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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

異世界でも蔑まれたボクを救ってくれた彼女はボクの中で生きている

作者: Mr.ゴエモン
掲載日:2025/11/11

 6作目の短編になります。自分的には、よく出来たと方だと思ってます(自分的には!!)。

 少々グロめな場面がありますので、苦手な方はお気をつけ下さい!

 「やだ…やめてください!」

 「ゴチャゴチャと五月蝿(うるさ)い!早く飛び込め!この無能野郎が!」


 ココは、王都から離れた山岳の断崖絶壁。つまり、崖の上。

 後ろ手に縛り上げられた少年に対し、甲冑を身に着けた騎士が、崖に飛び込めとセカしている。

 傍から見れば、常軌を逸脱した光景だ。

 しかし、ココにそれを止めようとするものはいなかった。


 「お願いします…トイレ掃除でも何でもしますから…」

 「五月蝿いと言ってるだろうが!無能は生きる価値もないんだ!」

 「もういい!これ以上は時間の無駄だ!自分で飛び込めないなら…」

 「だな…」


 ドン!


 騎士が少年の背中を蹴り、崖から落とした。(マナーが悪い悪くないは兎も角)まるでゴミを捨てるかのように…


あああああああぁぁぁ~……


 断末魔をあげながら落下していく少年。

 それを見届けた後、騎士は、

  

 「ごみ捨て完了と!」

 「そのまま上がっていいぞって言われたし、これで今日は仕事上がりだな。どうだ、帰りにいつもの酒場で一杯やるか⁉」

 「おぉ、良いな!そんじゃ何時もの店で!」

 「おうよ!」


 人間をゴミ呼ばわりした挙げ句、次の瞬間には、呑気に次の話題に移っている。本当に、人をゴミ扱いした挙げ句、微塵も気にもとめていない。

まともな人から見たら、精神を疑う光景だ。しかし、この国ではコレが普通だった。


 この世界では、誰もがスキルと呼ばれる力を持っている。攻撃的なものから日常生活に役立つモノまで多種多様だ。しかし、稀にスキルを持たないものがいるのだが、この国では、そのスキル無しの者は、無能のレッテルを貼られ、酷く蔑まれる。

 信じられないことに、スキル無しの者は、


 「スキル無しには人権も無い」


 と言われる。

それ故に、スキルの無い者は、


 「殺されても文句言えない」

 「無いやつが悪い」


 とされている始末だ。

 強力なスキルを持って生まれさえすれば、王族・貴族に召し抱えられる事もある。

まさに、スキル1つで人生が大きく変わるのだが、それは極めて稀な事(レアケース)。良いスキルを持つ者が産まれるのは王族・貴族ばかり。庶民から産まれるのは、平凡なスキルばかりだ。血筋・社会的地位とスキルが連動しているかのように。なのでますます、階級社会(ヒエラルキー)が明確となっているのであった。


 「しっかしさっきの奴の、死に様ときたら…」

 「見物だったな!涙に鼻水と、顔から出るもん出しまくってたもんな!」

 「ハハハハハ!」


 少年を崖から落とした騎士は、先程の光景をさかなに、行きつけの飲み屋で楽しそうに酒を飲んている。本当にまともな神経でない。


 「まったくよ、折角()()したのによ!」

 「あぁ、召喚もタダではできないのによ!」


 そう、先程崖の下に蹴り落とされた少年は、他の世界から召喚された人間なのだ。


 彼等のいる国の名は、ヒエラーキ王国。世界有数の大国で、同時に軍事国家でもある。

 この国では戦力として、時折、他の世界から素質のある人間のいるであろう場所に目星をつけ、召喚して呼び寄せる事をしている。いわゆる異世界転移だ。複数人の召喚術士サモナーが、あっという間に枯渇こかつするくらいの、膨大な魔力を用いて行う儀式で、気軽には行なえないのだ。

 他の世界から呼び寄せられた人間は、この世界の人間とは比べ物にならないスキルを持つケースが多い。いわゆるチートだ。チートと言う程ではないが、中々の強力なスキル持ちも存在する。

 その者達を、上手いこと抱き込んで、戦力にしている。言うことを聞かない者は、金目の物を与える事で丸め込めたり、金で動かなければ洗脳したり、隙を付いて奴隷の首輪を取り付け、無理やり従えさせているという。


