第18話:少年錬金術師、悲鳴を聞く
「……ツバサさん、ペグをお願いします」
『ボクも一本取ったレム』
「は~い」
ジゼルさんとランドから、ペグを受け取る。
雄大な星空を堪能した翌朝。
朝ご飯を食べ終わった僕たちは、テントの撤収を進めていた。
【蒸気な本】に浮き出た説明書きを参考に、ロープを緩めペグを外し……、大きなテントでもみんなで協力すれば簡単に回収できるね。
火種にはしっかり水をかけて(ジゼルさんの水魔法)、焚き火もきちんと片付けた。
大峡谷の自然を守るためにも後始末は重要だ。
テントのシートをくるくると丸めていると、ジゼルさんが僕に言った。
「重そうですから私が運びましょうか?」
「いえ、大丈夫です。僕が持って行きます」
よいしょっと背負う。
自分で錬成したアイテムだから自分で運びたい、と思っていたのだけど、ずしっ……と身体に負荷がかかるのを感じた。
……結構重いね。
見た目以上に布は重く、ペグやロープも重さを手助けする。
〘蒸気の銃〙も担いでいるから、このまま自転車を走らすのはちょっと大変かも……。
などと考えていたら、ジゼルさんが優しく言ってくれた。
「やっぱり、私が運びましょう。収納魔法を使えば簡単に運べますから」
「すみません、ありがとうございます」
「いえいえ、気にしないでください。……《収納保管》」
ジゼルさんが杖を振ると空中に黒っぽい穴が出現し、〘蒸気のキャンプセット〙はすいすいとしまわれた。
まさしく、ファンタジーど真ん中な光景。
いやはや、魔法って便利だなぁ。
準備は完了したので、後は帰宅するだけだね。
吹き抜ける青い空を見ていると、拳を突き上げたくなった。
「それでは……お家に帰りましょー!」
「『おおおー!』」
ランドを頭に乗せ、ジゼルさんと一緒に自転車を漕ぎ出す。
せっかく遠くまで来たので、元来た道を真っ直ぐ進むのではなく、少し遠回りしてみることになっていた。
東側には深い森が広がっており、そのすぐ傍をサイクリングする。
この辺りの木々はどれも30mくらいの高さがあって、覗き見える鬱蒼とした森の中は薄暗い。
何かにジッと見られているような視線を感じ、ちょっと怖くなってしまったのでジゼルさんの近くに移動する。
「"スターフォール・キャニオン"にはこんなところもあるんですね。なんだか怖いです」
「人の手が入っていないためか、際限なく成長した森なんでしょうね。もう戻りましょうか」
そう二人で話して、森から離れようとしたときだった。
『……ツバサ、ジゼル。ちょっと止まってほしいレム』
「ん? 了解」
「どうしましたか、ランドさん」
走っていると、頭の上からランドの硬い声が聞こえて自転車を止めた。
ランドは耳をピクピクと動かし、真剣な表情で森を数秒見ると、僕の頭を叩いて叫ぶ。
『森の中から何か甲高い声が……いや、悲鳴が聞こえるレムッ』
「「悲鳴!?」」
急いで耳を澄ますけど何も聞こえず、ジゼルさんもまた首を横に振っていた。
『魔物の咆哮も聞こえるから、襲われているかもしれないレムッ』
「それは大変だ! ランド、案内してくれる!?」
「私たちには聞こえないのです!」
『こっちレム!』
僕たちは自転車の向きを変え、大急ぎで森に入る。
上空は無数の葉に覆われ日が差し込まないためか、ずいぶんとひんやりとしていた。
地面もぬかるんでおり、おそらく数日前に降った雨の影響がまだ残っているんだろう。
最初は問題なく進めたものの、20mも走ると徐々にタイヤがとられてきた。
ドロドロの地面は沼みたいになっている。
このままじゃ進みが悪すぎる。
今こそ、〘蒸気の自転車〙の本領を発揮するときだ!
「ジエルさん、ハンドルの根元にある歯車を右に回してください! 蒸気の力がサポートしてくれるはずです!」
「! わかりました!」
歯車をカチリと回すと、トップチューブ下にあるタンクが稼働し、もくもくと白い蒸気があふれる。
一気に車輪が軽くなって、泥のぬかるみでも簡単に突破できた。
小高い丘を駆け下りているときと、同じくらいのスピードで走る。
木々からは鋭い枝葉が伸びているけど、先導するジゼルさんが斬撃魔法で道を切り開いてくれた。
森の中を走ると数分も経たぬうちに、風に乗って何かが薄らと聞こえてきた。
微かな甲高い悲鳴……たぶん、女性の悲鳴だ。
さらには、それをかき消すような太く重い雄叫びも。
「ジゼルさん、悲鳴です!」
「ええ、私にも聞こえました!」
『このすぐ先だレム!』
自転車を一段と加速させると、不意に木々が途切れた。
そこだけぽっかりと開いた、小さな広場みたいな空間が現れる。
そして、その中央では……。
『グオオオオオッ!』
『『……姫様、退避を!』』
黒い鱗を持った龍型の魔物に、何人もの兎人間が襲われていた。
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