第27話:少年錬金術師、銀髪王女様のお部屋を掃除する
『……っくしゅんレム。なんだか埃っぽくないレムね』
お家を作ってから、数日後の昼。
リビングでくつろいでいると、ランドがくしゃみした。
たしかに、どことなく埃っぽさを感じる。
「やっぱりランドもそう思う? 僕も目がかゆい気がするんだよね」
『大自然なのに不思議レムねぇ』
換気はしっかりできる構造になっているはずなのに……。
今までこんなことはなかったので、どうしたんだろうと思う。
ジゼルさんに聞いてみようとなり、僕たちは階段を昇る。
そういえば、一階より二階の方が埃っぽいんだよなぁ……。
お部屋の前に行き、コツコツとノックする。
「ジゼルさん、ちょっとよろしいですか」
『相談したいことがあるんだレム』
「は、はい、少々お待ちくださいねっ」
扉の向こうからは慌てた様子の声が聞こえた。
これまた思い出したけど、お家をリフォームしてからジゼルさんのお部屋に入るのは始めてだね。
前は同じ部屋で暮らしていたから。
少し待つとほんのわずかだけ扉が開かれ、"なぜか"強ばった表情のジゼルさんが顔を覗かせた。
「ど、どうしましたか、ツバサさんにランドさん」
「あのですね、お家の中が埃っぽいなと思いまして。ジゼルさんは平気ですか?」
『顔がくすぐったいんだレム』
僕とランドが伝えると、ジゼルさんはこれまた"なぜか"虚を突かれた表情になった。
「あ、ああ~、言われてみれば、そんな気がしなくもないというか、言われないと気づかないといいますか。いやはや、お二人とも感性が鋭いことで何よりです」
「……そうですか? 埃っぽいと思ったんですが……」
『ボクたちの気のせいレムかねぇ』
どうやら、気にしすぎだったらしい。
リビングに戻ろうと思ったのだけど、僕の足はピタリと止まった。
扉の隙間から、とんでもない光景が見えてしまったから。
動けない僕の足下で、ランドが不思議そうに見上げる。
『ツバサ、どうしたんだレムか』
僕は踵を返し、後ろに戻る。
何やら、扉の隙間からあわあわとした表情でこちらを覗いているジゼルさんの元へ。
「……ジゼルさん、中を見せてください」
「えっ!? な、なぜですか!? わ、私の部屋など見ても楽しいことはございませんよ! ……そ、そうだ! 今からピクニックにいきませんか!? 今日は天気も良いですし! きっと、見たこともない素材が見つかるはずで……!」
「何でもです。ちょっとどいてくださいね」
「あれあれあれ? あ~れ~」
立ちはだかるジゼルさんを突破してお部屋に入る。
そこに広がっていたのは……。
『こ……これは何だレム!』
……そう。
ランドの悲鳴が示すように、滅茶苦茶な汚部屋であった。
棚は開け放たれ、種々のインテリアにタオルや衣服は床に散らばり、足の踏み場もない。
まだ三日しか経っていないのに何でこうなるの……?
思わず頬が引き攣り眉がピクピクと動いていると、ジゼルさんの弁明するような小さい声が聞こえた。
「ツ、ツバサさん? これはですね、ちょっとした事故なんです。ただ物が落ちているだけです。後でやろう後でやろうと思っていたら、いつの間にか足の踏み場がなくなってしまい……」
「ジゼルさん」
「は、はい」
このような汚部屋……綺麗好きの僕に、とうてい我慢できるはずもない。
「今すぐ掃除を始めますよっ。さっ、準備してくださいっ」
「い、今すぐですか。心の準備が……」
「さあ、早くっ」
「わ、わかりましたっ。た、直ちに魔法でお掃除いたしますっ」
と、ジゼルさんが杖を出したので、僕はそっと押さえた。
「いいえ、ご自身の手でやってください」
「えっ! ど、どうして……。魔法の方が早いし確実だと……」
「自分の手で掃除しないと、精神性が身につかないからです」
「そ、そんな……」
『手厳しいレムね……』
しょんぼりするジゼルさんを掃除用具入れに連れていき、雑巾やバケツ、箒などを渡す。 たくさん錬成しておいてよかったよ、もう。
ランドも手伝ってくれ、三人でお部屋を片付け始める。
物を棚に戻し、服はクローゼットに戻し、床は箒で掃き、窓は雑巾で拭き……もはや、年末の大掃除に匹敵するくらいの規模だ。
しばらく掃除をすると、ジゼルさんが恐る恐る僕に報告に来た。
「お、終わりました、ツバサさん……。これで問題ないと……思います」
「確認しますね」
「か、確認……」
どうやら、一番大きな窓の掃除が終わったらしい。
もちろんのことチェックだ。
窓枠をスッ……と指で撫でると、薄っすらと埃がついた。
「まだ埃が残ってますよっ!」
「え……で、でも、ほんの少しじゃ……」
「ほんの少しどころじゃありませんっ。これは大変に埃が積もっている証拠ですっ。放っておくと、あっという間に増えちゃいますよっ」
「そ、そんな……」
『ツバサの目は本当に厳しいレム……』
いくら少しでも埃は埃。
見逃すわけにはいかないでしょう。
同じ部屋で暮らしているときはこんなことなかったのにな。
せいぜい散らかすたびに、僕が細かく注意するくらいだったと思うけど。
掃除を再開したというのに、二人はこしょこしょと何かを話し会っている。
『実は、ツバサは掃除に厳しいんだレム……。ジゼルもわかっていたでしょレム』
「す、すみません、まさか、これほどとは……」
「なんですかっ。手が止まってますよっ」
「『何でもありませんっ(レムッ)。直ちに手を動かさせていただきますっ(レムッ)』」
二人はあくせくと雑巾を動かし始める。
一度やり始めると、細かいところまで気になってしまうね。
床も壁も窓も棚もピカピカに光り輝くまでやらなきゃ。
塵一つ残さないつもりで集中する。
結局、掃除が終わったのは、二時間後のことだった。
パイプの真鍮も壁や床の木材も、僕の顔が反射するほど磨き上げることができた。
思った以上の成果だね。
なぜか息も絶え絶えのジゼルさんに伝える。
「ちゃんと掃除ができてるか、これから定期的にチェックしますからね」
「そ、そんな……」
『ツバサはジゼルのお母さんみたいレム』
二度と汚部屋は生み出さない。
そう、僕は硬く誓うのであった。
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