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未来的革命

作者: 紫月旅或

「はあ……」


 家に帰っても、真っ暗な部屋たちが出迎えてくれるだけ。今までは、それが気に入らなかった。誰かのぬくもりが欲しかった。

 しかし、今となっては、それがなくてよかったと思ってしまう。

 上司から言われたクビの宣告が、ずっと頭の中を反響して消えない。こんな状況で家庭を持っていたら、そう思うと独り身で良かったのかもしれないという気がしてくる。


 人工知能、いわゆるAIが目覚ましい技術進歩を見せ、これまでの仕事は殆どが台頭された。

 そりゃあ、AI様の方が作業効率はいいし、費用もかからない。勤めていた会社も、本格的にAIを導入し、成績の悪い奴からクビになっていく。言うまでもなく、その内の一人になってしまったのだ。


「飯でも食おう」


 いつまでも自宅の玄関で突っ立っているのもおかしい。夕飯の準備をしようと意気込むが、実際、腹は減っていなかった。昨日の残りのシチューを一杯食べただけで十分だった。


 風呂に入ると、張り詰めていた思考が解けて、はっきりと姿を現してくれた。

 不安はない。それよりも、虚脱感というかやるせなさというか。その類の感情が大きい。


「次の仕事、探さないとな……」


 そう言って、その日はすぐに寝てしまった。




 その事件のことを知ったのは、それから二週間ほどしてからだった。

 退職まで残り三日となったある朝、何気なくTVを見ていると、AI機器が破壊されるといった内容が報道されていた。

 工場を解雇された男が、その恨みをAIにぶつけた、というものだった。

 

 まるで他人事とは思えなかった。

 

 AIの普及で、人員が必要なくなったために職を失ったのだ、彼も。すぐに彼の考えたことが解った。AIさえなければ、解雇されることはないのだ。だから、AI機器を破壊し、人間が職を得るチャンスを作った。彼の行動は、ただの反抗ではないのだ。人間が何もかもを奪われないための反抗。


「俺も…………はぁ……」


 一瞬、作戦を実行に移せるほどの自信を感じた。しかし、それは虚像だったかのように消えてしまった。宿題をやろうと意気込んで、すぐに飽きるあの現象と同じだ。

 一度、冷静になってしまうと、再び熱が入ることは難しい。


 ――自分には無理だ。


 気落ちした背中で、会社へと向かった。

 しかし、通勤中の電車で考えた。AI機器を壊すという手法は、既にニュースで報道されてしまったのだ。報道を見ていた人の中には、時代の進歩に振り払われた者もいるだろう。そういった者たちに、新たな選択肢を与えることになってしまったのではないか。

 AIの普及を留めることで自分たちを守る、という方法を知ってしまった。

 あの報道のせいで、今後、同じような事件が多発する可能性がある。個人的には、大変にありがたいことなのだが。

 人々が職を求めて暴動を起こす。そういえば、イギリスの産業革命のときも、このようなことがあったと習った。

 同じことが、未来でも起こってしまうのだろうか。歴史は繰り返すというには、再発するのだろう。

 そうなる未来を、密かに楽しみにしつつ、やるべきことがあることを思い出した。


「人にしかできない仕事、探さねぇとなぁ……」


※この作品はフィクションです。

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