第29話:少年錬金術師、気球を作る
「『……今日も良い天気~!』」
お家の前で深呼吸して、みんなで一緒に大峡谷に向かって叫ぶと、幾重もの木霊となって返ってきた。
雨や曇りでも素敵な絶景だけど、やっぱり晴れが一番だね。
空の青い色と木々の緑のコントラストがとても美しいのだ。
リフォームしてから、あっという間に二週間が過ぎた。
のんびり暮らしているはずなのに不思議だね。
あれから、汚部屋は出現していない。
日々、目を光らせているおかげだろうけど、まだまだ気は抜けないところ。
相変わらず、〘蒸気の自転車〙でお出かけをする毎日だ。
東に西に北に南にと動き回っては、大峡谷の広さを実感する。
雲一つない青い空の清々しさを堪能していると、肩に乗るランドが満足げに呟いた。
『この調子だと、夜まで晴れそうレム。いやぁ、楽しみレムね』
「まだ朝の10時だよ」
「ふふっ、ランドさんは気が早いですね」
僕たちは毎夜、ドーム型のロフトで天体観測をしている。
ランドは新しい星座を作るのが好きで、この前ようやく"ツバサ座"ができたと喜んで教えてくれた。
教わったとおりに夜空に浮かぶ星をたどると、本当に僕そっくりで驚いたっけ。
他にも”月光龍座”や”晴天鳥座”など、種々の星座が日々生まれていた。
ランドは両拳を握りしめ、なおも張り切った様子で話す。
『絶対、今週中に"ジゼル座"も見つけるレムよ』
「ありがとうございます。楽しみにしていますね」
「その次は"ランド座"も見つけようね。実は、僕も毎日探しているんだ」
『ボクの星座を!? 嬉しいけど、なんだか恥ずかしいレム……』
照れるランドを撫でる。
僕たちみんなの星座があるなんて素敵だ。
そんな話をしていたら、ジゼルさんが呟くように言った。
「星から見たら、"スターフォール・キャニオン"はどんな景色に見えるんでしょうねぇ……」
『綺麗でどこまでも広がって、それは美しい風景に見えるんだろうレムね。ボクも一度でいいから、上から見てみたいレム』
二人が話すように、毎夜眺めるたび大峡谷の素晴らしさを改めて実感する。
同時に、強く思うことがあった。
空から見たらどんなに美しいのだろう……という気持ちだ。
申し訳なさそうにジゼルさんが話す。
「私がもっと飛行魔法がうまかったら、お二人を空のお散歩に連れて行けたのですが……」
『いやいや、気にしないでほしいレム』
ジゼルさん曰く、飛行魔法は使うのも使われるのもかなり難しいそうだ。
空中でバランスを保つには綿密な訓練が必要で、気をつけないと落下事故の危険性があると聞いた。
空からの景色をランドに……ジゼルさんに見せたい!
でも、飛行船だとさすがに大きすぎるしなぁ……などと考えていたら、ぴったりなアイデアを思いついたのだ。
二人に伝える。
「あの……気球に乗って、ゆったりお散歩しませんか?」
「『……気球!』」
提案すると、ランドもジゼルさんもぽわぁ~っとした顔になった。
風の流れるままに、ふんわりのんびり広大な空を漂う……。
まさしく、スローライフにピッタリな乗り物じゃないか。
「それでは……《スキルオン》!」
「『いつもの素敵なアイテム(レム)!』」
【蒸気な本】を開き、【蒸気な羽根ペン】でデザインを描く。
全体的な形は、一般的な熱気球としよう。
カラフルよりモノトーンな配色の方が、レトロでスチームパンク感にあふれているよね。
籠はどれくらいの大きさがいいかな。
今のところ僕たち三人しか乗らないだろうから、そこそこの大きさにしておこう。
完全に風任せだとどっかに行っちゃう危険があるので、念のためプロペラもつけておいた。 のんびりも大事だけど、安全性も大事。
動力源は、籠の中に備え付けた小型の自転車ではどうだろうか。
さらりさらりと羽根ペンを動かすこと、十五分。
頭の中で思い描いた通りの気球ができあがった。
ジゼルさんとランドに確認してもらう。
「こ~んな感じでどうでしょう~。名付けて、〘蒸気の気球〙で~す」
「『……いい(レム)!』」
熱気球は温めた空気で浮かぶ仕組み。
スチームパンクな魔導具にふさわしいね。
必要な素材は<木材>が5個に<布>が40個、<真鍮>10個と<炎魔石>が7個。
後半二つはバーナー部分の素材だ。
ふむふむ、お出かけのおかげでどれも十分にゲットしてますよ~。
地面に【蒸気の本】を置いて、精神を集中させる。
「《蒸気錬成》!」
「『いけいけ錬成! いけ錬成!』」
白い粒子が生まれ出て、気球の形を作っていく。
風船部分ができて、ロープができて、籠ができて……。
錬成を繰り返してきたからか、速度もすっかり上がってきた気がする。
そこそこ大きな〘蒸気魔導具〙の錬成だったけど、十秒程度で完了できた。
「『完成、完成、大完成!』」
三人でパンッ! とハイタッチ。
錬成後に行うこの仕草も、今やすっかり定着した。
完成したのは、風船部分がアイボリーと濃い茶色のレトロな気球。
イラストよりずっとおしゃれだ。
バルーンはまだ空気を入れていないので、地面でぺしゃんこになっているけどね。
できあがったばかりの〘蒸気の気球〙を見ながら、ジゼルさんが楽しそうに話す。
「せっかくですので、一緒にピクニックもしませんか? お空でお食事するなんて、すごく楽しそうですよ」
「いいですね、ジゼルさん! 大賛成です!」
『ボクもお空でご飯食べてみたいレム! お空ご飯大賛成、レム!』
満場一致で決まり。
これ以上ないほどの、最高のピクニックになりそうだね。
前世でも経験したことないくらい!
となると、お弁当のメニューが重要だ。
「お弁当は何にしようかな~……ジゼルさん、食べたい物ありますか?」
「ツバサさんの作るお料理なら何でも良いです。というより、私もお手伝いします。いつもツバサさんに作ってもらってばかりですからね。たまには私も作らないと……」
「ありがとうございます、すごく助かります」
『ジゼルの料理はボクも初めて見るレムね~』
みんなでお料理かぁ。
ご飯担当でないジゼルさんも手伝ってくれるとのこと。
楽しそうでいいね…………あれ?
何か大事なことを忘れているような……。
……いや、きっと気のせいだろう。
ふと感じた不穏な気配を打ち払い、僕はジゼルさんの後に続いてキッチンへと向かう。
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