第25話:少年錬金術師、必要な素材を入手する
ゴーレムは3mほどもあり、全身は多種多様な鉱石でできている。
先ほど採取したマーカイト石や、ルテシ鉱石はもちろんのこと、まだ未採取の種類もたくさん確認された。
赤、青、緑に黄や黒などいろんな色が混ざり合っており、全体が一つの大きな宝石にも思える様相だ。
とても大きい身体をしているけど、不思議とグールハウンドや月光龍のような殺意や殺気は感じない。
それでも漂う威圧感は強く、杖を構えたジゼルさんは厳しい顔つきで話した。
「あれはゴーレムに見えますが正式には“鉱床体”と言いまして、自然の石に宿る魔力が結合した存在です。自我や命はなく、ただより強い魔力を求めて行動します。……石と石の間にある魔力のオーラが見えますか?」
目を凝らすと、鉱床体の身体を構成する石の間には、薄緑色のセメントみたいなものが見える。
あれがジゼルさんの話す魔力のオーラ……というものか。
「たしかに、ぼんやりと見えますね。いかにも粘着性がありそうな」
『石と石がくっつくなんて、不思議な現象レム』
魔物とは違う……という話の通り、今のところ鉱床体にこちらを襲う気配はない。
ただ単純に魔力の強い鉱石を探しているだけのようだ。
だけど、石にまみれた僕たちの魔力に気づけば話は別だとも、ジゼルさんは話す。
「それにしても、鉱床体ってずいぶんと大きいんですね」
『そこら辺にある岩の塊より大きいレム』
「一般的には、人間大サイズのことが多いです。この洞窟には魔力を豊富に持った鉱石が多いので、全長も大きくなったんでしょう。さて、倒すには結合の元となる核を壊さなければなりません。……あの赤い球体です」
ジゼルさんが指すように、鉱床体の心臓部分には赤透明の丸い球体がある。
直径15cmくらい。
そこだけガラスみたいな質感で柔らかに丸いので、鉱石との違いがよくわかった。
相変わらず、鉱床体はうろうろとゆっくり歩き回るばかり。
でも、少しずつ僕たちに近づいているような気がするね……。
やっぱり、魔力を探知しているのだ。
攻撃される前に倒しましょう、と話がまとまったところで、ジゼルさんが何かに気がついたように叫んだ。
「ツバサさん、大変です! フォルテ鉱石もメアリアイトも海晶石も……全部、鉱床体の身体にくっついています!」
「ええ、ほんとですかっ……たしかに!」
『まさかの出会いレムッ』
ななな、なんと、お家の改築に必要な素材は、全部鉱床ゴーレムの身体にあるらしい!
ランドじゃないけど、運命的な出会いにドキリとしちゃう。
……ところが。
「鉱床体の魔力は石同士を密接に連結します。核を一撃で壊さないと、それぞれの石が粉々に砕けてしまうのです。攻撃すると防御しようともするので、採取を目的とした戦い方には工夫が必要ですね」
「石が粉々に……」
『それじゃスケッチも吸収もできないレム』
思ったより難易度が高かった。
運命の出会いが粉々になっちゃう。
核は小さいし、ジゼルさんが魔法で撃ち抜くことで話は一度まとまった。
でも、どうしても自分で倒したい僕がいた。
「あの……ジゼルさん。鉱床体は僕に倒させてくれませんか? なるべく、自分の力で手に入れたいんです。ずっと僕を守ってくれたお家なんで、自分の手で素材を集めてあげたいと言いますか……」
素直な気持ちを伝えると、ジゼルさんもランドも笑顔で褒めてくれた。
「とても素晴らしい心がけだと思いますよ。ぜひ、サポートさせてください」
『きっと、ボクたちのお家もますます喜ぶはずレム』
よし、頑張る!
そこまで話したところで鉱床体はこちらに気づいたようで、ずしずしと歩いてくる。
天窓から差し込む光の陰影も相まって、なかなかの迫力だ。
緊張する中、十分に距離を引きつけたところでジゼルさんが杖を振った。
「では、私が動きを止めますね……《加重領域》!」
ズンッと鉱床体の周りだけ空気が歪んだ。
密度が重くなったとわかる。
重力が強くなっているためか、まったく動きが止まっている。
これならしっかり狙えるぞ。
足を少し開き、〘蒸気な銃〙を構えた。
「……えいっ!」
核に狙いを定めて引き金を引く。
一撃で撃ち抜くことができ、結合の解けた鉱石がガラガラと地面に落ちた。
大事な素材たちは粉々に…………なってない!
無事うまくいって、三人で勢いよくハイタッチする。
「『いえーい、大成功!』」
念願のフォルテ鉱石にメアリアイト、海晶石……スケッチを重ねて、全部吸収できた!
これでお家がパワーアップするんだぁ……。
期待感を楽しむと、ジゼルさんが周囲を警戒しつつ言った。
「そろそろ洞窟から出ましょうか。この空間に魔物はいないようですが、もっと奥にはいるかもしれません。別の魔物が出てくるとよくないですからね」
「はい、僕もそれがいいと思います。必要な素材は全部集まりましたし」
『お外に出ようレム~』
素材回収は終了となり、元来た道を戻って洞窟の外に出る。
辺りはすっかり夜だ。
殺風景な大地は、昼間より一段と静寂に包まれる。
雨が降っているんじゃないかと少し心配だったけど、星が見える程度には晴れててよかった。
東側の空には黒っぽい雲が見えるから、お家の周りは雨かもしれないね。
みんなで〘蒸気の自転車〙を押して高台に移動する。
見晴らしも景色もよくて、なかなかに良い場所だ。
傍らの二人に呼びかける。
「今日はもう遅いですし、ここで一泊しましょうか」
『「はーい」』
ジゼルさんの収納魔法でキャンプセットを出してもらう。
テントの設営も二度目になるとスムーズにできたね。
焚き火をつけて、お家から持ってきた食糧を用意。
キャロル様に貰った種々の調味料のおかげで、今や携帯食も大変豪華になった。
僕たちはコップを持って(中身はスターライムのフルーツジュース。遠征の間、ジゼルさんはお酒は飲まないとのこと)、カチンっと合わせる。
「『かんぱーい……(レム)!』」
三人で楽しく食事をしているうちに、夜は静かに更けていく。
素材を頑張って手に入れたからか、いつもの深い藍色の星空が今日は一際美しく見えた。
お忙しい中読んでいただきありがとうございます
少しでも
・面白い!
・楽しい!
・早く続きが読みたい!
と思っていただけたら、ぜひ評価とブックマークをお願いします!
評価は広告下にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にタップしていただけると本当に嬉しいです!
ブックマークもポチッと押すだけで超簡単にできます。
何卒応援よろしくお願いします!




