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第20話:少年錬金術師、兎獣人たちに歓待される

『……はい、三人とも着いたよ。ここがわたしたち、"兎獣人"の国。といっても、それほど大きくはないけどね』

「『うわぁ……』」


 その後、十分ほど森を進み、僕たちは大きな集落地に着いた。

 空は木々の葉が深く覆い隠しており、月光龍みたいな凶暴な魔物から身を隠す絶好の場所なのだろうと想像つく。。

 国は大きな村と街の中間くらいの規模感で、何人もの"兎獣人"が見える。

 森との境界には武装した衛兵がいて、僕たちを見るとギョッとしたものの、キャロル様が一言二言話すと丁寧に通してくれた。

 マルクさんの足の怪我はすでに治ってしまったそうで、今ではすっかり普通に歩いていた。 不死鳥花って、想像以上のものすごい治癒能力だったんだね。

 帰り道、少し採って帰ろうかな。

 先導するキャロル様を見ると、"兎獣人"たちはささっと跪いて首を垂れた。

 それでも、こちらを向く視線はどこか厳しいものがあるので、人間への風当たりの強さを感じる。

 そんな僕たちの心の機敏を感じ取ったのか、キャロル様が切なげな表情で振り向いて話す。 

『ごめんね……今からずっと昔、わたしたちは人間さんに迫害?されていたらしくて、"兎獣人"の中では、人間さんへの印象があまりよくないの。わたしはツバサちゃんたちみたいな、良い人間さんもいるとは思っているんだけど……』


 歩きながら、キャロル様は"兎獣人"の現状について話してくれた。

 昔はアルカディア帝国の隣にある小さな国に住んでいたけど、人間との間で領土問題が発生。

 迫害され、今はこの森の奥地で細々と暮らしているとのこと。

 自分たちが直接の原因ではないけど、人間の迫害と聞いてしょんぼりしてしまった。

 みんなが仲良く暮らせればいいのにな、と思っていると、キャロル様は笑顔を向けてくれた。


『まずは、父様と母様にみんなを紹介するからね。人間さんが嫌いだけど、わたしたちの恩人と聞いたら歓迎してくれるはずだから』


 その話を聞いて、ドキッとしてしまった。

 姫様のご両親とはつまり……。


「お、王様と王妃様、ということですね」

『き、緊張するレム』

 

 僕とランドはドキドキとしているのに、ジゼルさんは落ち着いている。

 さすがは人間側の王女様だ。

 緊張しながら歩くこと、およそ五分。

 入り口から一番遠いところにある、小さくも威厳のある宮殿に案内された。

 金や銀などの煌びやかな装飾はないものの、木組みの模様が大変に美しい。

 木造建築なのが拠点のお家と似ていて、中を歩きながらどこか親近感が湧くのを感じる。

 一番奥まで通されると、一段と豪華なお部屋に通された。

 説明されなくとも、ここが人間の宮殿に当たる"王の間"なのだとわかる。

 壁際には立派な玉座があって、そこには王冠を被った男女の"兎獣人"が座っていた。

 王妃様と王妃様だ……!

 跪いて挨拶する前に、王様と王妃様は途端に顔つきが厳しくなった。

 玉座から立ち上がりそうな勢いで捲し立てる。


『なぜ人間を連れてきた!?』

『私たちの平穏を脅かすつもりですか!?』


 やっぱり、人間のことがあまり好きじゃないんだ!

 震えるランドをただ抱き締めることしかできない。

 お二人の言葉を聞くと、キャロル様が僕たちを庇うように急いで前に出てくれた。


『父様、母様、お願い。まずはお話を聞いて。ツバサちゃんたちはね、月光龍に襲われていたわたしたちを助けてくれたんだよ』

『『げ、月光龍!?』』


 キャロル様は森での出来事を詳細に説明してくれる。

 月光龍を倒し、マルクさんの傷を癒やすため不死鳥花を渡して……という話を聞くと、王様と王妃様の表情も徐々に和らいでいった。

 椅子に座り直すと、二人とも安心した様子で話し始める。


『……これは失敬した、ツバサ殿、ジゼル殿、そしてランド殿。よもや、お主らが娘の命を救ってくれたとは思わなかったのだ』

『……声を荒げてごめんなさいね、みなさん。どうしても、人間の方達を見ると怖くなってしまうの……』


 王様たちの力なく話す様子からも、人間と"兎獣人"の深い溝が感じられた。

 でも、すぐにキャロル様みたいな優しい笑顔になる。


『改めて礼を言わせてほしい。娘を……大事な民を救って誠にありがとう』

『大したおもてなしはできないけど、どうかゆっくり過ごしていって頂戴』


 その言葉を合図に、瞬く間に宴が始まった。

 キャロル様や王様たちが話してくれたおかげで、国の"兎獣人"も好意的に接してくれた。 大食堂に通され、次から次へと豪勢な食事が運ばれてくる。

 引き締まった赤身がおいしい牛魔物ムーンビーフのローストや、とても珍しいという話のレインボーマスのコンフィ、柔らかい肉質が素晴らしい鹿魔物クリスディアのステーキ、ベリーがいっぱいのケーキなど、おいしそうな料理ばかり。

 僕たち三人は食器を取り、一緒に食べる。


「『いただきま~す……これはもう美味絢爛レム!』」


 一口食べた瞬間、懐かしの味が広がった。

 こ、これは…………久し振りの塩味だ!

 お肉の塩味だけじゃなくて、ケーキやクッキーは砂糖の甘さがしっかりする。

 まさかの味付けで、思わずキャロルさんに聞いてしまった。

 

「ここでは塩や砂糖などが入手できるんですかっ」

『わたしたちは【調味料生成】とか、【醸造】みたいな料理関係のスキルを持つことが多いの。だから、食文化が発展しているんだよ』

「『へぇぇ~』」


 ランドやジゼルさんと一緒に感嘆としてしまう。

 料理スキルなんて便利極まりない。

 しばらく食事を堪能していると、王様が大きな樽を持ってこさせた。

 とくとくと木のコップに注がれるのは、大人の赤い飲み物。

 王様はジゼルさんに勧める。

 

『どうぞ、ジゼル殿。我らの国で醸造したワインですぞ』

「あら、お酒まであるのですか……。いやはや、いただきましょう」


 受け取ったジゼルさんは嬉しそうに飲む。

 この国では十八歳から飲酒可能だそうだ。

 というわけで宴はより楽しくなるのだけど…………意外にもジゼルさんは酒乱だった。

 

「どこの世界に! 深夜の3時に! 仕事を! やらせる! 女王がいるの! それが、我らがアルカディア帝国!」


 お酒を浴びるように飲んでは、帝国時代の愚痴を叫びまくる。

 いつもの清楚で穏やかで頼りがいのあるジゼルさんはどこかに行ってしまった。

"兎獣人"の皆さんも何となく帝国事情がわかったらしく、そっとお酒を運んでいた。

 キャロル様は幼いのにずいぶんと落ち着いていて、僕とランドに色々と特産品を渡してくれた。


『ツバサちゃん、この果物もおいしいよ。スターライムって言って、すんごい爽やかなの』

「ありがとうございます、キャロル様。……うわぁ、なんて爽やかなんだ。ほら、ランドも食べてごらん」

『甘酸っぱくて瑞々しくて、ジュースみたいレム』


 おいしいご飯を堪能しているうちに、夜は静かに更けていく。

 森の中は光る虫が優雅に宙を舞っていて、星空そのものみたいに美しかった。

お忙しい中読んでいただきありがとうございます


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