなデザインの釣り竿を描く。
「必要な素材は<真鍮>が3個、<木材>が1個、<糸>が4個……か」
手前二つはすでに確保しているから、とりあえずは糸探しだ。
運良く見つかればいいな……と思いながら、慎重に森に入る。
キラリと光った物に目を惹かれて樹の上を見ると、朝露に濡れた大きな蜘蛛の巣があった。
……そうか、自然界の糸と言えば蜘蛛の糸。
手が届かない場所にあるけど、絵を描けさえすれば採取できるはず……。
フリーページにスケッチすると、ヒュンッと消えた。
描いたイラストの下には、<シャドウスパイダーの巣:1個(糸:2個)>と表記される。
採取したのは蜘蛛の巣だけど、【蒸気な本】の中では糸としても扱われるんだね。
これは便利だ。
説明書きによると、シャドウスパイダーは日本で言う女郎蜘蛛に当たる一般的な蜘蛛らしい。
へぇ~、糸は丈夫で、漁の網に使ったり絆創膏代わりにもできるんだ~。
よし、蜘蛛の巣を探そう。
深入りしないよう注意して、森を歩き回る。
手をかざしたり、念じるだけで素材を吸収できたら楽かもしれないけど、絵を描くのは楽しいから良い。
何より、アナログ感に溢れていて、僕にとても合っているスキルだなと思った。
三十分ほど森を探して蜘蛛の巣をスケッチすると、糸が10個も集まった。
高台に戻って、小川の傍に行く。
「それでは……《蒸気錬成》!」
【蒸気な本】から光の粒子が生まれ出て、釣り竿のイラストが具現化された。
何度見ても素晴らしい光景だ。
錬成したのは1mくらいの釣り竿。
リールのところは歯車がついていたり、真鍮のくすんだ黄色も相まって、スチームパンクなデザインなり。
〘蒸気の釣り竿〙と名付けよう。
もし大物が釣れたとき、子どもの身体では引っ張れるか心配だったから、リール部分は蒸気でサポートしてくれるような機能をイメージしたけど……。
うまくできたかなと思ったら、イラストの近くに文章が浮かび上がっていた。
「リール部分は蒸気の力で補助的に巻くことができます。歯車を右に回転させると作動します……やった、考えた通りにできたっ!」
【蒸気な本】は、錬成した〘蒸気魔導具〙の使い方とかも教えてくれるんだね。
お魚を釣ったらすぐに調理できるよう、先に枯れ枝や枯れ葉を用意しておく。
いくらか集めてきたけど、火はどうやってつければいいんだろう。
原始的に木の棒を擦るか……と思ったとき、とあるアイデアが思い浮かんだ。
帽子のゴーグルを取って、太陽光が一点に集中するように傾きを調整する。
しばらくすると、ぽっと小さな火がついた。
「やった、成功だ!」
息を吹きかけて火を大きくする。
昔、何かの漫画か動画で見た知識が役に立った。
火がだいぶ大きくなったところで、釣りを開始。
釣り竿のリール部分にある小箱に水を入れ、林檎もどきの欠片を釣り針に刺して、小川にぽちゃんと入れる。
木材でできたウキがぷかぷかと漂う。
何もせず、お魚がかかるのをただ待つだけ……。
「……長閑だなぁ……うわっ!」
突然、釣り糸がぐぐっ!と力強く引かれた。
急いで立ち上がり、釣り竿を引く。
結構強くて、さっそく魔導具を起動する。
リール部分からもくもくと蒸気が出て(……燃えてないよね?)、無事にお魚を釣ることができた。
手を合わせてお祈りしてから、木の枝に刺して火に当てる。
パチパチと火種が爆ぜる、穏やかな音に心が洗われる。
五分ほども待つと、こんがり焼き上がった。
食欲をそそる香ばしい香りに、僕のお腹はたちまち空いてしまう。
「いただき……あっ、食べ物って採取できるのかな……?」
もしそうなら、【蒸気な本】に食糧をストックできるかもしれない。
そんなことを考えてスケッチしてみたけど、サインしても焼き魚は消えなかった。
あれ? と思って林檎もどきもスケッチ。
こっちも吸収されない。
どうして…………そうか、食べ物は採取できないんだ。
でも、フリーページに描いたからか、それぞれどんな食材なのかはわかった。
林檎もどきは、サンアップルと呼ばれる品種の赤林檎。
お魚は石魚といって、前世の岩魚に当たる種類だ。
どちらも食用に適したおいしい食材だって。
これなら安心して食べられる。
では、さっそく……。
「いただきます…………くぅぅ、おいしいっ!」
一口食べた瞬間、お魚の芳醇な風味でいっぱいになった。
自分で釣ったこともあるためか、味付けしなくても本当においしい。
ものの数分で、あっという間に食べ終わってしまった。
「……ごちそうさまでしたぁ~」
お腹が満腹で幸せだ。
少しずつ身体が慣れてきたためか、昨日ほどの疲労感はまだない。
もう一つ、何か錬成できると思う。
何を錬成しようかな……そうだ。
「お話しできるお友達がほしいな」
人間とはもう少し離れて暮らしたいけど、ずっと一人で寂しくないと言ったら嘘になる。
そして、錬金術師といえばゴーレム!
僕も作ってみたいよ!
さっそく、棚に飾っていた小さな猫ロボをモチーフにイラストを描く。
アメリカンショートヘアみたいな感じで。
頭には僕と同じように、帽子とゴーグルを被せたら可愛いんじゃないかな。
イラストが完成し、明示された必要素材は<真鍮>が4個と<石英>が2個、<糸>が1個。
後ろ二つは、ゴーグルのレンズと帽子の布部分だろうね。
石英は地球だととても一般的な鉱物だけど、この世界にもあるかな。
地面を探しながら歩いていると、白っぽい石があった。
スケッチしたら花崗岩で、吸収することで<石英>をゲット。
素材も集まったところで、精神を集中させてスキルを発動させる。
「《蒸気錬成》!」
本から生まれ出た光の粒子が徐々に形を成し……真鍮でできた猫ちゃんが現れた!
ゴーグル付きの帽子もイラスト通り!
目は金色で、眼球の中では小さな歯車が何個かカチカチと動いている。
可愛さに震えていると、猫ゴーレムは首をくいっと傾けて話した。
『君がボクのマスターレムね! ボクを作ってくれてありがとうレム!』
「僕はツバサだよ、よろしくね! こちらこそ、僕のところに来てくれてありがとう!」
猫ゴーレムの前足と握手を交わす。
真鍮だからか、ひんやりしてて気持ちよかった。
『ねえ、ツバサ。ボクに名前をつけてほしいレム』
名前か……。
適当じゃなくて、何か意味のある名前にしてあげたい。
そう考えていたら、地面に転がる真鍮石と花崗岩が目に入った。
素材に使った鉱石たちを見て、良い名前が浮かび上がる。
「じゃあ……大地の鉱石から生まれたから、ランド……っていう名前はどうかな」
『……すっごくいいレム!』
ランドは両足でバンザイして喜んでくれた。
スチームパンクなスローライフを一緒に過ごす、大事なお友達ができた!
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