 が、先程捨てられた少年は、例外であった。

 正確に言えば彼はこの世界の者達の言うところの、素質のある人間ではなかった。目星をつけた者達がいる場所を、タイミング悪く通りがかったが為に、召喚に巻き込まれ、この世界に連れて来られてしまったのだ。とんでもない話だが、たまにある事だった。

 素質ありの人間は、その場にいた高校生の男女数名のグループであった。その者達は、とてつもなく、稀有なスキルを得ていたらしい。

 それに対して少年は、あろうことかスキル無し。何の力も持っていなかった。平凡なスキルさえも持ってなかった。

なので能無しに用はないと、捨てられてのだ。


 「本当に、能無しに相応しい死に様だったな!」

 「だな!」


 と、他人の不幸は蜜の味と言ったところか。まともな神経を持った人間とは思えない会話の数々。

 しかし、彼らの会話に1つだけ、間違っているところがあった。

 それは、捨てられた少年が()()()()()()()という事だ!


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 「スキル無しの無能などイラン!捨てて来い‼」

 「「ハッ!」」

 「捨てて来いって、そんな待って…下さい!」

 「五月蝿い、貴様は捨てる!」

 「そんな…誰か…」


 少年は同じ様に召喚された人達に救いを求めるように、目線を合わせた。

 しかし、彼等は少し申し訳な下げな表情をしながらも、直ぐ様、視線を反らした。面倒事に巻き込まれたくないとでも言わんばかりに。その中には、全くの無関心(知らん顔)で、スマホが繋がらないか試しており、ダメだと判ると、舌打ちして苛立(いらだ)っている有り様だ。完全に他人事だ。

 同郷の者達にも見捨てられ、絶望感に包まれた少年は、そのまま、縛りあげられ、例の崖から捨てられた。

 自分の死を覚悟した少年は、恐怖から、そのまま意識を失った。

 

 「……ハッ!…ココは…ドコ⁉…」


 少年は気が付くとそこは、薄汚れた部屋のベットの上だった。少し叩くだけで、ホコリが舞う程だ。

 自身を拘束していた縄は無いが、手首が千切れてしまいそうなくらい、キツーく縛られていたので、手首等に縄の跡が(あざ)となって残っている。それが、先程まで縛られていた事を物語っていた。


 「ボクは崖から落とされて…ココは天国⁉…って事はなさそうだな…」


 周りを見渡す。

 ベット同様、薄汚れた部屋の中なのがわかった。調度品もろくに置いてない。

とてもじゃないが、天国には見えない。天国とは程遠い。かと言って、地獄でもなさそうだが…


 「誰かが助けてくれたのかな?」


 手首の縄の跡を擦りながら、アレコレと思考を巡らした。

 すると、部屋のドアが静かに開いた。


 「お目覚めになられたようで。」


 開いたドアから2人の女性が入って来た。

 その姿を見て少年は、目を疑った。

 1人は所々にツギハギが施してあるメイド服を着たメイドだった。よく見たら猫耳がある。ファンタジー物によく出てくる獣人というやつなのだろうか。前髪が長く伸びていて、それにより目元を完全に隠している。

 しかし、問題なのはもう1人の方だった。

 その人は、猫耳メイドと同様、ツギハギのあるドレスを着ている。

が、それよりも目が行くことがあった。

 彼女は、この世界の車椅子に乗っており、猫耳メイドがそれを押している。それも、ただ怪我をしているからという、訳では無い。右目には眼帯をしていて、手と足が片方づつ無かった。

 兎に角、目も当てられる位、痛々しい姿をしている。

 しかし、彼女はそんな事をおくびにも出さず、少年にニッコリと微笑みかけた。


 「お気分はどうですか?」

 「えっ、あっ…大丈夫…です…」

 

 それから少年は2人と話した。

 それにより、ことの経緯は分かった。


 少年が崖から捨てられたあの時のこと。

 少年が落とされた崖の下には、予めネットを張っていたのだ。それにより、少年は無事に助かったが、ショックで気絶していた。それから、この屋敷に匿われた。

そして今、ココにいるのだ。


 「そうだったんだ…助けてくれてありがとうございます!」

 「どういたしまして!ところで、あなたのお名前は⁉あと年齢も…」

 「あっ申し遅れました、ボクはユータです。年は17です!」

 「ユータさん。17…なら敬語は結構。同い年だから!」

 「はい…いや、うん…コレでいいのかな?」

 「ええ!」

 「お嬢様、お茶をお入れしましょうか!?」

 「ええ、お願いねミー!」


 ミーと呼ばれた猫耳メイドは、お茶の用意を仕出した。「ミー」それが猫耳メイド(彼女)の名前らしい。


 「どうぞ!」


 ミーは用意したお茶を、ユータ達のやや斜め前に置いた。

 置かれた位置が少々気になるが、目の前の彼女は何も言わないので、ユータも黙っておくこととした。

 出されたお茶の入ったカップは(ふち)が欠けており、ソーサーも明らかに割れたのを、接着剤か何かで繋げた跡があった。


 「ごめんなさいね、こんな粗末な食器しかなくて…」


 申し訳なさそうな顔をする彼女。

 

