悪魔と画家
あるところに売れない画家がいた。
なにを描いても、どれだけ描いても、どんなに売り込んでも、全く売れなかった。
彼のアトリエには日に日に彼が描いた絵が積み重なっていき、天井にも届くほどになっていた。
ある冬の日、画家がいつものように絵を描いていると、ふと誰かの気配を感じて振り向いた。そこには男とも女ともつかない中性的な顔つきの人物が一人立っていた。
「はじめまして」
その人物はそう挨拶をすると丁寧に頭を下げた。そしてにっこりと笑うと、画家に向けてこう声をかける。
「なにか望みはございませんか?」
その言葉と、そして足の踏み場もないほどに散らかったこのアトリエを音もなく移動して自分の背後へと来たという事実から、画家はその人物が悪魔であると考えた。
するとその人物はその通りですと頷き、服の背後から長く艶やかな尻尾を見せた。
「あまりにも悪魔然とした姿で現れると、皆さま驚かれてしまいますので」
悪魔はそういうと、もう一度何か望みはございませんかと尋ねてくる。画家はすぐさまこう答えた。
「私の絵を売れるようにしてくれ。もし売れるなら、死んだときに私の魂をあげても良い」
「ええ、ええ。そうこなくては。ではあなたの絵が売れるようにしましょう。その代わり、あなたが死んだときは、分かっていますね」
悪魔が念を押すと、画家はそれで良いと頷いた。すると悪魔は口の中でなにか呪文を唱えると、ふっと煙のように姿を消した。
翌日から画家の絵は飛ぶように売れた。
だが画家はその状況に絶望し、すぐに自ら命を絶ってしまった。
画家の魂を地獄へと連れて行きながら、悪魔はくすくすと笑う。
「お望み通り絵は売れたでしょう、薪が不足してしまったのでその代用として、ですけどね」
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