第21話:少年錬金術師、お家に帰る
『……ツバサちゃん、本当にありがとうね。会えて嬉しかったよ』
「こちらこそ歓迎していただきありがとうございました。僕もお会いできてよかったです」
翌日の朝。
"兎獣人"の国を発つ時間がやってきた。
今は国の入り口で、キャロル様たちとお別れの挨拶を交わしている。
当初は敵対的だった住民とも、もうすっかり打ち解けた。
王様と王妃様も僕たちと握手しながら、優しく話してくれる。
『お主らのおかげで、人間にも善良な人物がいることがわかった。ありがとう、小さき錬金術師に淑女な賢者、そして猫なる守護像よ』
『あなたたちに出会えてよかったわ。私たちも人間に対する考えを改めないといけないわね。全員が全員、悪い人ばかりではないと……』
そう話す二人の表情はとても穏やかだ。
キャロル様が合図をすると、マルクさんや"兎獣人"の皆さんがたくさんの樽を運んできた。
『わたしたちからのお礼の品よ。ぜひ受け取って』
蓋を開けられると真っ白の塩や砂糖、胡椒の他、シナモンやオリーブオイルなど、多種多様な調味料が姿を現した。
これはすごい!
中には……なんと、魚醬の樽まであったよ!
念願の調味料がこんなにたくさんあるなんて~!
おまけに、フルーツジュースやお酒までいただいてしまった。
嬉しくて、大きな声でお礼を言ってしまう。
「ありがとうございます! 大事に使わせていただきます!」
『すごいいっぱいだレム』
「これだけの量は帝国の食料庫にも匹敵しますね」
たくさんの調味料やジュースを見て、ジゼルさんもランドも大喜び。
特にジゼルさんは、お酒については目を光り輝かせていた。
日々の食生活がさらに豊かになると思うと嬉しい限りだね。
お土産としていただいた品は、全てジゼルさんが空間魔法で収納してくれた(魔法便利!)。
樽が全部しまわれると、キャロル様は満足げな様子で話す。
『また遊びに来てね。いつでも歓迎するのよ。いつか、わたしたちもツバサちゃんのお家に行ってみたいなぁ』
「ええ、もちろんいらっしゃってください。でも、改装した後の方がいいかもしれません。まだ小さくて狭いので……」
『ツバサちゃんのお家は小っちゃいの? 可愛いねぇ』
「実は、今リフォーム用の素材を集めておりまして……」
月光龍の鱗は入手できたけど、その他の鉱石はまだで……という話を伝えると、キャロル様は顎に手を当てて思い出すように教えてくれた。
『……そういえば、西側のくぼみ盆地で大きな洞窟に入ったことがあるけど、石がたくさん落ちてたよ』
「! 詳しく教えていただけますか?」
マルクさんが手製の地図を持ってきてくれて、詳細な情報を教えてもらう。
くぼみ団地とは西側にある大規模な地溝のことで、"兎獣人"が一年ほど前に行ったときは大量の鉱石であふれていたとのこと。
そこに行けば、フォルテ鉱石の他、種々の必要素材が手に入るかもしれない。
"兎獣人"の国とはこれからも定期的に交流することが決まり、忘れる前にと一枚の紙を差し出した。
「……キャロル様、これをどうぞ」
『え、これって……?』
「キャロル様の似顔絵です」
僕が渡した紙には、キャロル様の顔が描かれている。
昨晩、宴のお礼にと【蒸気の本】をちぎって描いたのだ。
キャロル様はふるふると紙を持っていたかと思うと、満面の笑みを向けてくれた。
『ありがとう、ツバサちゃん……すごい嬉しい……。大切に……大切にするからね』
気に入ってくれるか心配だったけど、ホッと一安心できた。
名残惜しいものの、そろそろお別れの時間だ。
僕たちは〘蒸気の自転車〙を押しながら森へと向かう。
「『本当にありがとうございました(レム)ー!』」
『『またいつの日かー!』』
キャロル様や王様、王妃様、マルクさん、"兎獣人"の皆さんは、姿が見えなくなるまでずっと手を振ってくれていた。
森の中に戻ったところで〘蒸気の自転車〙に乗り、真っ直ぐ走る。
十分も走ると草原に出て、どこまでも続く青い空や吹き抜ける爽やかな風が、僕たちを出迎えた。
深呼吸すると、身体の隅々まで気持ちいい空気が行き渡る。
お家まで頑張って走ろう……というところで、ふと傍らのジゼルさんが僕に言った。
「ツバサさん、掛け声をお願いできませんか?」
「えっ、掛け声ですか?」
「はい。なんだか切りが良いので」
『それは良い案レムね。ボクもツバサの掛け声聞きたいレム』
ふむ、掛け声か……。
皆を率いるような性格ではないけど、そういうことならぜひやらせてもらおう。
こほんっ、と一つ咳払い。
「それでは……お家に帰りましょー!」
「『おおおー!』」
ペダルを漕ぎ、僕たちは向かう。
心安まる我が家に向かって……。
□□□
お家に帰ってきたのは、もうすっかり夕暮れになってからだった。
水が切れたためか、〘試作型:ツバサのお家〙から蒸気は出ていない。
目立たないから、逆に魔物に見つからなくてよかったかな。
サンアップルの畑も出かける前にたっぷりお水を上げたおかげで、元気そのものだ。
〘蒸気の自転車〙を置いていると、ランドが僕に言った。
『ツバサ、ずっと漕いでくれてありがとレム。頭に乗っかっているだけでごめんレムね』
「いいんだよ。ランドこそ、魔物がいないか警戒してくれてありがとう」
「周りに気を配るのは大変でしたでしょう」
ランドは月光龍みたいな魔物との会敵を防ぐため、空や地平線の彼方など終始警戒してくれていた。
自転車を見ると、タイヤやボディは飛び跳ねた泥などでとても汚れている。
細かい傷もついているし、掃除やメンテナンスが大変そうだ。
でも……と僕たちは言葉を止める。
「『……それがいい(レム)!』」
手間暇かかるのがいいのだ。
明日、ゆっくりと掃除してあげよう。
時間を気にする必要はないのだから。
お家のドアを開けると、懐かしの光景が目に飛び込んできた。
アンティーク調でスチームパンクなデザインの室内。
見ているだけで気持ちが安らぎ、自然と呟きが出る。
「やっぱり、我が家が一番落ち着くなぁ……」
「ツバサさんの仰るとおりです。ホッとひと息つきますね」
『まったくレムね。ここにいるだけで長旅の疲れが休まるレム』
水を補給したり片付けもそこそこに、キャロル様たちから貰った調味料を駆使して料理を作った。
食事の用意ができたところで、僕とランドはフルーツジュースを、ジゼルさんはお酒を手に持つ。
乾杯だ!
「『せーのっ……ただいま、我が家!』」
我が家でののんびり生活を堪能しているうちに、夜が穏やかに更けていった。
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