 「いいよ気にしないで…えっと…そう言えば君の名前は?」

 「あっ、まだ言ってなかったわね⁉わたくしはソフィーよ!」

 「ソフィー…いい名前だね!」

 「ありがとう!亡くなったお母様が付けてくれた名前で、気に入ってるの!」

 「そうなんだ…」


 それから、ミーの入れてくれたお茶を飲みながら、ソフィーと話した。


 「えっ、君って王族の人なの⁉」

 「えぇ、でも正妻の子でなく、昔、お城で下働きをしていたお母様を強引に手籠てごめにし、その時に出来た子なの…」

 「なんて王だ…」


 そう言いながらも、人をゴミのように捨てると言い出すようなやつだ。その位は平気でしそうだなと、ユータは感じた。


 「でも、そういう経緯で生まれたとはいえ、王の血を引く君が、なんだってこんな粗末な所に…」 

 「王には、正妻との間に産まれた子供が6人いるので、私は必要性が殆ど無いので、アカの他人同然の扱いなの…」

 「酷いな…」

 「お(なさ)けで、この国境付近の屋敷に住まわせてもらっているの。まぁ、他にも理由があって生かされてるんだけど、扱いは見ての通り。とても王族とは思えないでしょう?」

 「…」


 ユータは何とも言えないて気持ちになった。彼女とミーの身なりと、周りの光景から、お世辞でも否定はできなかった。

 ソフィーは話を続けた。


 「そんな私の、随一の心の支えが彼女よ!」

  

 ソフィーは猫耳メイドのミーに視線を向けた。

 ミーは軽く会釈した。

 話によると、ミーは見ての通り、猫の獣人とのことだ。

 この世界では、獣人種は立場が弱く、迫害されたり、奴隷として売り買いされることも珍しくないとか。彼女もまた、迫害で住む家も家族を失い、行き倒れになっていたところをソフィーに拾われたのだ。

 それ以来、彼女専属のメイドとして働いているのだ。


 「見ての通り、私はこの身体。彼女にはとても助けられていて、感謝しているわ!」

 「そんなソフィー様!こんな私を置いてくださっているのですから、こちらこそ、感謝しております!」

 

 ソフィーとミー。2人の間には、強い信頼関係があるようだ。

 主と使用人という間柄であるが、2人の仲はそれ以上のものの様に、ユータは感じた。

 

 「ところで話は変わるけど、ココは国のどの辺りなのかな?」

 「あぁ、そうね。ミー、そこの地図を…」


 と、ソフィーは壁に架かった地図を指さそうと、右腕を動かすような動作をした。が、出来なかった。彼女の右腕はそこにはなく、ブランと垂れ下がった長袖が、大きく揺れただけだった。

 

 「あっ…」


 ソフィーが垂れ下がった長袖を見つめてつぶやいた。

 その場の空気が一気に重く変わった。


 「まだ、慣れてなくて…」


 そう言ってソフィーは、改めて左手で壁の地図を指さした。


「(まだって事は、右手を失ってから、日が浅いのか…)」


ユータは思ったが、口には出さないでおいた。

 それからミーが取ってきた地図で、ソフィーは場所の説明をした。

 地図上では、王のいる宮殿は中央にあり、その周りに王族・貴族の住む高町、更にその周りに庶民の住む城下町となっている。これがこの国、「ヒエラーキ王国」である。因みに、ユータが捨てられた崖は、国の南の方にある。人は住んでないが、一応この辺りも、この国の領土の範囲内となっている。

 今いる場所は、国の南東にある森の中にある。昔、先久代の国王が、別荘感覚で建てたが、便が良くないので殆使われず、荒れ果てていたのを、彼女に充てがわられたらしい。国民から搾り取った血税を、沢山注ぎ込んだにも関わらず…

