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第5話 集合

 ドアを開けると、楽しそうな声が聞こえてきた。俺と内海さんは互いに顔を見合わせ、深呼吸してリビングのドアを押し開けた。




「た、ただいま〜。遅くなりました……」




 俺の声が響くと、リビングにいた全員の視線が一斉にこちらに向けられた。




「悠くん、遅かったじゃない。お母さん心配したのよ」




「本当に道に迷っていたとしたら、私は心配だ」




「ゆーき、遅いぞ。ご飯が冷めてしまう」




 三者三様の言葉を受け止めるしかなかった。




「ずみまぜん……」




 改めて自分の不甲斐なさを実感し、やっぱりシェアハウスで過ごすなんて俺には出来ない気がしてしまう。




「そ、そんなことないです……悠紀君は私をここまで案内してくれました!」




 声の出どころが分からなかったのか、目の前の三人は首をかしげる。ミアは何かに気付いたのか目を輝かせた。




「ゆーき、腹話術ができるのね!スゴイわ!」




 しばらくの沈黙が訪れた。「うーん、外国人って掴みどころがないな」そんなことを思っていると、俺の背後から内海さんが顔を出した。




「いえ、腹話術じゃなくて……私は内海心です。今日からここでお世話になります。よろしくお願いします」




 内海さんの声がリビングに響いた瞬間、全員の視線が一斉に彼女へと向けられた。その視線に少し緊張した様子の彼女は、だが、しっかりと前を見据えていた。


 心さんが深く頭を下げると、リビングにいる皆が驚きの表情を浮かべた。母さんはその場で小さく手を叩きながら、にっこりと微笑んだ。




「まぁまぁ、そういうことだったのね!悠くん、しっかり案内してくれてありがとう」




 母さんの温かな声に、内海さんは少しほっとした様子で頷いた。




「では、全員揃ったことだ。ご飯にしよう」




 金子先輩の声に動かされるようにして、各々椅子に腰をおろした。


 ミアはまだ何か面白そうなことを見つけたかのように俺を見つめていたが、その視線が少し恥ずかしく感じたので、あえて目を合わせずにいた。


 改めてテーブルに並んだ料理を見ると、カレーにジャーマンポテト、煮物と非常に豪華だ。しかし、ジャガイモ多くないか?


 俺が一人で疑問に思うなか、母さんが話を始めた。




「さて、まずは無事に全員揃って良かったわ。この四人でこれから生活することになるから、改めて挨拶しましょう!」




 先ずは、金子先輩からと言わんばかりに母さんは視線を向けると、彼女は一息ついて口を開いた。




「改めまして、金子侑香かねこゆうかです。ここに住んで三年目になるので分からないことがあれば遠慮なく聞いてください」




 彼女の挨拶を聞き、全員拍手をする。次は俺がと深呼吸しているうちにミアが話し始めた。




「私はミア・ベッカーよ。まだ日本に来てから一週間も経っていないから、分からないことだらけだけどよろしくネ!」




 拍手をしながら今度こそと深呼吸をして話す。




「俺は、」「私は、」




 非常に気まずい。内海さんとかぶってしまった。お互い先にどうぞと、最後の餃子を譲り合うように遠慮してしまう。


 お互いに譲り合っていると、金子先輩が優しく笑いながら口を開いた。




「じゃあ、悠紀君からどうぞ。内海さんもこの後でいいからね」




 金子先輩の助け船に感謝しながら、俺はもう一度深呼吸して話し始めた。




「和泉悠紀いずみゆうきです。えっと、今年から高校一年生で、このシェアハウスに引っ越してきました。まだ慣れていない部分も多いけど、よろしくお願いします」




 自分でも少し固い挨拶だなと思いつつも、何とか言い終えると、皆が拍手してくれた。ほっとしたのも束の間、次は内海さんの番だ。




「えっと、内海心うつみこころです。今日からここでお世話になります。色々ご迷惑をおかけするかもしれませんが、よろしくお願いします」




 内海さんも緊張しているのか、少し小さな声だったが、しっかりと自分を紹介していた。皆が再び拍手すると、内海さんは少しだけ笑顔を見せた。




 その後、母さんが温かい表情で話し始めた。




「これで全員の挨拶が終わったわね。さあ、カレーが冷める前に、食べましょう!話は食べながらにしましょうね」




 みんなが「いただきます」と一斉に言い、カレーを口に運ぶ。シェアハウスの住人全員揃って、初めての共同生活が始まった瞬間だった。


 俺はカレーを頬張りながら、母さんは挨拶しなくていいのかと聞くと私はみんなと面識あるからいーのと言われてしまった。




 内海さんが隣で一口カレーを食べると、少し驚いた顔をしてこちらを見た。




「このカレー、すごく美味しいですね」




「うん、母さんのカレーは最高なんだ」




「ありがとう、悠くん。でも、皆さんの口に合って良かったわ」




 俺の言葉に母さんは少し照れながら母さんが嬉しそうに微笑むと、リビングには和やかな雰囲気が広がっていった。


 二人がそれぞれ作った料理もとても美味しく、俺もこの生活を通して料理を作れるようになりたいと改めて思った。




 ***




 夕方が深まるにつれて、シェアハウス全体が静まり返り、リビングの灯りも徐々に落ち着いた色に変わっていった。全員が食事を終え、各々の部屋に戻り、今日一日を振り返っていた。俺も自分の部屋に戻り、ベッドに腰掛けた。窓から入る夜風が心地よく、疲れた身体を癒してくれる。




 カーテンの隙間から見える夜空には、星がちらちらと輝いていた。心の中で「この家での生活がこれからどうなるのか」と考えずにはいられなかった。まだまだ知らないことだらけだけど、金子先輩に、ミアさん、そして内海さんとこのシェアハウスと高校での新しい生活が、俺に何をもたらしてくれるのだろうか。




「これから本格的に高校生活が始まる…」




 ベッドに横たわりながら、そんなことを考える。これから先、今までと違う日々が待っているかもしれない。俺は期待と少しの不安を胸に、静かに目を閉じた。




 やがて、静かな夜がシェアハウスを包み込み、今日という一日が静かに終わっていった。

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