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第14話:少年錬金術師、自転車を作る

 家の横に広がるサンアップルの畑。

 緑の葉っぱが涼風に揺れ、軽やかで爽やかな音を立てる。

 今では種から芽吹いた苗がぐんぐん育ち、たくさんの実が収穫できるようになった。

 水やりが終わったところで、ランドとジゼルさんに前から思っていたことを話す。


「そろそろ、大峡谷の全体像を掴みたいなと思ってまして。散歩と言いますか……探索に出かけませんか?」

「あら、いいですね。こんな大自然の中を歩くのは絶対楽しいですよ」

『ボク、お散歩大好きレム!』


 提案してみると、二人とも嬉しそうに賛成してくれた。

 ジゼルさんと出会って、もう二週間ほどが経った。

 のんびりしたスローライフを送っているはずなのに、三人でいるとあっという間に時間が過ぎてしまう。

 楽しい時間が早く進むのは異世界も同じだね。

 高台近くの森では、晴天鳥以外にも食用の小さな動物や魔物が住んでいることもわかり、サンアップルの安定した供給も含め、"衣食住"の基盤がだいぶ安定してきた。

 だから、これからは生活の幅を拡充しよう。

 まずは取り組みたいのは、〘試作型:ツバサのお家〙の改良かなぁ。

 とっても住みやすくて良い家だけど、三人で暮らすには少し手狭だと感じるようになってきた。

 自分のためにもランドのためにも、そしてジゼルさんのためにも、周囲の環境は常に良くなるよう努力を重ねたい。

《スキルオン》して、【蒸気な本】を見返す。

 この世界に転生したとき、初めて描いた〘ツバサのお家〙……。

 いずれは完成させたいものだね、と思っていたら、ジゼルさんが僕に話しかけた。


「そういえば、ツバサさんの【蒸気な本】のストックは大丈夫なのですか? だいぶ素材を集めていらっしゃると思いますが……」

「ええ、問題ありません。不思議なことに、いくら素材を吸収したり〘蒸気魔導具〙をデザインしても、ページ数が減っていないんです」

「へぇぇ~、それはまた便利なもので」

『魔法みたいレム』


 答えると、ジゼルさんとランドは驚いていた。

【蒸気な本】は紙の本。

 だから、書き尽くしてしまったらもう素材を集めたり、種々のアイテムを錬成できないんじゃないかと、僕も少し不安があった。

 ところが、いくら書いてもまた新しい白紙のページが生まれるのだ。

 それなのに、本としてのページ数は変わらない(実際に数えたから間違いない。大変だったけど……)。

 上限がないのなら、安心して素材や〘蒸気魔導具〙をスケッチできるからありがたいね。

 ふつふつとやる気が漲る中、一つ気になることが思い浮かんだ。


「"スターフォール・キャニオン"って、開発が進んでいるんでしょうか……?」


 ジゼルさんと一緒に過ごすうち、ここアルカディア帝国は前世の先進国に匹敵するほどの国力を持っていることがわかった。

 前世でもアマゾンの開発が問題にされていたし、もしやと思ったのだ。

 せっかくの大自然が都会みたいになっちゃったらヤダよ~。

 一抹の不安にドキドキする僕に、ジゼルさんは相も変わらず落ち着いた様子で話す。


「開発は進んでいませんよ。大自然で有名ですが"魔波"が届かないこともあり、未だ本格的な調査すら行われていません。私が政治に関わるようになってからも、帝国の調査隊を派遣した話もないですね。ですから、未知のお貴重な生き物や植物とも出会えるかもしれません」


 とのことだ。

 よかった~。

 まさしく、前人未踏の領域というわけだね。

 そんな場所を探検できるなんて、ロマンに溢れてる~。

 とはいえ、さすがに歩いて回るのは大変そうだ。

 何か乗り物が欲しいなぁ~、と考えていたら、バイセコウ……つまり、自転車がいいんじゃない? と考えついた。


「せっかくなので、自転車……要するに足で漕ぐ乗り物を作ろうかと思いますが、どうですか? ……あっ、ジゼルさんは転送魔法が使えるんでしたっけ?」

「使えますが、自転車とやらで行きましょう! 自分の足で回る方が楽しいに決まっています!」

『ボクもどんな乗り物か楽しみレムよ!』


【蒸気な羽根ペン】でさらさらとデザインを描く。

 実は、試したい機能があるのだ。

 ふむふむ、<真鍮>が7個、<鉄>が5個ね……サドルや車輪のゴムは、<晴天鳥の皮>が使えるみたい!

 コツコツとスケッチしては集めておいてよかった。

 いつものように《蒸気錬成》して、イラスト通りの魔導具が姿を現した。


「じゃ~ん、できました! 名付けて〘蒸気の自転車〙で~す!」

「『おしゃれ~!』」


 完成したのは、ファットバイクみたいなタイヤが太い自転車!

 トップチューブの下にはタンクが備え付けられていて、そこに溜めた水の蒸気でアシストしてくれる。

 要するに、電動自転車の蒸気版だ。

 サドルやタイヤの泥よけなどは落ち着いた茶色であり、シャフトの黒っぽい配色も相まって非常にスチームパンク感が漂うことこの上なし。

 僕のは子供用で、ジゼルさんのは大人用。 

 デザインは同じの大きさ違いなので、なんだか姉弟みたいで面白い。

 ジゼルさんは自分の〘蒸気の自転車〙を撫でながら嬉しそうに話す。


「帝国にも似たような乗り物はありますが、乗ったら自動で走ってしまうんですよ。でも、これは自分で漕がなきゃ走れない…………それがいい!」


 自転車は初めてとのことなので、少し練習する。

 ジゼルさんのは補助輪付きにしておくべきだったかな……と思いきや、数分ですいすいと走れるようになってしまった。

 すごい運動神経だ。

 おまけに、ギャリギャリギャリッ! と激しくウィリーしまくっては楽しそうに叫ぶ。


「何ですか、この乗り物はああああ! 気分爽快すぎて、病みつきになりそうですうううう!」


 ちょっとテンション高すぎるのが心配になるけど、練習を重ねたらそのままBMXの大会にも出られそうだね。

 自転車の練習は終わったので、食糧などを準備。

 燻製にした石魚や晴天鳥のお肉、摘み取ったサンアップル、そして水筒に入れたお水。

 念のため、〘蒸気の銃〙も持っていこう。

 日帰りの予定だし、いざとなったらジゼルさんの転送魔法で拠点に戻ろうとなったので、これくらいで大丈夫。

 鞄に詰めたら、準備は完了。

 みんなで話した結果、東側に行ってみることになった。


「それじゃあ……行きましょうか!」

「『レッツ・ゴー!』」


 ペダルを漕ぎ、勢いよく高台を駆け下りる。

 僕たち三人は、大峡谷のサイクリングへと出かけるのだ。

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