 なおこの国では、王族・貴族達は国民に重税を課しており、国民達は爪に火をともす思いで生活しているらしい。


 そう言った話を、ソフィーはユータに丁寧に説明した。

 が、どうしてもユータは、別の事の方に意識が行ってしまいがちになっていた。

 それを察したソフィーは、


 「…やっぱり、気になるよね…」

 「あっ、ゴメン…つい目が…」

 「いいのよ。気にならない方が無理だしね…」

 「…失礼ながら聞くけど、その身体は…あっ、イヤ、いいんだ!今言った事は忘れて…」

 「構わないわよ!これはね、私のスキルを使用した跡よ!」

 「跡‼スキルを使って、何だってそんな事に…」


 ほんの僅かの間、沈黙が流れた。しかし、当の本人達には実際よりも、長く感じた。


 「それは…」


 彼女が答えようとした瞬間、


 ガシャーン‼


 突然、窓ガラスが激しい音を上げて割れた。


 「なつ、何だ!」


 ユータは割れた窓に駆け寄った。そこには、握りこぶし大の石が転がっていた。こんな大きな石が、自然に飛ぶなんて事は、まずあり得ない。これが人為的に投げ込まれ、故意でガラスが割れたのは一目瞭然だった。


 「誰がこんな…」


 ユータが呟く最中、外から声が聞こえて来た。


 「ハハハハ、本当にいやがってぞ!」


 なんとも、嫌味っぽい感じの声だった。

 外を見るとそこには、派手な格好をした男がいた。側には、王国の騎士もいる。ユータには、その男に見覚えがあった。この国の王子だ。

 召喚された時も、あの場にいた。

 正確に言えばこの国の、第4王子だ。現国王には6人の子供がおり、男4人女2だ。その第4王子が、この屋敷の庭に複数名の騎士を引き連れ、偉そうに佇んでいる。

 

 「なっ、何だアンタは⁉」

 「アンタだと…スキルなしのゴミクズ以下が、誰に向かって口を利いてるんだ!」


 相変わらず、酷い言い草だった。

 流石、あの国王の子だと、ユータは思った。


 「お兄様!」

 「なんだソフィー、貴様か。フン、貴様に兄呼ばわりされる筋合いはない!それに、あいも変わらず見苦しい姿だな。まあいい、話してやろう。ソフィー。貴様とどら猫女が、ココにそのゴミクズ以下らしき男を連れ込んだという報告を受けてな。それで暇つぶしがてら、俺様自らが確かめに来たという訳だ!」

 「どら猫女って、彼女(ミー)の事か…」


 ユータは、ソフィーの傍らのミーを見つめた。

 尚も酷い言い草の第4王子。が、悪怯れる様子は全く無かった。


 「俺様はな、ゴミクズ野郎が生きているというだけで、超が付く程に不愉快なのだ。よって、今この場で、俺様直々に害虫駆除をしてやる!」

 「害虫駆除…」


 最早、人としてもユータを見ていない第4王子。見兼ねたソフィーが間に入った。


 「お辞めくださいお兄様!今あなたがやろうとしていることは、余りにも酷すぎます!」


 悲痛な声を上げるソフィー。

 が、第4王子の心には、全く響かない。


 「俺様を兄と呼ぶな!俺様には、ボロ人形の様な妹などいない!所詮、父上が酒に酔った勢いで手を出した、下働きの女が産んだ娘だ。父上も、お前など実子と思ったことなんて無い、と言っておられたわ!」

 「うっ…」


 次々と、罵詈雑言を口に出す第4王子。

 王子の後方にいる騎士達。甲冑で、顔ははっきりと見えないが、ニヤニヤしているのが分かった。見てくれは立派だが、中身は王子とどっこいどっこいのいい勝負のようだ。

 辛辣な言葉に涙目のソフィー。

 

 「という訳だ!今から害虫駆除を行う。貴様はそこの、どら猫女と一緒に、指くわえてみていろ!」

 

 それだけ言うと第4王子は、右手を横に伸ばした。顔が一瞬、力んだように見えた。伸ばした右手は、何かをつかんでいるように見えるが、何も見えない。そして第4王子は、その右手を振りかざす。

 それを見たソフィーは、狼狽した。


 「ユータ危ない!」


 ソフィーが叫んだ。それに反応し、咄嗟に伏せるユータ。

 その直後、


 グザ!!


