表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/40

第29話:少年錬金術師、気球を作る

「『……今日も良い天気レム~!』」


 お家の前で深呼吸して、みんなで一緒に大峡谷に向かって叫ぶと、幾重もの木霊となって返ってきた。

 雨や曇りでも素敵な絶景だけど、やっぱり晴れが一番だね。

 空の青い色と木々の緑のコントラストがとても美しいのだ。

 リフォームしてから、あっという間に二週間が過ぎた。

 のんびり暮らしているはずなのに不思議だね。

 あれから、汚部屋は出現していない。

 日々、目を光らせているおかげだろうけど、まだまだ気は抜けないところ。

 相変わらず、〘蒸気の自転車〙でお出かけをする毎日だ。

 東に西に北に南にと動き回っては、大峡谷の広さを実感する。

 雲一つない青い空の清々しさを堪能していると、肩に乗るランドが満足げに呟いた。


『この調子だと、夜まで晴れそうレム。いやぁ、楽しみレムね』

「まだ朝の10時だよ」

「ふふっ、ランドさんは気が早いですね」


 僕たちは毎夜、ドーム型のロフトで天体観測をしている。

 ランドは新しい星座を作るのが好きで、この前ようやく"ツバサ座"ができたと喜んで教えてくれた。

 教わったとおりに夜空に浮かぶ星をたどると、本当に僕そっくりで驚いたっけ。

 他にも”月光龍座”や”晴天鳥座”など、種々の星座が日々生まれていた。

 ランドは両拳を握りしめ、なおも張り切った様子で話す。


『絶対、今週中に"ジゼル座"も見つけるレムよ』

「ありがとうございます。楽しみにしていますね」

「その次は"ランド座"も見つけようね。実は、僕も毎日探しているんだ」

『ボクの星座を!? 嬉しいけど、なんだか恥ずかしいレム……』


 照れるランドを撫でる。

 僕たちみんなの星座があるなんて素敵だ。

 そんな話をしていたら、ジゼルさんが呟くように言った。


「星から見たら、"スターフォール・キャニオン"はどんな景色に見えるんでしょうねぇ……」

『綺麗でどこまでも広がって、それは美しい風景に見えるんだろうレムね。ボクも一度でいいから、上から見てみたいレム』


 二人が話すように、毎夜眺めるたび大峡谷の素晴らしさを改めて実感する。

 同時に、強く思うことがあった。

 空から見たらどんなに美しいのだろう……という気持ちだ。

 申し訳なさそうにジゼルさんが話す。


「私がもっと飛行魔法がうまかったら、お二人を空のお散歩に連れて行けたのですが……」

『いやいや、気にしないでほしいレム』


 ジゼルさん曰く、飛行魔法は使うのも使われるのもかなり難しいそうだ。

 空中でバランスを保つには綿密な訓練が必要で、気をつけないと落下事故の危険性があると聞いた。

 空からの景色をランドに……ジゼルさんに見せたい!

 でも、飛行船だとさすがに大きすぎるしなぁ……などと考えていたら、ぴったりなアイデアを思いついたのだ。

 二人に伝える。


「あの……気球に乗って、ゆったりお散歩しませんか?」

「『……気球!』」


 提案すると、ランドもジゼルさんもぽわぁ~っとした顔になった。

 風の流れるままに、ふんわりのんびり広大な空を漂う……。

 まさしく、スローライフにピッタリな乗り物じゃないか。

 

「それでは……《スキルオン》!」

「『いつもの素敵なアイテム(レム)!』」


【蒸気な本】を開き、【蒸気な羽根ペン】でデザインを描く。

 全体的な形は、一般的な熱気球としよう。

 カラフルよりモノトーンな配色の方が、レトロでスチームパンク感にあふれているよね。

 籠はどれくらいの大きさがいいかな。

 今のところ僕たち三人しか乗らないだろうから、そこそこの大きさにしておこう。

 完全に風任せだとどっかに行っちゃう危険があるので、念のためプロペラもつけておいた。 のんびりも大事だけど、安全性も大事。

 動力源は、籠の中に備え付けた小型の自転車ではどうだろうか。

 さらりさらりと羽根ペンを動かすこと、十五分。

 頭の中で思い描いた通りの気球ができあがった。

 ジゼルさんとランドに確認してもらう。


「こ~んな感じでどうでしょう~。名付けて、〘蒸気の気球〙で~す」

「『……いい(レム)!』」


 熱気球は温めた空気で浮かぶ仕組み。

 スチームパンクな魔導具にふさわしいね。

 必要な素材は<木材>が5個に<布>が40個、<真鍮>10個と<炎魔石>が7個。

 後半二つはバーナー部分の素材だ。

 ふむふむ、お出かけのおかげでどれも十分にゲットしてますよ~。

 地面に【蒸気の本】を置いて、精神を集中させる。


「《蒸気錬成》!」

「『いけいけ錬成! いけ錬成レム!』」


 白い粒子が生まれ出て、気球の形を作っていく。

 風船部分ができて、ロープができて、籠ができて……。

 錬成を繰り返してきたからか、速度もすっかり上がってきた気がする。

 そこそこ大きな〘蒸気魔導具〙の錬成だったけど、十秒程度で完了できた。

 

「『完成、完成、大完成レム!』」


 三人でパンッ! とハイタッチ。

 錬成後に行うこの仕草も、今やすっかり定着した。

 完成したのは、風船部分がアイボリーと濃い茶色のレトロな気球。

 イラストよりずっとおしゃれだ。

 バルーンはまだ空気を入れていないので、地面でぺしゃんこになっているけどね。

 できあがったばかりの〘蒸気の気球〙を見ながら、ジゼルさんが楽しそうに話す。


「せっかくですので、一緒にピクニックもしませんか? お空でお食事するなんて、すごく楽しそうですよ」

「いいですね、ジゼルさん! 大賛成です!」

『ボクもお空でご飯食べてみたいレム! お空ご飯大賛成、レム!』


 満場一致で決まり。

 これ以上ないほどの、最高のピクニックになりそうだね。

 前世でも経験したことないくらい!

 となると、お弁当のメニューが重要だ。

 

「お弁当は何にしようかな~……ジゼルさん、食べたい物ありますか?」

「ツバサさんの作るお料理なら何でも良いです。というより、私もお手伝いします。いつもツバサさんに作ってもらってばかりですからね。たまには私も作らないと……」

「ありがとうございます、すごく助かります」

『ジゼルの料理はボクも初めて見るレムね~』


 みんなでお料理かぁ。

 ご飯担当でないジゼルさんも手伝ってくれるとのこと。

 楽しそうでいいね…………あれ?

 何か大事なことを忘れているような……。

 ……いや、きっと気のせいだろう。

 ふと感じた不穏な気配を打ち払い、僕はジゼルさんの後に続いてキッチンへと向かう。

お忙しい中読んでいただきありがとうございます


少しでも

・面白い!

・楽しい!

・早く続きが読みたい!

と思っていただけたら、ぜひ評価とブックマークをお願いします!


評価は広告下にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にタップしていただけると本当に嬉しいです!

ブックマークもポチッと押すだけで超簡単にできます。


何卒応援よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