第13話:少年錬金術師、服を作る
ジゼルさんは何の躊躇もなくボタンを外し、服を脱いでいく。
え、えええ――。
全容が明らかになる前に、僕は慌てて目を閉じた。
八歳の身体でも見ちゃダメなヤツっ。
同時に、ランドの顔に急いで手を当てる。
『うわっ、前が見えないレムッ』
「ご、ごめん、ちょっと目を閉じててっ」
教育上、よろしくない気がするから……!
硬く目を閉じる中、服が床に落ちる音は止まらない。
僕の額には脂汗が滲んでしまう。
こ、これは予想外の展開だ。
もし素材がたくさん必要だったら森に探しに行けばいいや~、なんて軽く考えていた自分が愚かしい。
この後は……いったい、どうすればいいのだろう。
ぐるぐると思考を巡らせていたら、ジゼルさんの至極落ち着いた声が耳に届いた。
「……ツバサさん、どうぞ目を開けてください」
「い、いや、しかし……」
「大丈夫ですから」
そう言われたので、硬く閉じていた目の力を少しずつ緩める。
なるべく足付近に視線を向けよう。
いきなり剥き出しの足首が見えてドキッとするものの、視界の隅に黒いレギンスが見えた。 こ、これは、もしかして……!?
さらに視線をゆっくりと上げると、黒の半袖Tシャツに黒レギンスの格好をしたジゼルさんがいた。
マラソンしたり、ジムで運動しててもおかしくないような健康的な服装。
ホッとひと息つけて、ランドを抑えていた手もどけることができた。
『いやぁ、びっくりしたレム』
「ご、ごめんよ、ランド。怪我はない?」
『問題ないレム』
急いで押さえたからパーツを壊してしまったかと不安になったけど、ランドの状態に異常はなかった。
改めてホッとひと息。
さっそくジゼルさんの着ていた服をスケッチすると、ピクセル模様の明滅が無くなっていることに気がついた。
「あの、ジゼルさん……お洋服の様子がおかしいです」
『ピカピカがないレムよ?』
故障しちゃったのかな。
そう思う僕に、ジゼルさんは落ち着いた口調で話す。
「大丈夫です。この服には、着用者の魔力を消費して"魔波"の受信を強化する機能があるんです」
「へぇ~、そうだったんですか」
「だから、脱ぐと光の点滅もなくなります」
素材を無駄なく吸収するためにも、表面と裏面は別々に描いた方が良さそうだね。
今までスチームパンクなイラストばかり描いてきたから、たまにはサイバーパンクで近未来の服を描くのはなんだか楽しい。
サインをして【蒸気な本】に吸収。
素材は<ジゼル・アルカディアの服>、という名称だった。
自然と<糸>などに換算されるのだけど……。
「<糸>が50個に、<露払い花の花びら>は47枚!? 一気に必要量集まりました!」
『バンザイレム!』
「よかったです。足りなかったらどうしようと思っていました」
王女様のお召し物だから、やっぱりたくさんの素材を使っていたのだろう。
無事、素材も集まったのでいよいよ錬成だ。
「《蒸気錬成》!」
白い粒子の中に現れたのは、イラストと同じ服。
着替えて姿見を見ると、ジゼルさんはたちまち笑顔になった。
「これで、ようやくツバサさんと一緒になれた気がします! サイズもピッタリですね!」
「お似合いですよ」
『茶色の色合いに銀色の髪が映えるニャ』
くるくると回って喜ぶジゼルさんを見ていると、僕も心が明るくなった。
自分の作ったアイテムで喜んでくれるのが一番嬉しい。
しばらく喜んだ後、ジゼルさんは切ない笑顔でぽつりと呟いた。
「いずれ……姉にもこんな服を着させてあげたいですね……」
そう話す彼女の瞳からは、お姉さんを思う気持ちが伝わってくる。
心の底では大事に思っているのだとよくわかった。
「いつか、そんな日が絶対来るはずです」
『お姉さんものんびりできると良いレムね』
ランドと一緒に伝えると、ジゼルさんは微笑み返してくれた。
明日、僕も長ズボンを錬成しようかな……と思って眠りに就いた。
けど、夢の中でディアナ様に『それだけは止めてください、それだけは止めてください』と言われてうなされたので諦めた。
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