 近くの壁に穴が開いた。


 「なっ、何だ今のは⁉」

 「お兄様のスキルよ!」

 「スキル!?ヤツの?」

 「そう。お兄様のスキル、「目視不可な槍(ステルス・スピア)」よ!」


 「目視不可な槍(ステルス・スピア)」それは、スキル使用者、つまり、第4王子以外の人間には、見ることのできない槍を出現させるスキルだ。第三者には、目で見る事は出来ず、何処かに当たる等して初めてその存在を理解できる。

 スキル使用者が念じれば、槍は無限に出現させられる。

 投げれば30メートルは有に飛び、しかも、追尾機能まであるのだ。

 シンプルながら、強力なスキルで、第4王子はこのスキルで多くの敵を葬ってきた。

 

 「ふははは!」


 王家の人間とは思えない位、下品に笑いながら、目視不可な槍(ステルス・スピア)を連発する第4王子。

 次々と、屋敷のアチコチに、穴が空いていく。


 「ソフィー様、ユータさん!早く奥に‼」


 ミーが素早くソフィーの車椅子の後方に周り、ハンドルを握り、車椅子を押しながら叫んだ。

 その後も、目視不可な槍(ステルス・スピア)は絶え間なく打ち込まれ続ける。


3人は雨のように次々と降り注ぐ槍を何とかかわしながら逃げた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


それから1時間ほど経過した。


「静かだな…帰ったか?…」

「いえ。あの人は、簡単に諦める人じゃないから、まだ近くにいると思うわ!」


3人は、屋敷の庭に生えている木の下にある、隠れ部屋にいた。万が一、何かあったら逃げ込める様に、ソフィーが父親達(国王と兄弟連中)に内緒で作ってあったのだ。

3人は命からがら、ソコへ逃げ込んだ。


「もう暫くは、ここにいた方がいいは。ここには非常食に、簡易的だけどトイレもあるから、暫くは()もれるわよ。」

「その方がいいですよユータさん!」

「確かに、そうした方が良さそうだな…」


2人の意見に従い、暫く籠もることにしたユータ。やがて、日が沈み、辺りは暗くなった。


「連中、流石に帰ったよな!?」

「わからないけど、もう暗いし、今夜はココで過ごしましょう!」

「その方がいいな…」


そのままここで、夜を明かすことにした。

ロウソクの明かりの元、非常食で簡単な夕食を済ませ、早めに寝ることとした。

本当に、色々なことがあった。なんとも濃い一日だった。心身共に疲れ切っていたので、あっという間に寝入った。


そして翌朝、流石にもういいだろうと思い、外に出た。


 「ふぅ~、やっぱり外の空気はいいな…」


 そう独り言を呟いた後、ルータは振り返り、隠れ家の出入口にいるソフィーに手を向けた。


 「ほら、出よう!」

 「ありがとうユー…」


 そこまで言った次の瞬間。

  

 グサッ!!

 

 嫌な音が、その場に響き渡った。

 それと共に、ソフィーの顔が血で汚れた。しかしそれは、ソフィー自身の血ではない。彼女の目の前のユータの胸元に空いた風穴から吹き出たものだった。


 「えっ…」

 「「…!!…」」


 何が起きたのか、自身の置かれた状況が分からないユータ。

 絶句するソフィーとミー。


 「かっ!…ゲホッ!」

 「ユータ!」

 「ユータさん!」


 吐血してその場に崩れ落ちるユータ。

 不自由な身体で、ユータを支えるソフィーとミー。


 「ふはははは!」


 下品な笑い声がした。声のする方にいたのは、今3人が最も会いたくない人物、第4王子がいた。


 「お兄様…」

 「やはり、そこにいたのかゴミ共め! たく、待ちくたびれたぞ!」

 「何で…」

 「フン!我々が、貴様がコソコソ作った隠れ家に気付いてないとでも思ったか!?」

「…」


 隠れ家の存在は、知られていた。知っていて、泳がされていたのだ。


 「よーし、これにて害虫駆除完了と…さて、残るはお前らだが…」

 「…」

 「今は見逃しといてやる。少なくとも、貴様にはまだ、いざって時に使い道があるしな。それに、一晩中待ち続けて疲れたし、それに眠い…帰って寝るとしよう!」

 

 生あくびをしながら、そう言った第4王子は、近くに留めてあった豪華な装飾の施された馬車に乗り込んだ。

 御者が馬に鞭を打ち込むと、馬車は走り去っていった。同行した騎士たちも、馬に乗って、後を追った。

 後にはソフィー・ミーそして、息絶え絶えのユータが残された。


 「しっかりしてユータ!」

 「うっ…あっ…」


 傷口を止血するソフィーとミー。 

 が、血は止まらない。


 「ソフィー…」

 「喋らないでユータ!」

 「無駄だよ…この傷だ…内臓の大半を…やられてる。もう…助からない…よ…」

 「……」


 涙目になるソフィーとミー。

 2人に介抱されながらユータは、これまでの人生が脳裏に映った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 ユータ。本名、「梅林うめばやし優太ゆうた」。

 彼の人生はお世辞にもいいものとは言えないものだった。

 物心つく前に、両親が事故で2人共他界。親戚の家に引き取られるも、そこでは実の子でないからと冷遇。ほぼ、召使い同然で、掃除・洗濯等の家事を押しつけられた。

 食事は余り物で、それすらももらえない日も珍しくなかった。そんな日は、外の水道水で飢えをしのんだ。

 その家でユータは、給与のいらない使用人的な位置付けだった。部屋も与えられず、廊下の隅っこで宿題をして寝る日々。

 世間体もあってか、高校には通わせてもらった。とはいえ、通信制のだ。そこに、働きながら通った。給与は全て、義両親のもので、ユータの手元には1円も残らない。


 そんな散々な人生を送ってきたユータ。義両親にまともに相手されなかったので、コミュニケーションの仕方もろくに分からず、なので友人も皆無だった。小中学校でも、講師陣は皆異なれ主義で、周りと打ち解けれないユータは放っておかれた。

 その日は久々に、通信制高校に登校する日。友人などいないが、少なくとも、自分を厄介者扱いする義両親等といるよりは幾分、気が楽でマシだ。

 そう思いながら登校する最中、突如、光に包まれ、この世界に召喚されたのだ。


 「はぁ…はぁ…(これが、走馬燈ってやつなのか…)」


 だが、この世界でもユータは蔑まれた。挙げ句の果て、ゴミのように捨てられた。これなら、地球の方がまだマシだ。

 ここまで来ると、最早、悲しむ気にもなれない。自分は前世で大量虐殺でもしたとでもいうのか?何故自分だけ、こんな仕打ちを受けるんだ?

 ユータは、薄れゆく意識の中で、自分の運命を憎んだ。

 しかし、


 「しっかりしてユータ!」


 ソフィーは止血を続けるも、傷口に当てた布が次々に血に染まっていくだけで、止まる気配はない。

 そんな彼女を見てユータは不思議と、少し満たされた感じがした。

 生まれて初めて、誰かに自分の身を案じ、尽くしてもらえた。

 彼女に看取られるなら本望と、思い始めた。ソフィーとミーが何か言っているが、その声はもうろくに聞こえないし、次第に視界もぼやけてきた。

 ユータはそのまま、意識を失った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 「…ここは?…」


 ユータは気付くとベッドに寝ていた。


 「僕は死んだんじゃ?…」


 第4王子によって、貫かれた胸元。その部分には、包帯が巻かれていた。上から手を当てると、


 ドクンドクン!


 心臓が動いてるのが分かった。


 「何で、王子アイツに貫かれたはずなのに?…」


 訳が分からずにいると、部屋の扉が開き、ミーが入ってきた。


 「気が付きましたかユータさん。」

 「ミー…僕は助かったのかい?」

 「はい…」


 ミーは元気のない声で答えた。何処か、悲しみを感じた。

 どうやって?内臓の大分をやられてたのに。あれじゃあ、ブ⚪ック⚪ャックでも無理だろう。()()()()でも、しない限りは…

 ここでユータ、ミーがいないことに気が付いた。ミーに尋ねると、


 「…お嬢様は…ううっ…」


 突如泣き出すミー。


 「何で泣くの?そもそも、ソフィーはどうしたんだよ?」

 「お嬢様は…」


 ミーは涙を拭くと、ユータを別室に案内した。

 その部屋の中では、


 「…ソフィー…」


 ベッドの上には顔と身体に、布をかけられた人が横たわっていた。

 ユータは恐る恐る顔の布をめくった。めくった途端、ユータは血の気が引いた。

 そこには、


 「…ソ…ソフィ…」


 ソフィーはベッドの上で冷たく、物言わぬ遺体となっていた。

 訳が分からなかった。

 何故?自分でなく、彼女が死んでいるんだ?

 訳が分からなすぎて、ユータは変になってしまいそうだった。


 「何で…」

 「それは、お嬢様がスキルを使われたからです!」

 「ソフィーのスキル?」

 「はい。お嬢様のスキルは、【身体寄付(パーツ・ドネーション)】。自身の身体の一部を、他者に与えるというスキルです。」

 「自分の身体の一部を!?」

 「そうです。例えば、片腕を失った人に対して使つと、自身の片腕を失う代わりに、その人の腕を治せるのです。」

 「何だよ、そのリスクが大きすぎるスキルは…!!それじゃあ、彼女の片手片足が無いのは?…」

 

 コクっ


 ミーは黙って頷いた。

 この国は軍事国家。お偉方も戦争で身体の一部を損失することはあるだろう。彼女のスキルは、その時に使われたらしい。それも強制的に。実力行使でやらせたのだとか。

 そうか。第4王子の言っていた使い道とは、この事だったのか…

 曲がりなりにも妹なのに、ヤツは本当にソフィーを妹とは思ってなかったようだ。

   

 「かく言う私も…」


 ミーは、片目にかかっていた前髪をかき上げた。なんと、彼女は片目が無かったのだ。

 

 「その目…まさか…」


 再び黙って頷くミー。迫害で彼女ミーは、両目を奪われたらしい。ソフィーに拾ってもらい、そしてなんと、スキルで自身の片目を与えてくれたのだ。無い方を隠すため、前髪を伸ばしていたのだ。

 お茶を置く場所が変だったのは、これが原因だ。片目なので遠近感が分かりづらいのだろう。

 拾ってくれた上に、大切な片目をくれたソフィー。ミーがソフィー忠義を抱くわけだ。


 「待てよ…てことは、まさか…」


 ユータは胸に手を当てた。そしてミーに顔を向けた。


 またもミーは黙って頷いた。

 そう。ソフィーはユータに、自身の内蔵を提供したのだ。しかも、内臓を…


 「そんな何で…赤の他人の僕にそこまでしてくれるんだよ?」

 「実は、勝手ながら、あなたの過去の記憶を覗かせてもらいました。」

 「過去の記憶?」


 ミーは人の過去の記憶をのぞき見るスキルを持っているのだ。それで、崖から落とされて、気を失っているユータの記憶を覗いたのだ。ユータが悪い人間でないかを、見定めるために。

 そしたら、ユータの過去が余りにも哀れなものだった。なので迷い無く助けた。

 因みに、もしユータが悪い人間だったら、その時は安全な場所に送ってサヨナラするつもりだったという。


 それはともかく、ユータはソフィーのスキルで、彼女の内臓を提供され、生きながらえれたのだ。


 「お嬢様は言っておられました。このまま生きてても、父や兄達にいいように使われるだけだ。もしかしたら、提供した身体で誰かの命を奪う可能性もある。そのくらいなら、あなたを助けるために使った方が有意義だからと…」

 「…だからって…ソフィー…」


 ユータはベッド上で冷たくなったソフィーに近寄り、彼女の手を握った。


 「うぅ…ソフィー…」


そして、涙した。

すると、


ドクンドクン!


突如として、心臓の鼓動が激しくなった。

身体も熱くなってきた。膝をつくユータ。


「どうしましたユータさん?」

「それが急に、心臓が…なんだ?まさか、ソフィーの内臓が身体に合わなかったのか!?」

「いいえ、お嬢様のスキルで提供したモノは、相手の血液型や相性を問わず、適合します。今まで、一度たりとも拒絶反応が出たことは…」

「だったらなんで…」


ユータもミーも何が起きているのか分からなかったが、それは次第に収まった。


「楽になった…」

「何だったんでしょうか?」

「いや待って、身体が別に変な感じが…」

「えっ!今度は何が!?」

 


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


所変わり王宮、第4王子の部屋にて。

ここでは第4王子が取り巻きの者達と、城下から強引に連れてきた若い娘達と共に、酒盛りをしていた。

酒の肴は、高級チーズにナッツ類等。そして、


「ははは、あのゴミ野郎の死に顔と来たらよ…」

「実に良い見物でしたな王子!」

「全くだ!」


ユータを始末した事の話だった。

当然の如く、この連中の神経もまた歪んでいた。

高級ワインをグラスに注ぐが、1/3程グラスに入った辺りで瓶は空になった。

空の瓶を雑に後ろへ投げ捨てて、


「オラ、次だ次!」


お代わりを要求する。

だが、返事はない。イラ立ちながら、視線を向ける。


「オイ!返事はどうした!?返事は…」


そこまで言って彼は硬直した。

自分以外の人間が、石のようにピタリと固まって動かなくなっていたのだ。


「何がどうなってる?まるで、時が止まったように…」

「御名答!」


第4王子が声の方を向くとそこには、ユータが立っていた。


「!?な、何で貴様が…生きてたのか…コレは貴様の仕業だと言うのか?」

「そうだよ。」

「バカな…貴様は、スキル無しの無能のハズじゃ…」


狼狽えつつ、片手を後ろに回し、スキルを発動し、目に見えない槍を出した。

隙ついて、コレでユータを仕留める気だ。

しかし、ユータにはお見通しだった。


時間停止ストップウォッチ!」


第4王子も他の人達同様、動かなくなった。

時間停止ストップウォッチ。それは読んで字のごとく、任意のモノの、時間を止める強力なスキル。ユータが()()()()()()()()()()だ。


「生憎、アンタとは無駄に話したくない。転移ワープ!」


次の瞬間、ユータと第4王子の姿は部屋から消えた。


所変わりここは、国の外れの小高い丘。ユータと石のように動かない第4王子が出現した。


「一丁あがりと!」

「おかえりなさいユータさん。」

「お待たせミー。」


ミーはユータに会釈すると、時の止まった第4王子を睨んだ。彼女にとっても、この男は憎い相手だった。

しかし、手は出さない。それがユータとの約束だった。手を出せば、それこそ奴等と一緒。

そういう認識からだ。


「さてとそれじゃあ…略奪バンデッド!」


第4王子に別のスキルを発動した。

第4王子の身体から、光の玉が出て来た。それを袋に入れた。


「スキル頂きと。」


強奪バンデッドそれは、相手のスキルを奪い取るスキルだ。取られたスキルは光の玉となり身体から出る。それを取り込む事で、そのスキルを使えるようなる。


「コレで第4王子(コイツ)はスキルを使えない。見下していたスキル無しに、自分自身がなったんだ。」

「で、どうするんです、この男?」

「そうだな…あっそうだ、何処か無人島にでも捨てるのはどうかな?危険な魔物こそいないが、同時にろくに食べ物も雨風凌げる洞窟も無いような島にね!」

「いいですね。そこで、命の大切さを学ぶといいです!」

「だね。さぁ行こう!どうやら、王宮が騒ぎだしたようだ!」


転移した直後、時間停止は解除した。なので、王宮では、第4王子がいなくなったとしてパニックになりだしていた。


「行こうミー。飛行フライング!」


空を飛べるスキルでユータとミーは、飛んで行った。第4王子は異空間にモノをしまえるスキル異空間収納マジックボックスに入れておいた。


「それにしてもユータさんが、スキルを身に付けられるなんて…」

「うん…僕自身、今だに信じられないよ…」


そう。身体が変な感じがしたと思ったら、ユータは各種レアなスキルを身に付けていたのだ。


「おそらく、ソフィーが内臓をくれたおかげだと思うよ。原理は分からないけど、それが原因でスキルが身についたんだよきっと。」

「お嬢様…」


それから2人は、第4王子を手頃な無人島に捨ててきた。

時間と共にスキルが切れるように、効き目を調節したので、時間が来れば動ける様になる。 やがて、スキルが無いことに気付くだろう。そして慌てふためくことだろう。

 一応、本当に心から反省したら助けてやるつもりだけど、それは又別の話。


ユータとミーは一先ず、ソフィーの屋敷に戻った。ソフィーの遺体は、屋敷の庭に丁重に埋葬した。

だが、えて墓にはしなかった。

何故なら…


「次はどうしますユータさん?」

「勿論、第4王子だけじゃない。王宮の、いや国中の性根の腐った奴らの根性を叩き直してやる!そして、獣人達への差別も無くす!」

「…私も出来る限りお手伝いします。行ましょうユータさん、2人で。」

「違う。2人じゃない。3人だよ!」


ユータは胸の辺りを触りながら言った。


「そうでしたね…」

「ソフィーは死んではいない。今もこうして、僕の身体の中で、行き続けてるんだ!」


ユータは身体の中の心臓の鼓動を感じながら言った。ソフィーは死んでいない。ユータの中でしっかりと、生きている。2人はそう認識している。


「それじゃ、行こうか!」

「はい!」

「(うん!)」

「!?」


ふと、ソフィーの声が聞こえた気がした。


「ユータさんどうしました?」

「いや大丈夫、何でもないよ…」


改めて2人は動き出した。


それからこの国を皮切りに、獣人への差別意識撤廃を始めとする、大きな革命が立て続けに起きるのだった。

その革命の裏には、ある2人(3人)の人物の存在があったというが、真相は定かではない。


ーー完ーー


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